第75話 温泉に向かう途中の件
俺達は今日は温泉に向かう。帰りにまたこのヤカラ町に寄る予定なので、
南に五十キロだという話だったので、俺達は町を出てから馬車を出して時速二十キロで走らせた。道は街道よりは狭いのだが、馬車二台がすれ違う幅はある。すれ違う馬車の
今日は横にテツが尻尾をフリフリ楽しげな雰囲気で乗ってくれている。俺もテツに話しかけながら気分良く
町を出て一時間程進んだ時に、道から外れて横転している馬車を見つけたので、そちらに向かうと執事らしきオジサンが近寄ってきて、俺に声をかけてきた。
「申し訳ございません。突然で悪いのですが、私どもの馬車が車輪が壊れて横転してしまいまして、往生しております。そこで、謝礼は必ずお支払しますので、私どもの
おお、随分と低姿勢で頼まれたな。馬車の横で奮闘している人が二人いるけど、男女だけどひょっとしてあの二人がこの人の
「まあ、ちょっと待ってくれ。馬車を何とか起こしてみよう。それから直せるようなら車輪を直してやるよ」
俺はそう返事をして
「申し訳ないです。お手をお借り出来ますか?」
と言ってきたので、俺は
「取り敢えず、馬車を起こすから馬車から離れてくれ」
と二人に言った。男性の方が
「そんな、お一人では無理ですよ。私どもも精一杯力を出しますので、どうか一緒に」
と言ってきたが、スキルで一度収納させて貰って、出す時に起きた状態で出すからと説明した。二人は馬車を収納出来るなんてと驚いてたけどね。
俺は無限箱に一度馬車を入れて、起きた状態で馬車を出した。その時に整理機能を使ってめちゃくちゃになっていた中の荷物もキレイにまとめておいた。
入って三秒もしない内に起きあがった状態で出てきた馬車に二人はビックリしつつも、俺に有難うございますと礼を言う。俺は車輪が外れた場所を確認してみた。そしたら軸が折れてしまっている。これなら派手に横転しただろうと思い聞いてみたら、どうやら先程の執事さんが八メートルなら五人まで転移出来るらしく、横転しかかった時に二人を連れて外に転移したそうだ。
おお、短い距離しか転移出来なくてもこんな時は便利だな。
ソコに執事さんもやって来て、俺に礼を言ってきたので、直せるけどどうするか確認してみた。
「おお、直せますか!? しかし馬が……」
そう言えば忘れていた。馬も倒れて起き上がろうとしているけど、足が折れたらしく起き上がれないようだ。俺は馬に無傷をかけた。すると馬は直ぐに起き上がり、俺に体をすり寄せてきた。俺が治したって分かったようだ。俺は馬の体をさすってやりながら、三人に馬も大丈夫だし馬車を直すよと伝えた。
「よろしくお願いします」
男性がそう言ったので、俺は馬車に無傷をかけてみた。
直った。コレには三人とも驚いた。スキルの説明には確かに(物)も入ってたから、モノは試しとやってみたら簡単に直ったよ。
三人に礼を言われ、謝礼ですと角金貨三枚を差し出してきたが、俺は一枚だけ受け取り俺達もこの先の村に向かうから一緒に向かうかと聞いてみた。何故か放っておけない雰囲気の二人だったのでそう聞いたのだが、サヤとマコトも賛成のようで女性の方に一緒に行きましょうと声をかけている。
「しかし、私どもの馬車は足が遅いですよ。遅れるのは悪いですし……」
男性の方がそう言うが、そこで無限箱から出てきたトウサマが足が治った馬の所に行き、馬語?で話をしている。それから、俺の方にトコトコ二頭で歩いてきて、トウサマが俺に言った。
「我が主、馬車とこの勇敢な馬は我とともに居れば主の無限箱に入る事が可能です。そこで、主の馬車一台に皆を乗せて移動してはどうでしょうか?」
「うん? 俺の無限箱は元から生物も生きたまま入れるけど?」
「はい、しかしそれではこの勇敢な馬は中で仮死状態になります。短い間でも我らとともに居れば起きた状態で中に居れますので」
「おお、そうなのか!? それじゃその
俺がそう言うとトウサマはサッサと無限箱に馬を連れて入って行った。俺は直した馬車を無限箱に入れた。
喋ったトウサマを見て固まっていた男性と執事さんはそれからやっと声を出した。
