第3話 私をリングに連れてかないで!
「ローバの充日」に永嶋良一さまがレビュー紹介文を書いて下さいました。とても有り難いことでありました。その迫力満点な応援文が「私をスキーに連れてって」いえ、私をリングに連れてってくれようというものでありました。
律儀な私は腰や膝に爆弾やら不発弾やらを抱えている現状にも目を瞑り、永嶋さまの場内アナウンスに従い、ババシャツとババズロースでコスチュームを整え、ヨレヨレのステップで無理やり登場しようと勇気を奮いました。
しかしながら、対戦相手のヒール美魔女のように幾多の悩殺技も持ち合わせてはおらず、それどころかリングに上がるにもまだフォークリフトの手配もできてはおりません。
なのに、なのにです、永嶋さまは会場の皆様に「ローバ、それローバ」とたきつけるじゃありませんか。これではまるで贔屓のひきたおしというものでありましょう。
そんな時、ふとあの芸人ヒロシ(敬称略)が私の腐敗しかけた脳裏に浮かびました。 彼のムーディーで切ないテーマ曲「ガラスの部屋」が流れヒロシが登場です。
「一生ついて行きまっすて言われましたが誰もいません。・・・みんな死んだとでしょうか。ヒロシです、ヒロシです、ヒロシです・・・」 名作です。
そこで私はすぐに永嶋さまに感謝のコメント返しです。名曲もお借りしましょう。
「貴方は星をくださいました。すごく嬉しかったです。 でもこれリングマネーとちゃうんか、と言われたとです。・・・ヒドシです、ヒドシです、ヒドシです・・・」 迷作でしょう?
そしたら調子にのってまた、迷作を生んだ腐敗しかけの脳裏に記憶が蘇りました。
ローバの前、老女になりたての頃のことです。私は義母の不慣れな介護に専念致しておりました。 次第に介護度があがっていくと、部屋のあちこちに小さな水たまりのようなものが出来るようになりました。大人だけならば何とか注意して過ごすことはできましたが、幼い孫との同居でしたので対策を考えねばなりません。
その時、元東京都知事の舛添要一氏の著書「母に襁褓(むつき)をあてるとき」を思い出しました。お若い方、おむつのことですよ。あ、ご存じで? スミマセン
きみちゃんきみちゃんとかわいがってくれた義母に、どうやっておむつをしてもらえばよいのでしょう。 申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
紙パンツを手にだいぶ考えてしまいましたが、その頃はまだ私の脳は活躍中でありましたから、すぐに名案がうかびました。
ここからです、さあお立会いのみなさま・・・ 今までのよぼよぼレスラーの下りがここに繋がりますよ、お立会い!
ババズロースではなく黒の長下着、早く言えばモモヒキ!です。 あの百人一首・・ももしきや ふるきのきばの なんちゃらかんちゃら・・・ あ、ももひき、でした。元に戻そう。
私は黒のタイツもどきのももひきを履いた上に真っ白な紙オムツを重ね履きし、義母のもとへ行きました。
すると義母はすぐさま私の手元に目が行き、「まぁ、フワフワで真っ白で・・・」と感想を言い、「お義母さん、私これ履こうと思うんだけど良かったらお義母さんもどうかし・・ら 」
私は一生懸命でした。オムツを履いて欲しいなんてなかなか言えません。お義母さんのプライドを汚してはならぬと思い、私も履くからと言えば少しはダメージが少なくて済むでしょうとの、嫁心のつもりでありました。
しかしその心配は微塵も必要ありません。モーマンタイ、無問題、心配ご無用でありました。有り難いことに義母はかわいいものとか、ふわふわ、ふっくらとかが大好きでしたから
「わたしに? 貰っていいの? ステキだねぇ」等々の超ナイスなコメントを残し、さっそく部屋に持って行ってしまいました。
残されたレスラーもどきの私はどうすればよいのでしょう。 恥ずかしい。そしてちょっぴり惨めでありました。覆面レスラーにすればよかった、なんて言ってる場合じゃありません。
このばか嫁の猿芝居!と人は笑うことでしょうねえ。 迷大根女優のおむつの説明の台詞なんて全く聞いてはくれないし、その上恥を忍んでのこのいで立ちにも、全く視線を注いでくれなかったのですから、トホホであります。
でも努力は報われました。お洒落が大好きな義母のタンスの引き出しには、大切な衣装と同じように、何枚かの真っ白ふわふわの紙パンツが並べられてありました。
レビューの格調高き紹介文からお見苦しいと言いますか、何とも不気味な思い出話を聞いていただくことになり、大変申し訳なく思います、お許し下さいませ。
「ローバの充日」だなんてふざけたタイトルに相応しい、お馬鹿な私の思い出にお付き合いいただき誠に有難うございました。
お蔭さまで今日も幸福感に浸れた「ローバの充日」となれました。
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