第29話  いちびりのローバ

 第15話でNさんが入院された時に、やたらと入院患者さんに「辛いね~辛いね~」と声をかけてくる女性のことを書きました。Nさんは辛いね~と言われることが辛くて、密かに名付けた「辛いねおばさん」の親切に閉口したそうです。


 退院して難(?)を逃れてほっとしたNさんでしたが、再度の入院で今度は「いちびりおばさん」に悩まされることになったとか。関西方面でよく聞く「いちびり」の意味は、調子にのってふざけたりはしゃいだりすること、だそうですが、その方はどんなつもりでいちびったのでしょうか。



 学生時代に落研(落語研究会)にいた私はよく洒落を言っては、うけたりすると喜んでおりました。落研や友人達の間ではいつも洒落が飛び交っていましたから、私にとってはお金のかからない安上がりの娯楽のようでありました。


 しかしこの洒落も、相手や場所を考えずに安易に言っては、ただ不真面目としか捉えられかねません。保護者会では場を和ませるつもりで発した言葉に、とても生真面目なお母様には、ふざけていると思われたことがありましたし、お葬式の時では軽く洒落たつもりの言葉に、不謹慎だと叱られた(ローバに非ず、念の為)人もいましたから要注意です。


 こんな幾度かの経験から、誰もが洒落を解する訳ではないことや、嫌いだと思う人もいること、そして笑えない場所では決して言わないこと等を肝に銘じました。

 落研の先輩でもある我が夫の馬さんにも、気を付けなければならないと思えることがありました。馬さんの特技のような洒落は、仕事先や友人との会話でとても有意義なものでしたが、そうとも思えないこともありました。


 ある時、馬さんの仕事関係の繋がりで出来た会に、新しく仲間が入ってきました。その会の仲間とはもう何年もの付き合いでしたから、洒落や冗談でいっぱいの楽しい会でありました。わあわあ楽しく話している時に、仲間の一人が新入会員に転職した時の理由について尋ねました。

「あんな大企業を勿体ないなぁ、何で辞めたのよ?」

 その質問にすかさず馬さんが、当時大流行したCMの台詞を真似て、

「私はこれ(小指を立て)で会社を辞めました」

 と洒落ました。皆も一緒に「これで会社を辞めました」と小指を見せて笑いました。


 大笑いする皆に新入会員の怒りの声がすると、その場がシーンと静まり嫌な空気が流れました。何のことか分からないまま、また馬さんはいつものような会話で繋ぎ、和やかにその日は解散となりました。何故彼が怒ったかは後日に分かりました。

80年代のCMでこんなのがあったのを覚えていらっしゃいますか。

「私はこれ(禁煙パイ〇)でタバコを止めました」

「私もこれ(禁煙パイ〇)でタバコを止めました」

「私も   ・・・・ 」

「私はこれ(小指を立てて)で会社を辞めました」という禁煙用たばこグッズのCMです。馬さんには何の悪気も無かった筈でしたが、その彼にはピッタリ当てはまるCMだったのです。


 全く悪意はなかったにせよ、洒落のつもりが洒落にならないことがある、ということを深く思い知らされた馬さんと私でした。そんな風にこれまでに多くを学習をしてきた筈なのに、カクヨム若葉マークのローバは大きな失敗をしてしまったのです。


 私の作品を一気に沢山読んで下さった方に、丁寧なコメントまで頂いたものですから、嬉しがり屋のローバはすっかり舞い上がってしまい、新参者であることも忘れて、まだ馴染になれていない方であるにも関わらず、調子に乗った返信を送ってしまいました。


 嬉しがり屋のうえに、ローバには困ったことに相手に喜んでもらいたいという、ちょっとウザイところもあって、それが裏目に出てしまいました。己を弁えない「いちびりのローバ」の勇み足でありました。良き読者になりたい一心で書いたコメントが、読者失格で迷惑をかける結果となりました。後にその方が幾つかの病気と闘っておられることを作品で知った時、いちびりローバの軽率さが具合の悪さを増やしてしまうのではと悩みました。


 自責の念から退会を決心した私を、沢山の方々が引き止めて下さったので、ご厚意に甘えて自分への罰とし、生き甲斐になってきたカクヨムから10間離れるPC禁止を決めました。

 

 待ち遠しい謹慎が明けた時のローバは、出所した人が警察署の前でお詫びする人のような気分になりました。「これからはいちびることなく真面目に・・」と固い決意で臨んだローバに、多くの「お帰りなさい」の優しい声がかかり、胸がいっぱいになりました。


 その中に「娑婆に戻ったローバ」とでも洒落たような「お勤めごくろうさま・・」の声があり、あまりにも心境にぴったりの一言に、一瞬ギクッとなり思わず「そんな~・・」と呟いたローバでした。が、そこは大いに的を射た洒落に「お蔭さまでシャバシャバした気分です」と返信致しました。これは流石に寄席ファンであり川柳作家でもある医師脳先生の洒落のひと声ですから、私も洒落で応えたつもりでありました。


 大人しく先生の熱心な「いち読者ローバ」でいればいいものを、医師脳先生にはその後もずっと、医学界の偉大な先生であることもお構いなしに、昔の落研仲間と同じような気分で「いちびりのローバ」は、恐れを知らずに下手な洒落でコメントさせて頂いています。


 それから、最近何度かコメントを下さって親しみを感じているHさん。今頃どうされてるかなと思っていた丁度その時に、コメントが届きました。その初めの「お久しぶりです・・」の一言に、本当に久しぶりなのが嬉しくて、ついダンディ坂野氏のギャグで「お久しブリーフ」と返信に書いてしまいました。


 あ~やっちゃった・・「いちびりのローバ」め、と後悔しました。折角のお友達(勝手に思ってます)が去って行く~と悔やみました。 ヤケッパチで♬アジャラカモクレン・テケレッツのパー と歌いました。これって大好きな「死神」という曲で、その中に「いちびりのガキ」という言葉と、「アジャラカモクレン・・」の呪文が出てくるのです。


 あ~あこれでは何だかんだと言いながら、この曲が好きって言いたいだけの第29話なんじゃない?とバレバレでしたね。何とも面目ない、実は落語「死神」に出てくるこの呪文を、「死神」という曲の中で作者が見事にメロディーに乗せているのが嬉しくて、つい余計なこととは知りながら「いちびりのローバ」はここに書いてしまったという訳です。


 「いちびりおばさん」から「いちびりローバ」に。そこまでは真面目にいっていたのに、やはりお調子者のローバは、歌詞の「いちびりのガキ」から、ついには「テケレッツのパー」まで進んでいって、まるで曲紹介のように引っ張っちゃうんですから、真剣に読んで下さってる人からは、お叱りの声が聞こえてきそうです。毎度ながら「妙ちきりんなローバ」は今回も又、お詫びで終わらねばなりません。

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