第55話   長げ~し、うぜ~し

「長短」という落語がある。やけに気の長い長助とやけに気の短い短七の、正反対の性格の二人の会話が面白い。因みに長助の話しっぷりはこうである。

短「ゆんべ~夜中に起きてね~ 驚いちゃったぁ」

長「火事か?」

短「火事じゃぁ~ねえ~んだ~よ。ションベンがぁしたくなってね。便所に行ってぇションベンしたらぁ・・で、窓から外を見ると・・・おめえの前だがぁ~~ビックリしちゃったよ」


で、何がビックリしたのかという話だが、かいつまんで言うと簡単なことである。

用を足しながら窓から外を見ると、星ひとつないのに空がボ~っとなって、この調子でいくと明日は雨だろうなと思ったら、やっぱり雨だった、とこうだ。

気の短い短七のことだから「今朝の雨を、昨夜のションベンから言わなければ言えないのかよ」と呆れて怒ってしまう。


 と、前置きが長くなってしまって、これこそ長助の話しぶりと同じと言えそうだが、私の話し方や文章も全てこの類であるので情けない。



 先日、カクヨムのコンテストの中間選考発表があり、コメント欄は仲間同士のお祝いの言葉で賑わっている。嬉しさや感謝の気持ちが伝わってきて、一つ一つ読ませてもらいながら私も心の中でおめでとうを言っていると、私の近況ノートにもおめでとうの声が寄せられた。思いがけないことだったので、教えて頂いたお蔭で私も急きょそのおめでとうの輪に入れてもらうことが出来た。


 嬉しがり屋の私である。早速この喜びを娘に伝えたはいいが、喜びが半減してしまう結果となった。何故ならば、あの長助ばりの伝え方が宜しくなかったせいである。日頃の私の長助のような話しっぷりは、孫にはいつも「長げ~し、うぜ~し」と話が始まると直ぐに、私の傍から姿を消されてしまうのだが、今夜は流石に娘も孫と同じように、私の話のまどろっこしさに呆れてしまって、「長げ~し、うぜ~し」の様子がもろ見えだった。


 短七が長助に今朝の雨を、昨夜のションベンから話さなきゃ言えなかったのかと怒ったように、娘は私に中間選考突破の話を、何故そのようにグダグダと長い説明から話さなければならないのか、と少し怒り気味なのである。突破した嬉しさを聞いてもらいたいならば、まず最初にそれを言うべきだ。突破したと結論から話して、それはどんなコンテストなの?どれ位の人数が応募したの?、と次々と聞き手に関心を持ってもらえるようにするのが肝心なのだと教えられた。


 確かにそうだと納得をし、今後はそのように注意して話そうと心に決めた。けれどもこの話題での話したかった大事なことが、中間選考突破なんでしょうと娘に指摘されたけれども、私にとっての大事なことはそこではなくて、娘に嫌われたこの長助ばりのグダグダと長くなってしまった詳細部分であった。何千人もの人が応募してまるでお祭りのように賑わったこと。そして皆で応援しあい、結果が出るとおめでとうと喜び合っている、この景色?がステキだということが、私の長助もどきの説明ぶりで上手く伝えられなかったということである。長々しい説明ではあるが是非とも先ずそれを聞いてもらって、そんな中に自分も入れたんだよ、と言いたかったのである。


 昔、応募作品が辛うじて入選したり二次選考突破したこともあったが、その時は今回のようにカクヨム仲間で喜び合うような感激は経験していない。だから話の一番大切な部分は中間選考に突破出来たことではなく、コンテストのお祭りの詳細なのである。楽しく聞いていた推しの配信を、途中で中断してまで聞いてくれた娘にしてみれば、私のそういう事情はさておいて、結論→それに関する簡略な説明→喜びの感想と、この順で手短に話して欲しかったのだろう。


 報告の場合でも先ずは結論を述べ、それから順序立ててそれらについての詳細を述べるのがセオリーだ。思えば義母のお世話をしていた頃の私も長助もどきだった。例えば危ないから止めて欲しいことを告げる時、一生懸命に長々と理由を説明してから「だからお義母さん、~~をするのは止めておいてね」とお願いをする私。それを見て娘は認知症の人にそんな言い方は通用しない。「~~するのは止めてね。危ないからよ」でいいのに、危ない理由を延々と聞かせて、よくもまぁ気長に右から左(に抜ける)の人に真剣に説明するものだ、と呆れられていた私だった。


 話すことも小説を書くにしても、長助のまどろっこしさはいただけない。では短七のようではどうかと言えばそれもどうかと困ってしまう。何しろ余りにも気短で、長助のもったらもたらした煙草の吸い方に業を煮やして、「ええい、煙草ってえやつはこうやって火ィ点けてスッと吸ったかと思ったら、こうやってすぐにはたいて(煙草盆の縁で叩き)、もっと急ぐ時にはな吸う前にもう消しちまうんだ」という程なのだから、どちらもお手本とはなれないようで。


 長助や短七の大した役にも立たない例えで、ここまで書き進めてきている私は、やはりグダグダと冴えない話しっぷりの長助を笑えない、「長げ~し、うぜ~し」の駄文書きのローバとしか言えないようである。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る