「失礼ながらお名前をお伺いしても? 私はヤーマーラ国の男爵でコンカッセと申します。アチラが妻のサリーナです」
「私はお二人にお仕えしているセーバスと申します」
「俺は冒険者をしているトウジだ。あの二人は俺の妻でサヤとマコトという。さあ、それよりも馬車に乗ってくれ。早速村に出かけよう」
俺は皆を促して馬車に乗った。コンカッセ男爵とサリーナはサヤとマコトと一緒に中に。俺とセーバスは
「コレは凄い! こんなに滑らかに進む馬車は初めてです」
「そうか、それは有難う。俺が作ったんだ」
「トウジ様は冒険者という事ですが、この馬車をニ〜三台作って売るだけで一生遊んで暮らせますぞ」
「いや〜、俺は世界を旅するのが面白いから、そういう気はないな。それより、ヤーマーラの男爵夫妻があんた一人をお供にこんな所まで来ているのは何でだ? 言えないなら言わなくても良いけど」
俺は疑問に思っていた事を聞いてみた。普通は男爵と位は低いが貴族だから、もっとお供が大勢いて、護衛の兵士がいてもおかしく無いはずだ。それが執事一人がお供でこんな所に来ているのは何でなんだろうと思ったのだ。俺の質問にセーバスはトウジ様なら他言はいたしますまいと納得して喋りだした。
どうやら、コンカッセ男爵は元は子爵だったらしいが、ライバル視してくる他の子爵に
「実は既にお手持ちの財産はほぼ無い状態でございます。裏切った使用人にまで退職金を支払う必要は無いと申し上げたのですが、
「ふーん、良い主人だな。お人好しのようだが、慕われるだろう。俺みたいな平民にも丁寧な口調で喋ってくれるし。村についたら何か力になれるかも知れないから言ってくれ」
「そんな、トウジ様には十分、助けていただきましたので、これ以上は……」
「まあまあ、そんなに固く考えなくて良いさ。俺達は村から近い場所にある温泉に湯治に向かってるだけだから、ニ〜三日は居るから何かしらの困り事が出来たら声をかけてくれよ」
「畏まりました。その時には頼らせていただきます」
そう言ってセーバスは頭を下げた。そして、村の入り口が見えてきたが、俺達は屋敷まで送ろうと言って屋敷が建てられた場所まで進んだ。
貴族が住む屋敷にしては小さいが、庭もある二階建ての新築の建物が見えた。そして、門の前には八人の人が並んでいる。どうやって俺の馬車に自分達の
「村の門に立っていたあの男が
だそうだ。いつの間に…… 全然気がつかなかったよ。プロだなと俺は思った。俺が屋敷の門前に馬車を横付けしたら、セーバスがサッと降りて馬車の扉を開ける。するとコンカッセがサリーナをエスコートしながら降りてきた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
八人の声が唱和する。ソレを聞きながら屋敷を見た二人は使用人達に、
「ただいま。そして、皆、有難う。こんなに立派な屋敷が建っているとは思わなかったよ。なあ、サリーナ」
「ええ、貴方。前の屋敷よりもずっと素敵だわ。特にこの前庭は貴方の仕事ね。ネーベル」
「は、はい! 奥様、お褒めいただきまして、有難うございます!」
「ソレに屋敷の玄関は貴女でしょう? クラリス?」
「はい、やはり奥様にはバレてしまいましたか」
皆がコンカッセとサリーナを敬愛しているようだ。ニコニコと笑顔で喋っているので良く分かる。俺達はお
「俺達はソロソロ宿を取らないと行けないから、馬車と馬はどこで出そうか? ここでも良いか?」
そう聞いたら、セーバスから
「何もおもてなししないで宿を取らせるなど、とんでもございません!! さあ、屋敷の敷地内に入って下さい。今日は是が非でもおもてなしさせていただきます! 皆、コチラの冒険者トウジ様と奥様お二人には道中、並々ならぬお世話をかけた。コンカッセ男爵家の名に恥じぬ様におもてなしの準備を!」
「はい、畏まりました!」
うん、コレは諦めて言う通りにしないとダメそうだな。そして、俺達は今日はコンカッセ男爵の新屋敷にお邪魔する事になった。
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