第2話 門衛さんの妻の件


 俺は城を放り出された後に、案内された宿の部屋で自分のステータスを確認していた。

「ステータス」


 オープンをつけなければ、自分だけが見れる様になると教えてくれたのは、門衛の人とその奥さんだ。

 城門を守る門衛の人、エイダスさんはもう少しで交代になるからそれまで、そこ(城門を出て直ぐの木陰)で待っていてくれと俺に声をかけてきた。

 元々急ぐ訳ではないので言われた通りに待っていた俺。

 暫くすると兵士の服装を脱いで平服になったエイダスさんが出てきた。


「俺の名前はエイダスという。仕事は城門の門衛だ。さあ、この先に軽食が食べれて個室のある食堂があるんだ。そこに行こう」


 そう言って俺を案内してくれるエイダスさんに聞いてみた。


「あの、どうして俺を?」


「ああ、あんた召喚されたものの、城の偉いさんから役立たずって放り出されたんだろ? 

俺は門衛になって十五年になるが、あんたのような奴を今までに五人見てきた。そして、そいつらがこの世界の知識もなく、無様に死んでいく様もな······ 

ただ、それは二人目迄で、四人目からは俺が声をかけて、この世界の常識を教えてやると、何とか生活の目処を立てて、皆が立派に生きている。

二人目まで声をかけなかったのは、そんな存在だと知らなかったのもあるんだ。しがない門衛には情報が降りてこないからな。

三人目は向こうから声をかけてきてな。そして、常識や金銭価値なんかの違いを教えてやったんだ。その三人目の奴に、自分の後に自分の様に城を放り出された者がいたら、出来るだけ助けてやってくれって頼まれてな、あんたに声をかけた訳だ」


 そう聞いて俺以外にも召喚された上に放り出された人がいるのかと、心の中で安堵した俺。

 しかも、一人目、二人目は亡くなってしまったようだが、エイダスさんの話だと三人目以降はこちらで生きているようだ。

 その事を聞こうと思ったら食堂に着いたので、中に入る。


 エイダスさんは慣れた様子で中にいた可愛らしいに声をかけた。


「エル、個室は空いてるか? 空いてたら何時もの食事を二つ頼みたいんだが」


「いらっしゃい、エイダス。個室は空いてるわよ。食事は出来たら持って行くね」


「おう! 頼んだ。さあ、こっちだ」


 俺に声をかけて店の奥に行くエイダスさん。


 奥にある扉を開けて中に入るエイダスさんについて俺も中に入った。

 そして、向かい合わせで席に着く。


 俺は先ずは自己紹介した。名乗ってもなかったことに今さら気がついたからだ。


「俺はトウジと言います。こことは違う世界から召喚されたようです。が、先程エイダスさんが仰ったように役立たずということで放り出されました」


 エイダスさんはニコニコしながら俺の言葉を聞いていた。

「俺はさっきも言ったが、エイダスだ。

そして、あんたと同じ様に召喚されたけど城を放り出された者に、ほんの少し手助けしている。

さっきは言わなかったが、実は三人目の俺に声をかけてきた女性が、俺の妻になるんだ。

妻の願いを聞いているだけだから、あまり気にしなくて良いからな」


 エイダスさんの告白に俺は衝撃を受けた。失礼だが、エイダスさんと結婚した女性はかなり肝が座っているなと思ったからだ。

 何故なら、声は優しいがその顔つきは凶悪だ。知らない子供が見たら泣き出す事は俺が保証する。

 左の目尻から、口元にかけてある大きな傷痕に加え、鋭い鷲のような眼光である。

 はっきり言って夜道でいきなり出くわしたら、俺は叫ぶ。助けてもらうのに失礼な言い草だが、事実なのでしょうがない。

 そんな事を考えていると、先程のが食事を三つ持ってやって来た。

 ん? 三つ?


 そして、そのも何食わぬ顔で席につく。


「さてと、トウジ。紹介しよう。俺の妻のエルこと、エリコだ。トウジと同じく異世界から召喚されたが、城を放り出された者の一人だ」


「エエーーーッ!!」


 俺はビックリして叫んでしまった。この可愛いがエイダスさんの妻・・・


 俺が衝撃に固まっていると、エルさんが俺に声をかけてきた。


「初めまして、トウジさん。私は日本でエリコという名前でしたが、こちらで生活していくのに当たり、エルと名乗る事にしています。

だから、トウジさんもエルと呼んで下さいね」


 その言葉を聞いて何とか衝撃から立ち直った俺はエルさんに聞いた。


「あの、女性に聞くのは大変に失礼な事ですが、年齢を教えていただいても······」


「クスッ、良いですよ。私は二十二歳です。

召喚されたのは、十六歳の時でした。私の時は他に三人が一緒だったんですけど、私だけ放り出されたんです。

その時にエイダスに助けて貰って、二十歳でエイダスと結婚しました」


 少し顔を赤らめながらもそう教えてくれたエルさん。俺は内心で悔し涙を流した。

『くそうっ! 俺の好みドストライクの人が既に人妻とは······』


 そんな俺の内心を知らずにエイダスさんが続けて言った。


「エルは生命力も魔法力もこの世界の者よりも低くて、スキルも料理Lv.MAXしか持っていなかったんだ。

だから、城から金貨十枚を渡されて放り出されたんだ。今は俺と一緒にレベル上げをして、レベルが28で、スキルも料理以外に、初級の火と水魔法に、調味料作成Lv.7を持っている。

この店は俺とエルがレベル上げの時に、狩った魔物の素材を売った金で開店したんだ」


 俺はそこで心配して二人に聞いた。


「あの、見ず知らずの俺にステータスやスキルを話してしまって大丈夫なんですか?」


「大丈夫だ、全部は言ってないしな」


 エイダスさんがそう言うと、エルさんも


「例えば貴方が城に残された方だったら、教える事はありませんし、レベル1の方には負けないだけの力もありますから」


 とニッコリ微笑んだ。

 そこにエイダスさんからビックリな情報を教えてもらった。


「トウジ、例え初期能力が低くても心配しなくて良いぞ。

エルもそうだが、異世界から召喚された者は、早ければレベル3から、遅くてもレベル8から飛躍的な成長をするようだ。

勿論、初期能力が高い者に比べたらそれでも低いんだろうが、この世界の者よりは高い。

因みに俺のレベルは35だが、能力値はレベル28のエルの方が高いんだ」


「トウジさん、もし構わなければ私達二人にステータスを見せてくれませんか? 

何かアドバイス出来るかも知れないから」


 そう言われて俺は、この二人は信用出来ると考えて、了承した。


「ステータスオープン」


 名前:トウジ

 性別:男

 年齢:三十二

 職業:無職

 レベル:1

 生命力:80 魔法力:50

 体力:50  魔力:30  器用:80  敏捷:100

 攻撃力:50(武器無し)

 防御力:40(防具無し)

 スキル:無


 現れたのは、城で見たのと同じだった。

 

 俺のステータスを見た二人は何かを感じているようだった。

 


 

 

 


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