第45話   長~い なが~い

スマホは何でも教えてくれる便利なものだ、といつも感心しきりの私である。スマホを忘れると何か落ち着かなくて困ると言う息子の言葉に、バカげたことをと笑っていたのに、今ではすっかり同感の私だ。ガラケーからスマホに代わったばかりの時、面白半分で質問をしてみたことがある。投手大谷さんがマウンドで指先をペロリと舐めているのは何故か。そんなおちょくりローバに、スマホはあれやこれやと答えを返してくれたのにはびっくりしてしまった。


 これまでは知りたいことがあると電子辞書に頼って、いやぁ、何でも教えてもらえてありがたいと喜んでいたのに、今では褒める対象がすっかりスマホに代わってしまっている。奮発して買った私の電子辞書を羨ましく思った夫は、私の物より更にグレードアップした物を買った。それはカラーの写真が綺麗だったり、動物の走る姿が見られたり、鳥の鳴き声が聞こえたりした。しかもクラシック曲が数えられない程聴けるので、今度は私の方が羨ましくてたまらなくなった。この曲は何だったっけ、モーツアルトの・ショパンの・マーラーの・・と、貸してもらっては楽しんだ。


 それが今ではスマホがその役割をしてくれるので、電子辞書の出番は皆無となってしまった。スマホのもっと凄いのは、あやふやなヒントからでも答えを導いてもらえるという技だ。例えば「ニラのような葉っぱ・白い花・春に咲く」で「ハナニラ」とか「玉すだれ」などと候補が出てくる。


 色々と可笑しなヒントで遊んでいるうち、知りたいものが浮かんできた。こんな下らないヒントでヒットするだろうか。「天から・長~いなが~い・落ちてくるもの・ふんどし」とやってみた。阿保かと笑われそうだが、私には本当に知りたいことなのである。果たしてそれは・・と思った瞬間にもう出てきた。大昔から伝わる話で、妖怪図鑑には天から地上に届くほどの長いふんどしの妖怪の図まで出ていて、「ゲゲゲの鬼太郎」に出てくる一反木綿によく似ている。


「むかしむかし、天から長いふんどしが下がったとさ。たぐってもたぐっても長くてたぐりきれない。長くて長くて・・」と聞き手が止めるまで続く話。 

解説には昔話をせがむ子供達をはぐらかしたり、諦めさせたりする為の短い話とある。そうだったのかと納得しつつ、自分の子供時代を思い起こしてみる。



 私は母が40才の時、19才の長男を初めとし、18(女)14(女)12(男)8(女)の兄姉の6番目の子として生まれた。既に5人もいるのでおまけの子のようなものかと思ったが、このおまけを一番喜んだのが長兄だった。貴美子という名前も考えてくれて、とても可愛がってくれた。私は小6まで母親と一緒に寝ていたが、しばしば兄の布団にもぐり込んでは話を聞かせてもらって寝ることがあった。


「昔々あるところに」で始まり、幾つもの話を聞くのが楽しみだった。兄はとてもユーモアのある人で、面白可笑しく話してくれるのでなかなか眠れない。もっともっととせがむうち、「男の人が歩いているとな、天から長~い長~いふんどしが落ちてきて・・」になるのが決まり文句のようだった。毎回それを聞く度に、「ふんどしの話は嫌だ、違うのがいい」と言うと「よし、そんなら・・」と言って違う話が始まるのだが、途中で必ず「ふと天を見上げると、長~い長~いものが下りてきて、おやこれは何だろうと・・」になり「ふんどしでしょ、もぉう、ふんどしは嫌いだってばぁ」のやり取りになって、そしていつの間にか寝てしまうというばかばかしい思い出だ。


 茶目っ気いっぱいの兄だったから、きっと私をからかって喜んでいたのだと思っていたが、そうとばかりではなかったのかもと、スマホの解説から思わされた。そうか、もっともっととせがむ私を早く寝かせる為の、長い長いふんどしの話だったのか。



 長~いといえば私の話しっぷりもやけに長くて、家族はみな迷惑気味である。娘は年寄りとはそんなものだからと我慢して聞いてくれるが、孫には結論だけでいいと急かされるので、尚のことグダグダと長くなり「長げ~し、うぜ~し」と容赦なく切り捨てられ、伝えたい要件まで届かないうちに立ち去られてしまう。孫だけに限らず現代の若者には、長々としたことは敬遠されてしまうらしい。音楽でもイントロの長い曲はあまり好まれないそうだ。短く要点だけをサッと言えるようにならねばと反省だ。


 カクヨムにおいても、私は作品に頂いたコメントへの返信文が、どうしても長~いものになってしまい弱っている。実のある内容ならいざ知らず、埒も無いことを長々と書き、いつも申し訳ないと絵文字のマークも入れて謝りっぱなしだ。そのうち「長~い長~いふんどし並みのコメント」とあざ笑われるに違いないと密かに心配している。


 正さねばならないのは分かっているのだが、何しろおしゃべりローバなのでとても難しい。そのうち呆れた皆様から「長~いコメント要注意!」のメッセージが届けられるか、又はコメントなしになってしまうのかとビクビクしている。どうか読んでさえもらえなくなることだけはありませんように、とカクヨムの神様(いたっけか?)にひたすらお願いしている。


 さてここまでの間、幾度かふんどしという文字が出る度に、ちょっぴり恥ずかしい思いになっている私だが、それほど気にする必要はなさそうだ。その良さが数年前から女性の間でも話題となってTVでも紹介され、「ふんどし女子」と呼ばれるお洒落な愛用者が増えているのだそうだ。ならばこちらも洒落で「ふんどしローバ」と呼んでやろうか、などのご親切はぜひとも無用で、と真剣にお願いするローバなのであります。

  


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