第66話 スキル無有の検証の件

 王都に向かう隊列は先頭に騎兵が十名。その後ろに徒兵が二十名。その後ろを王族専用馬車が行き、馬車の左右に徒兵が十名ずつと、騎兵が五名ずつ付いている。その後ろを護衛依頼を受けた俺の馬車が行く。


 俺はコズキとウズキに前の馬車から付かず離れずで進んでくれと頼み、馭者席で景色を楽しんでいた。すると、スルリと隣にサヤが座ってきた。


「タイサンがトウジに聞きたい事が山程有るって言ってるよ。行ってあげて」


 可愛い笑顔でそう言うサヤ。俺が居ない間は馭者席に座っていてくれるそうだ。護衛依頼なのに外の警戒もしないのかと、他の兵士から言われない為の配慮だが、本当は要らないんだよな。俺も無謬で周りを見てるし、コズキやウズキ達ゴーレムも前左右なら1キロ先まで、真後ろは三百メートルまでは索敵出来るから。イザとなれば時速八十で疾走れるし。まあ、見た目も大事だからしょうがないけどな。

 俺はサヤに軽くキスをして頼むなと言って中に入った。馭者席の後ろには靴脱ぎスペースを作ってあるからそこで靴を脱いでからだ。


 中に入るとマコトを質問攻めしているタイサンと、くつろいだ様子のメイドさん三人がいた。一人のメイドさんが俺に気がついて慌てて頭を下げてきた。そして、


「トウジ様、素晴らしい馬車です! 私達、こんなに揺れない馬車は初めてです!」


 と、感激した様子で礼を言われた。それで俺に気がついたマコトが、


「トウジ〜、助けて〜…… 」


 とSOSを出してきた。更にタイサンが、


「おお、やっと来たな! ささっ、トウジ殿、いや、先生! ここに座って色々と教えて下さい!」


 と、やたら興奮して声をかけてきた。いや、先生って。俺は果たして俺に答えられる質問だろうかと心配しながらタイサンの前に座った。


「先生は止めてくれ。それに、殿も要らない。呼び捨てで読んで欲しい」


「ムムッ、それでは教えを請う立場としてどうかと思うが。クフフフ、トウジがそう言うならば、従おう」


 俺の言葉に少し落ち着いたタイサンが返事をした。かと思ったら、始まったよ。怒涛の質問攻めが。


「で、トウジ。この馬車は如何なっているんだ? 僕は空間拡張の魔法だと思ってマコトに質問したのだが、マコトは違うと言うし。それなら何だと聞いたらトウジのスキルだと教えてくれたが、どういうスキルかは説明出来ないと言われたんだ。だから、ココだけの話にすると約束するからトウジのスキルについて教えて欲しい。あっ、ココに居るメイド達は心配しなくても大丈夫だから。三人とも何故か僕に絶対の忠誠を誓ってくれてるんだ。だから、僕が誰にも言わないでと頼めば、絶対に誰にも喋らないよ。それと、このトウサマと話をしていて疑問が幾つも出てきたから…… 」


 俺は慌ててタイサンを止めた。


「待て、待て。そんな一辺に聞かれても答えるのは難しいぞ。先ずは一つずつだ」


 俺の言葉にハッとして黙り、下を向いて落ち込むタイサン。


「すまない、トウジ。僕はまたやってしまったようだ。知りたい事があると周りの迷惑を考えずについつい質問してしまうんだ」


「まあ、知的好奇心が旺盛だから、今までにもナッツンの要望に応えて色んな便利な魔道具を作れたんだろうしな。それ自体は悪い事じゃないし、俺も怒ってる訳じゃないから、そんなに落ち込むなよ」


「そ、そうかい。そう言ってくれると嬉しいな。それで、先ずはトウジのスキルについて教えてくれるかい? 無理には聞けないけど」


 俺は少しだけ悩んだが、魔道具に関してはタイサンはかなりの知識があり、魔法やスキルについても詳しいから、俺自身でも知り得ない俺のスキルを知るキッカケになるかもと思い了承した。

 因みにマコトはこれ幸いとサヤが居る馭者席に逃げていた。


 俺はタイサンに俺自身にも分からない事が多いと断りを入れてから、俺のスキルについて話を始めた。俺とトウサマ、タイサンに無音をかけてからだけど。何故なら、知らない事は喋る事が出来ないから、メイド達への口止めも必要無くなるからだ。

