第69話 車を作る件

 俺は目を見張った。確かに車だ。車体は軽のハコバンが近いか。タイヤは馬車用のが付いているのがご愛嬌だな。中を見させてもらうと、ソファを改良したような椅子が前に二つ、後ろにも二つある。四人乗りのようだ。

 そしてハンドルは丸じゃなくて自転車の様なハンドルがついている。

 アクセルとブレーキもあるようだ。


 俺はタイサンに聞いてみた。


「どうやって思いついたんだ? この魔道具を」


「クフフフ、気になるかい? 実はねヤーマーラ国にあった異世界人の日記に書かれてあったんだ。図が無かったから言葉から想像して形を作ったんだけど、そんなに外れてはいないと思ってるんだ」


「それで俺達に意見を聞きたいと?」


「うん、気を悪くしないで欲しい。僕はトウジ達が異世界から召喚されたと知っているんだ。ナッツン宰相から教えて貰ったんだけどね」


「いや、それぐらいで気を悪くしたりしないから、それは良いけど。これは動力を使わずに動かして見たのか?」


 俺はソコが気になっていた。動かなかったら只の箱になるしな。


「うん、動きはしたけど…… ハンドル操作と車輪の動きが上手くいかないし、動力となる魔石や回転機を収める場所も悩んでいるんだ。その辺りを教えて欲しいんだ」


 そう聞いて俺はマコトを見た。


「トウジ、私は車の構造なんて知らないよ?」


 マコトがそう言う。


「いや、構造じゃなくて、走ってる車を幻影魔法で見せてやってくれないか? 先ずは映像である程度の理解をしてもらいたいんだ」


 ソコでサヤが言った。


「それじゃあマコトが出した映像から私が紙に静止画で転写してあげる」


 何ですと? そんな事が出来るのか、サヤ。俺がビックリしてサヤを見ると、


「マコトが考えて教えてくれた魔法だよ。ただマコトも幻影魔法を使ってる時に、転写するのは面倒だろうから、私が変わりにするよ」


「凄い! そんな魔法があるならぜひお願いしたい!」


 タイサンが興奮してそう言うので、紙をシャナさんに五枚用意してもらい、マコトが魔法を行使した。壁に写し出される車の映像。走っているトコロや、内部(内装)をタイサンが言うままに紙に転写するサヤ。結果、五枚では足りずに転写枚数はニ十八枚になった。

 タイサンはまだ足りなさそうな顔をしていたが。そして、その転写した紙をマーラインと二人で興奮して見ている。


 うーん、暫くは二人の世界に入ってそうだなと思った俺は、無機を使って何台かミニカーを作って机の上にソッと置いた。

 そしてシャナとカーラに目配せしたら、二人とも心得たモノで俺達を部屋の外に出してくれた。

 

「皆様、よろしければ私が王都をご案内致します」


 シャナがそう言ってくれたので俺達は甘える事にした。 

 シャナに連れられて王都を散策してた俺達は気になる店を見つけた。何と日本語で店名が書かれている。俺達がジッと見ていたらシャナが、


「あら、【どんぶり屋】が気になりますか?」


 と日本語で【どんぶり屋】と言って聞いてきた。何故分かったかと言うと、発音が違ったから。流暢に喋るシャナらしくない辿々しい口調だったので、直ぐに分かった。

 何度かこの王都に来ている筈のサヤやマコトも知らなかったらしく、シャナに


「いつ出来たお店ですか?」


「去年は無かったよね?」


 と聞いていた。シャナの返事は、


「出来たのは一月前です。最初は鳥の餌であるコメを食べるなんてと不評でしたが、一人食べ、二人食べと鰻上りに食べる人が増えて、今や王都一の人気店です」


 トコロ変わればというか、米あったのね。鳥の餌として。カインに入ってから米を見なかったから無いのかと思ってたけど、まさか鳥の餌になってたとは?

 しかし、この店の店主も思い切ったなあ。評判になったから良かったようなモノの、誰も食べてくれない可能性もあったろうに。


 取り敢えず、今は昼過ぎで混雑もそれほどしてないようだから俺達は店に入ってみた。中では割烹着を着た女性がいらっしゃいませと言いながら俺達を見てギョッとした顔をした。


 ん? どこかで見た顔だなあ…… 俺は必死に記憶を探るが出てこない。その女性は俺やサヤよりもマコトを見て固まっている。そして、マコトが思い出した。


「あーっ! 玉無しのコウ!」


「アンタがそうしたんでしょっ!」


 突っ込みを聞いて俺も思い出した。ああ、あの時の…… どうやら女性として生きているようだ。

 騒ぎを聞きつけて奥から料理人が出て来た。


「ゲッ、ト、トウジ、…… さん」


 出て来たのは確かヒカルだったか? ナッツンに負けたヤツだよな。


「あー、取り敢えず客として来たから、何もしないぞ。それに、お前達とはあの時に決着がついたと思ってるしな。座っても良いか?」


 俺がそう聞くと、玉無しのコウがどうぞと席に案内してくれた。メニューを見たら、


 親子丼

 他人丼

 木の葉丼

 牛丼

 カツ丼(卵とじ又は味噌)

