第67話 タイサンのゴーレムの件

 俺は取り敢えず指輪は俺が解除しない限りはタイサンが使用出来ると伝えて馭者席に戻ろうとした。が、それを許してくれるタイサンじゃなかった。


 タイサンは俺を捕まえて違う指輪とネックレスを取り出した。そして、


「神様、コッチに無音を。コッチには無汚をお願いします」


 と土下座する。

 俺は少し意外だった。てっきり二つなら、無毒と無空間って言ってくると思ったけど。

 俺は正直にそう聞いてみた。タイサンの返事は。


「毒については毒無効の魔道具をもう作ってあるし、無空間については転位の魔道具があるから特に必要ないかなって。クフフフ」


 うん、そうですか。理由は納得出来るモノだったけど、何に利用するか聞いてないから、それからだな。


「利用目的? クフフフ、それはね。無音は可愛いメイドとアンナ事やコンナ事をする為に。無汚はその後始末に使用するつも…… ウソです。ゴメン。実は魔道具の研究室で夜中に思い付いて作成していたら、必要ないのに皆が起きてきてしまうんだよ。だから、そんな時に無音があれば皆を起こさなくて良いかなと思って。無汚は、それこそ研究室のヒドイほこりが何とかなるならと思ってね。ほら、中には研究途中のもあるから下手に掃除されたくないから」


 うん、嘘は言ってないようだ。それなら良いかな。俺は指輪とネックレスを手に取って指輪に無音、ネックレスに無汚を込めてからタイサンに渡した。


「やあ、これは本当に助かるよ。有難う、トウジ」


 素直に感謝の気持ちを伝えてくるタイサン。そして、馬車は何事もなく進んで行き、中間地点にある休憩所にたどり着いた。

 今日はここで夜を過ごし、明日の朝からまた王都に向かって出発する事になる。

 俺はタイサンに聞いてみた。


「どうする? この馬車なら安全だからここで寝るか?」


「でも、それじゃあトウジ達の寝る場所が無くならないかい?」


 俺は黙って無有を使って空間を作りだした。


「ああ、そうだったね。それじゃあ遠慮なくここで休ませて貰うよ」


 それを伝える為にシャナというメイドとタイサンが兵士長の元に行く。俺も伝える事があるので、ついていった。


「グロウ兵士長、ご苦労様です。陛下からお話があります」

 

 シャナがそう声をかけると兵士長が直立不動でタイサンからの言葉を待つ。


「ああ、いつも言うけどそんなに固くならないでよ。グロウ」


「いえ、そういう訳にはいきません」


「うん、まあそこがグロウの個性だけどね。まあ良いか。それで、僕とメイド達三人はトウジの馬車で過ごす事になったから。それを伝えに来たんだ」


「あの馬車で、ですか? 狭すぎませんか?」


「ああ、外から見たら狭く見えるけど、中は空間拡張魔法がかけられていて、かなり広いよ」


「そうなのですか。分かりました。それでは今夜は見張りを増やして対処します」


 そこで俺が声をかけた。


「兵士長、見張りは最低限で良いよ。俺のゴーレム達五体が見張りをしてくれるから」


「な、何と! 真ですか? それは助かりますが、この辺りにはB級の魔獣も出てきます。トウジ殿のゴーレムで対処可能でしょうか?」


 俺は答えを知らないので、トコトコ付いてきてたトウサマを見た。


「我が主、問題ありません。サズキ、コズキ、ウズキ、トズキの四体はそれぞれA級の魔物でも魔獣でも対処可能ですし、二体でならS級にも対処出来ます。私は一体でSSS級までは対処可能です」


