第68話 王都の件

 その日の昼過ぎに俺達は王都に着いた。さすがは王様だ。護衛である俺達も門を素通り出来た。そのまま王宮に向かう。護衛依頼完遂は後ほどメイドさんの一人が冒険者ギルドに行って報告してくれるそうだ。悪いから自分で行くと言ったけど、タイサンが研究時間が勿体無いと言って許してくれなかった。

 いや、俺も王都の散策をしたいからな。研究にかかりきりになるのはゴメンだぞ。そう思いタイサンにそれもはっきり伝えた。


「勿論分かってるよ、トウジ。一日中拘束するツモリはないからそこは安心してよ。クフフフ」


 うん、分かってるなら良いんだが。帰ってきたタイサンがカナンを抱いているのに一瞬だけ躊躇いを見せるが、それでもワラワラと文官らしい人達が近寄ってきた。


「陛下、ハーベラス侯爵の裁判の件について」

「陛下、職能の村から陛下に連絡が」

「陛下、ヤーマーラ国王からの親書が」


 次から次へと要件を言う文官たち。それに次々と返事や指示を返しながら歩くタイサン。その腕には確りとカナンが抱かれている。その後を感心しながら歩く俺達。が、タイサンがピタリと足を止めた。


「何か用事かな? ケイレール」


「ハイ、陛下にお話がございます。ハーベラス侯爵について」


「そうか、ではここで聞こう」


「いえ、ここでは……」


「ほう、余がここで言えと言うのにケイレールは言えぬと言うか?」


「いえ、申し上げます。ハーベラス侯爵は誰かに嵌められたのです。あれ程この国の事を思い、誰も行きたがらない視察にも率先して行ってくれる貴族はハーベラス侯爵以外はおりません。ですので直ぐに釈放の手続きをっ!」


「ならん! ケイレールよ。そなた余がマヌケだと思っておるのか! 余はこの目で然と確かめた。ハーベラスの罪は明白だ。これより公開貴族裁判を行い、その罪状を明らかに致す! そなたはハーベラスからいくら受け取っておったのだ? そなたの罪も明らかに致そうかと思う。近衛兵! この男を牢に連れて行け!」


「へ、陛下! お待ち下さい! 誤解でございます!」


 ケイレールの言い訳を聞かずに近衛兵は連行して行った。その時にケイレールがこの国の宰相だとシャナさんに教えて貰った。


 俺はタイサンに助言した。


「良いのか? いきなり粛清を行って、行き過ぎるとヤツらも反撃してくるかも知れないぞ?」


「勿論ソコは考えてるよ。国王になってから誰が味方で、敵になるかは必死で把握してきたからね。今では国王である僕の味方の方が数も多いし、色々な手も打ってあるから」


 そうタイサンが言うので俺はそうかと言って話を止めた。そして、タイサンが


「トウジ、野暮用政務が待ってるようだから、先に部屋に案内させるよ。そこで暫く待っていてくれ」


 と言って付いてきていたメイドさんに目配せした。そのメイドさんが俺達に頭を下げて言う。


「客間にご案内いたします。付いてきて下さい」


 俺達はそのままカナンを抱いたままのタイサンと別れて客間へと向かった。客間には案内してくれたメイドさんも一緒に入り、紅茶を入れてくれた。


 メイドさんは馬車に一緒に乗っていた人じゃなく、この王宮の入口から付いてきていた人だったが、紅茶を入れてから自己紹介をしてくれた。


「皆様、初めまして。私はヤーマーラ国から陛下にお仕えしていたメイドのカーラと申します。道中、陛下を護衛してここまで無事に連れて来ていただいて有難うございます」


 そう言って頭を下げるカーラさんは本当に感謝しているという感情を隠そうとしてなかった。この人はどうやらタイサンの味方の様だ。そして、カーラさんから質問がきた。


「もし、ご存知でしたら教えて頂きたいのですが、陛下が抱かれていた仔犬は、陛下が道中で拾われたのでしょうか?」


 あっ、ヤッパリ気になりますよね。タイサンも何も言わずに抱っこしたままだったし。俺は正直に言う事にした。


「アレは実は自我を持つゴーレムなんです。器を俺が作って魔力はタイサンが込めました。タイサンに忠実ですし、SS級の魔物や魔獣に対処出来るだけの力があります」


 そこまで俺が言った時にカーラさんが言う。


「トウジ様、どうか丁寧語はお止め下さい。私は只のメイドでございます」


 そう言われてもなあ。何せ清楚な佇まいと整った美貌で聖女のような雰囲気を持ってるから、ついつい俺も丁寧語になってしまってたから。しかし、女性の頼みは断らないが俺の信条だ。