 天丼

 スタミナ丼

 カレー丼

 

 八種類もあった。俺は木の葉丼でサヤが牛丼、マコトがスタミナ丼でシャナは親子丼を注文。

 しかし、素材は何だ? まさか日本と同じ素材はないだろうしな。後で聞いてみよう。


 それぞれ時間を置かずに届いた丼。食べて見たら美味かった。日本で食べた丼と比べても遜色ない味だ。俺達は客足が途絶えたのを確認して、ヒカルとコウの二人から話を聞いた。


 あれから二人はカインにある拠点に戻り残っていた者達にヒジリの件を伝えた。信じない者がほとんどだったが、二人はコウとヒカルを信じて付いてきたそうだ。そして、四人で力を合わせて魔獣狩りをして金を稼ぎながら味を見て、元和食の料理人を目指していたヒカルの発案でこの店を始めたそうだ。

 醤油は違う大陸にあったそうで、取り寄せているらしい。味噌もその大陸にあるそうだ。

 何故カインに店を開いたかと言うと、食べた事が無い人が大半だから。一口でも食べて貰えば流行ると確信していたらしい。

 結局、それは大当たりで、今ではこの王都に家も持ち、真面目に店を切り盛りしているそうだ。


 因みにコウは、あまりおおやけにはなっていないが、実は教会で性転換を出来るらしく、玉が無くなってから増えた女性ホルモンの影響か、女性として生きる事を決意して、転換してもらったそうだ。名前はコウのままだが。

 そしてヒカルはそんなコウに告白。二人は今や人生のパートナーとして、一緒に店を頑張っているらしい。

 一緒に拠点から付いてきた二人は一人は味噌や醤油などの買付けのほか、事務処理を担当している。もう一人は店で使う魔獣肉を仕入れたり、時には狩ったりしてくれてるそうだ。それぞれこの王都で伴侶を見つけて真面目に生活している。


 うんうん、聞いて良かった。これからも頑張れよと、なるべくコウの方を見ずに激励して俺達は店を出た。暫く歩いてからのマコトの一言。


「こ、これで良かったんだよね……」


「うん、これで良かったんだよ、マコト」


 俺はマコトにそう言って頭を撫でた。二人とも幸せそうに笑ってたしな。


 それからは王宮に戻り、研究室に顔を出して見たら俺のミニカーを前にして二人が頭を抱えて悩んでいた。俺はカーラに聞いてみた。


「二人は何をそんなに悩んでるんだ?」


「トウジ様、お帰りなさいませ。実はあの車輪の材質が無いそうなんです。車輪自体は錬金で作る事が出来るそうなんですが、車輪に巻いてあるあの弾力性のある素材が無いそうでして……」


「ああ、そういやゴムってこっちでは見た事ないな。でも、似た素材ならあるじゃないか」


 俺はカーラに向けて言ったつもりだが、タイサンとマーラインが俺の言葉に血走った目を向けて聞いてきた。


「あるのか!? トウジ!」


「そ、それはどこで手に入る素材ですか?」


 俺は二人にドウドウと言いながら無限箱から素材を取り出した。そう、スライムの抜け殻を。ソレを見た二人が絶句する。そして、マーラインが


「ぬっ! 何だ、コレは!?」  


 タイサンが


「ま、まさかスライム?」


 と言うので、俺は


「タイサン、正解!」


 と言ってあげた。すると、


「斬撃無効のスライムは魔法で倒すからこんなキレイに抜け殻は取れない筈だ。少なくてもウチの国では無理だよ、トウジ……」


 残念そうにタイサンが言うので、俺は


「取り敢えず二千ぐらいはあるから一つ銅貨五枚(凡そ五百円)で買うか?」


 とタイサンに言ってみた。


「「買う!!」」


 即答だった。本当は一万以上あるけど、そこはゴルバードの為に俺はウソをついている。


「追加はナッツンに言えば輸出してくれると思うぞ。俺以外にはゴルバード王国の新しい近衛騎士団長が、スライムをキレイに狩れるから今のウチに連絡入れて確保して貰えば良いんじゃないか? ただ、俺は友達価格で一つ銅貨五枚って言ったから、ゴルバードからはもう少し高い金額を提示されるかも知れないぞ」


「いやいや、安定供給してくれるなら、一つ角銀貨一枚(凡そ五千円)払っても良いよ。それじゃあ早速ナッツン宰相に連絡してみるよ。いやーヤッパリ、トウジに聞いて良かったよ」


 そう言ってタイサンとマーラインは部屋を出て行った。残された俺達にカーラが申し訳ございませんと言い、客間へと案内してくれた。

 それから客間で夕食を食べて、風呂に入りそのまま就寝した。

 勿論、ヤルベキ事はちゃんとヤッタけどな。

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