第42話   80(ハチマル)の問題?

 近況ノートで大田康湖さまが、歯周病の改善が見込まれないので抜歯された、

との報告がありました。

この酷暑の中での抜歯だなんて、さぞ苦痛であったでしょうとお察し致しました。私も近々手術を予定していますが、涼風が吹いてからにしてほしいと願っています。しかし娘からは、絶空調(洒落?)の病院の中では酷暑も残暑も関係ないでしょうと言われて、それもそうだなと納得致しました。


 けれど、康湖さまの場合はどうでしょう。お部屋がエアコンが効いてるから大丈夫、という単純なことではなさそうです。3日間化膿止めを飲み、ブリッジ作りにも通わなければならないそうです。憂鬱です、の文字を目にしておばかなローバは、彼女の心持ちを何だか妙に受け止めてしまいました。


 そこで早速コメントを送信しましたところ、これはエッセーになりそうなエピソードではと言って頂いたので、お調子者のローバのこと、50年以上もの昔の話を42話で聞いていただこうと張り切りました。



 子供の頃、はす向かいの歯科医院に私の大の仲良し姉妹がいて、毎日のように遊んでおりました。私の家で遊ぶこともありましたが、殆どがその歯医者さんちが私の憩いの場所でありました。お金持ちでしたから玩具も絵本も何でも沢山ありました。おやつの時間にはうちでは出てこないケーキなんかもご馳走になったり、眠くなるといつの間にか昼寝をしていたり、とまるで自分の家のような居心地の良さでありました。


 そんなに入り浸っていたのに、中学生になると不思議と遊ぶこともなくなりました。私は排球部(バレーボール部)で過ごしていましたし、彼女達は熱心に勉強していたのでしょう、いつしか疎遠になりました。


 その後、私より一つ年下のM子ちゃんは、いつの間にか私と同じ東京でN歯科大学生になっておりました。ある日母からM子ちゃんが患者さんを探しているという旨の電話がありました。歯茎から血が出ていたことのある私に、オペの実験台?になってやったらどうかというのです。


 長い間付き合いの途絶えていたM子ちゃんでしたが、仲良しさんには違いありません。あれ程入り浸って良くして頂いたお礼になれればと思い、軽く引き受けてあげました。そのオペというのは悪い歯茎の肉を削り取って再生させる(詳しくは分かりません)というものでありました。


 痛い注射を何本も打ちました。麻酔が効いているとはいえ、教授が学生達にしている説明を聞いているだけで、凄いことが行われているのだと感じました。安請け合いはするものじゃない、いやご恩に報いるのは当然のこと、と心の中では暫し戦いが続いておりました。


 終了後には怖さから、口の中がどうなっているのか見ることはしませんでしたが、恐らく前歯の歯茎の削られた部分は、何かグミ状のマウスピースのようなもので押さえられていたようでありました。


 前歯を覆うその異物は、物を食べるにも話をするにも、とても不自由な物でした。そんな状態での電話で自分の名前を告げた時に、聞き取りにくかったせいか何度も聞きかえされた結果、「倉持金子さんですね」と相手方が復唱致しました。どう間違えたってそんな名前になる訳がありません。

いくら言っても通じず仕方なく、「朝日のあ、いろはのい・・」のように、しっかりと説明しながらやっと通じる始末でありました。


 そのうちに中々縁起がいい名前だなぁと嬉しく思えてきて、皆にもそうだそうだと大笑いされました。そのせいか私には運が向いてきたらしく、嫁ぎ先では蔵が建つほどの金持ちではありませんが、そこそこお金には困らない暮らしが出来ました。

本当にここまでの私は「倉持金子」でありました。



 「倉持金子」になって40年ほど過ぎた頃、世間ではバブルが弾けて我が家も次第に暮らし向きが傾きだし、貧乏のどん底へと堕ちて行きました。私のまたの名は? そう、「倉持金子」だったではありませんか。なのにおかしい、何故だろうと真剣に考えました。そしてその時になってやっと、私は「倉持金子」ではなく、「倉・持ちかねる子」だったのかも知れないと分かりました。お後が宜しいようで・・。


 ってな具合のあまりにもばかばかしい話に、憂鬱な康湖さんには憂鬱を吹き飛ばすどころか、却って不快感が増してしまったことでしょう。



 さて、8020運動というのがありました。大切な歯の話を茶化しているローバはどうかといいますと、8020なんて夢のような数字で、8002さえ覚束ない情けなさであります。歯の健康を疎かにすると、呆けにも影響が及ぶそうです。そのせいでしょうか、自覚が・・・。


 あと5年で80才のローバには、8020と同じく8050も真剣な問題であります。その頃には3人のアラフィフの子供達が、どんな風でいるかが心配でたまりません。何しろ出来の悪い息子を持つ独り親である娘と、2人の独身息子がおりますから、心配性のローバはなかなか気が休まりません。



 さてさて、康湖さまへのコメントに肉付けした思い出話から、このまま放っておくと更にお墓の継承問題にまでいきかねないローバの「歯無しの話」。なんだそんなことか下らないとさぞ歯科り、いえ叱りたくなられたことでしょう。歯科た、いえ仕方なくここまでおつきあい下さいました皆様には、康湖さまからの歯を大切にというメッセージが伝わりましたでしょうか。


 どうやら肉付けしたバカバカしいエピソードは、削ぎ落としを急がねばならないような気が致します。作業に入る前に、いつものことながらおバカなローバは、皆様の深いお心に感謝申し上げる次第でござりまする~ぅ。🙇






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