「分かった。それじゃ言葉は崩させて貰うよ」


「はい、よろしくお願い致します。それで、あの姿で本当にアレはゴーレムなのですか? それに自我を持つゴーレムなんて聞いた事がないのですが?」


 そこでタイミング良くトウサマが現れた。ミニマムバージョンだったのでカーラもそれ程驚かなかった。


「自我を持つゴーレムならここにも居る。我はトウサマという、トウジ様によりこの世に誕生した。よろしく頼む。カーラ殿」


「まあ、本当に自我を持っておられるのですね。トウサマ、こちらこそよろしくお願い致します」


 二人(一人と一体?)が挨拶を交している。そしてカーラさんはそのままトウサマに近付いてその背中を優しく撫でていた。それを見ながら俺やサヤ、マコトがニコニコしていると、カーラさんが気がついて恥ずかしそうに顔を赤くした。


「失礼しました。つい……」


「いえ、私もつい撫でたり頬ずりしたりしますから」


「私もそうです」


 サヤとマコトがそう言うとカーラさんがホッとして喋り出した。


「ですよね。この素晴らしい艷やかな毛並みに触り心地の良い鬣。触らずにはいられませんよね。ああ、陛下が連れているあのモフモフも捨てがたいです。何度手を伸ばそうとしたか!」


 そこまで一気に喋って俺達が目を丸くしているのを見てハッとするカーラ。


「た、大変、失礼いたしました」


 そして顔を真っ赤にしながら頭を下げた。動物が好きなんだな、カーラは。


「失礼なんて事はないよ。俺が創造したゴーレムをそんなに気にいってくれたなら俺も嬉しいし」


 俺がそう言うとハニカミながらも嬉しそうな顔をした。そこに扉をノックする音がした。

 カーラが扉まで行き、どなたでしょうと聞いている。扉の外からシャナの声が聞こえた。


「シャナです。カーラさん、陛下が野暮用政務が終わったのでトウジ様や奥様方を魔道具研究室までお連れするようにと」


「シャナさん、分かりました。私がご案内すればよろしいのかしら?」


「はい、カーラさんと私でご案内するようにとの事です」


 そこまで会話してから扉を開けたカーラ。そして俺達の方を見て、


「それでは、研究室までご案内致しますので付いてきて下さい」


 と言って扉の外に出た。シャナと二人で俺達が出てくるのを待ってカーラが歩き出し、開けた扉をシャナが閉めた。

 俺達はキョロキョロしながらカーラに付いていく。ここの王宮はゴルバード王国のより広いから見ていて飽きない。

 壁にかかった絵画は国内の良い景色を時代時代の画家が描いた物だそうだ。案内しながらカーラが説明してくれた。


 そして歩くこと凡そ五分。一つの扉の前でカーラが止まりノックした。中からタイサンの声で返事があった。


「カーラかな? トウジ達なら入って貰って」


 タイサンの返事を聞いてから、ハイと言って扉を開けてくれたカーラ。開いた扉を通って中に入ると、タイサンと一人の男性がある道具の前で待っていた。


「やあ、待たせてゴメンよ。トウジ、こちらはヤーマーラ国随一の魔道具研究者にして、僕の師匠でもあるマーライン侯爵だ。カーラの夫でもあるけどね」


 その紹介の仕方は大丈夫なのかと思いながらも俺も自己紹介した。


「初めまして。S級冒険者のトウジです。横にいるのは妻のサヤとマコトです」


 俺がそう言うと、


「初めまして。ヤーマーラで侯爵なんて地位を貰ってしまったマーラインです。それにしても、マコトさん、お久しぶりですね。人妻となられて益々その美しさに磨きがかかったようだ」


 そうマコトに声をかける侯爵。知り合いなのか?てマコトを見ると、マコトが頷きながら返事をした。


「ご無沙汰ですね、侯爵。侯爵こそ、遂に伊達男を返上されたのですね。こんなに綺麗な方なら納得だわ」


 マコトの言葉に侯爵は、


「ハハハ、まあその通りです。一目惚れというヤツでしてね。妻以外の女性が目に入らなくなりまして」


 そこで小声ながらもカーラがアナタと侯爵に言う。うん、ご馳走様でした。もうお腹一杯です。

 タイサンも俺と同じ表情を浮かべていた。そして、


「トウジ、実は意見が欲しい魔道具がコレなんだけど」


 と強引に話題を変えた。

 俺はタイサンが指し示した道具を見てみた。ソコには車があった。






 

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