 俺はそれもタイサンに伝えた。


「えっ! こんなに近くにいるのにメイド達には僕達の話が聞こえないのかい? それは凄い!」


 早速タイサンは少し離れた場所で座っているメイドさんに声をかけた。


「シャナ、聞こえるかい?」


 しかし、メイド達は自分達の話に夢中になっている。タイサンの呼びかけが聞こえてないのは明らかだった。


「わずか一メートルの距離で今のが聞こえない筈がないから、本当に聞こえてないようだね。これはどんなスキルか教えてくれないか?」


 俺は無音について分かっている事をタイサンに説明した。味方と敵にかけた場合の違いや対象が人だけじゃなく、物にも有効だと言う事も説明した。


「物にまでかける事が出来るなんて!? そ、それは素晴らしい! 他にはどんな事が出来るんだい? 教えて貰える範囲で構わないから教えてくれないかい? クフフフ」


 俺はタイサンが興味を持ちそうな俺の【】のスキルを説明していった。


無臭、無毒、無汚、無空間、そして馬車にかけてある無有を説明していく。珍しく俺が説明している間、タイサンは大人しく説明を聞いてくれた。そして、説明を終えた俺にひれ伏すタイサン。


「神様、どうかそのお力の一端で良いので僕にも分けて下さい……」


 いやちょっと待てーいっ! 誰が神様だ。俺は人間だぞ。それをタイサンに言っていると、今まで一言も喋らなかったトウサマが、


「我が主の力は神に匹敵すると言う事か……」


 なんて呟くし。いや、違うからな。


「とにかく俺は人間であって神様じゃないから。それに俺自身がスキルについては試行錯誤しているから、分けろって言われても無理だから」


「クフフフ、神様は奥ゆかしい方のようだね、トウサマ」


「うむ、我もその意見に賛成する」


 二人して遊んでやがる。が、そこでタイサンが真面目に話を始めた。


「トウジ、この馬車に掛けられている無有だけど、これを何かにかけて、任意の場所で展開するのは無理なのかな? もしそれが出来るなら凄い事になるけど」


 そう聞かれたが、俺は難しい顔をしてしまった。例えば無音だとエイダスや皆にかけたり、家や部屋にかければ俺が解除しない限り、俺がその場に居なくてもかかった状態が維持されている。が、無有はどうなんだろうか? 俺は正直に分からないとタイサンに答えた。


「それじゃ、実験してみよう。ここに僕が作った空間拡張の魔道具がある。これは凡そ三立法メートルの空間拡張が出来るんだけど、中の魔石にはまだ余裕があるんだ。その魔石に拡張を展開した時にトウジの無有も展開出来る様にイメージしてスキルをかけてみてくれないかな?」


 俺は言われた通りに無有をかけてみた。すると中に入ってる魔石が割れる音がした。


「ああ、ダメか。それじゃ今度はこの何も加工してない魔石に入れてみてくれないかな?」


 今度は磨かれただけの魔力の込められてない魔石を出してタイサンが言うので、さっきと同じイメージでかけてみた。

 が、やはり魔石は割れてしまった。俺はそこでタイサンに言ってみた。


「そもそも俺のスキルは生命力も魔法力も消費しないから、魔力を貯める魔石とは相性が悪いかもな。想像だけど」


 俺の言葉に驚愕の表情をするタイサン。


「えっ! …… それってやっぱり神様だよ。トウジ……」


 タイサンのその言葉に逆に考え込む俺。そう言えば金清こんせい様から頂いた、女性喜ぶ左右の手指は魔法力を消費するんだよな。まあ、一時間使って10しか消費しないけど。

 そう考えると、何も消費しないで使える俺のスキルはおかしいのだろうか? 俺は単純にだから消費も無しなんだと考えてたけど、安易すぎたかな?


 黙って考え込む俺を見てタイサンが謝ってきた。


「ゴメンよ、トウジも良く分からないって最初に言ってたよね。それを考え込ませる様な事を言っちゃったよ」


「いや、それは良いんだけどな。改めて言われると、確かに俺のスキルって規格外なんだと思ってな……」


「うん、規格外だね。で、今トウジが教えてくれた事を踏まえて、僕は考えてみたんだ。先ずはこの指輪に魔石にした様にスキルを込めてみてくれないかな?」


 そう言ってタイサンは左手中指にはめていた指輪を外して俺に渡してきた。


「その指輪に使われている石は只の宝石だから、もし壊れても大丈夫だから。クフフフ」


 まあタイサンが壊れても良いと言うなら。俺は無有を凡そ八立法メートルを意識して、展開するならタイサンだろうともイメージして指輪にスキルを込めた。

 指輪に変化は無かったが、無事に込められた様に思う。俺はタイサンに指輪を渡して、自身の横に空間が有ると思って指輪を持ってみてくれと言った。


 タイサンが俺から指輪を受け取り、左手にはめて俺が言った事を考えたのだろう。タイサンの横に俺がイメージした通りに八立法メートルの空間がそこにあった。そして、タイサンは目を閉じて有った空間を無くしたり、また有る様にしたりと繰り返し行なってから俺を見て言った。


「神様、有難う!」


 だから、神様じゃないって!





 





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