 だそうです。グロウ兵士長。俺が兵士長を見たら魂消たまげたーって顔でトウサマを見ている。


「ん、なっ! SSS級ですか…… いや、その、何ですね…… あの、今夜の見張りはトウサマ殿に一任するという事で、よろしいでしょうか?」


「うむ、グロウ殿。任されよ。我ら何者であろうとも、皆様の場所まで近付かせる事はないと断言しようぞ!」


「はい、よろしくお願い致します!」


 グロウ兵士長がそう言ってトウサマに頭を下げた。それを見ていたタイサンは俺に向かって、


「トウジ、僕もトウサマのようなゴーレムが欲しいなぁ。クフフフ」


 と言ってきたが、トウサマが何故に自我を持っているのかは俺には分からないから、中身は自分で魔力を通すなら身体は作っても良いぞと返事した。


「ホントかい? それなら馬形じゃなくて、狼形でお願い出来るかな? 僕が魔力を込めたら良いんだよね?」


「あ、ああ。そうだな。狼形だな? ちょっと待っててくれよ」


 俺とタイサンがそんな話をしていると、トウサマの指示を受けて、サズキ、コズキ、トズキ、ウズキが東西南北に走って行った。  


「タイサン、こんな感じで良いか?」


 俺がイメージしたのはラノベで良く読んだフェンリルだ。毛皮はモフモフで無汚を付与している。魔石は狼系のは無かったので、悪食ソーガのを利用してみた。


「なっ、もう出来たのかい!? どうやってるんだい? いや、それについては良いけど。じゃあ、僕が魔力を流しても良いかな」


 そこでトウサマからアドバイスがでた。


「タイサン殿、大切な人や物を思いながら、それらを護る存在になるように願って魔力を込められるが良いぞ」


「トウサマ、うん分かった。有難う」


 そして深呼吸してからタイサンが狼形に魔力を流した。閉じていた目が開き、尻尾を振りながらタイサンを舐めだすゴーレム。そして、


「主ー! 有難う! 私が護るからねー!」


 うん、確り自我があるな。さすがタイサンと言う事か。俺がトウサマを見たら、


「我が主、主が強くイメージして我に魔力を流してくれた事により、我に自我が芽ばえたと考えている。勿論、誰でも強くイメージしたからと言ってなるモノでもないでしょうが。タイサン殿は非常に優れた魔道具師ゆえに可能性はあると思っていた」


 もう俺より頭良くないかな、トウサマ? 俺はそんな気持ちになりながらも、そうかと返事をしてタイサンに言った。


「タイサン、良かったな……」


 そこには自身が魔力を流したゴーレムに組み敷かれ顔中を舐めまわされているタイサンがいた。

 俺はゴーレムに待ったをかけた。


「おいおい、嬉しいのは分かるがタイサンが死にそうだぞ。その辺で舐めるのを止めろ」


 俺の言葉にゴーレムはシブシブ従う。


「主の願いにあったから、あーたの言う事にも一応従うけどー、あーしが良い気がしてないのは、伝えておくからー」


 こいつ、生意気だな。また元の素材に戻してやろうか。そう思ったがタイサンが起き上がり、狼形に抱きついて、


「お前の名前は、カナンだ。良いかい?」


 と言うので素材に戻すのは止めておいた。しかし、あまりに態度がヒドイようだと素材に戻すぞと一言伝えた。

 その言葉に少しだけ怯んだ様子が見られたので、少し溜飲が下がる俺。自我を持つ存在を素材に戻すつもりは本当はないけどな。


「トウジ、有難う。カナンは僕の理想のゴーレムだよ。そうだ、カナン。体のサイズは変えれるかな? それもイメージして魔力を流したけど」


「主ー、勿論出来るよー」


 そう言うと小さくなるカナン。小型犬サイズになって、タイサンに良く出来たと抱っこされている。


「タイサン、それじゃあ馬車に戻って休もう。サヤやマコト、それに二人のメイドさんが食事の用意をしてくれてるから」


 俺はそう言って固まってしまったグロウ兵士長の肩をポンポンと叩いてから馬車にタイサンを連れて戻った。

 馬車の中では豪華な晩飯が待っていた。食べ始めたタイサンが興奮して言う。


「こ、これは黒鬼ホースの肉じゃないか! 僕でも二回しか食べた事がないよ! ああ、この味だ。また食べられるなんて」


 タイサンだけでなく、三人のメイドさん達も至福の表情でモグモグしている。それから、食べ終えた俺達はタイサンに先に風呂に入ってもらい、次にメイドさん達に。俺は妻二人と一緒に入る。無音をかけてな。


 そして、風呂から出たらタイサンがワインを飲みながら俺達を待っていた。横にはカナンが寝そべっている。


「トウジ、王都に着いたらお願いがあるんだけど……」


 少し言いづらそうにそう言うタイサン。


「何ヶ月もは無理だが、二週間ぐらいは王都に居ても大丈夫だから、その期間に出来る事なら良いぞ。何だ、頼みは?」


 俺はタイサンが喋りやすい様にそう言った。


「それはホントかい? 助かるよ。実は魔道具研究所で少し手伝って欲しいんだ。今、開発中の魔道具に意見が欲しい」


「ああ、それぐらいなら構わないよ。それだけか?」


「クフフフ、実はもう一つあってね。トウジのスキルの研究をさせて欲しいんだ。魔道具で同じような効果の物を作りたいと思ってね」


 二週間で可能とは思えないが、まあ滞在期間中ならと、俺は了承した。


 その夜は俺は無有で空間を作って妻二人としっぽりと過ごした。念の為に無在をかけて、二人を喜ばした。風呂でもやっただろって? それはそれ、これはこれだ。


 タイサン? タイサンはカナンをベッドに連れ込んで、抱き枕よろしく抱きついて寝ていたそうだ。メイドのシャナさんが翌朝に教えてくれたよ。


 そして、朝食を食べた俺達はまた王都に向けて出発した。






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