第28話 皆で決めた件

 ナッツンとマクド王子もきて、話を始めようと思ったが先ずは腹ごしらえということで皆で食事をしている。

 そこで、ケンジさんが冒険者ギルドから依頼された件を話し始めた。


「南にある魔境の洞窟にいる魔物が多くなってきているそうだ。このままでは氾濫しそうだという話で、俺達家族に間引きをして欲しいという話だった」


「おお、その件なら私の方にも報告がきてました。兵士を組織して向かう準備をする予定です」


 ナッツンがそう言うと、ケンジさんが少し考えてから言う。


「兵士を投入するのは少し待ってくれないか? 皆のレベルアップに利用しようと思っているんだ。あそこの低層ならばちょうど良いと思ってるんでな」


「なるほど、それならば兵士投入は待ちます。

それで、いつから入られますか?」


「明日からのつもりだが? 何かあるのか?」


「いえ、エルさんの事です。暫くは店を閉めて頂いて、トウジさんには悪いですがこちらで生活して貰います。エイダスも仕事を休んで下さい。その間にこちらで襲撃犯を探して特定します。」


 ナッツンがそう言うと、エイダスが


「俺はその襲撃犯を探させてもらうよ。落とし前をつけなきゃいけない。俺の妻に手を出して無事に済むと思ったら大間違いだからな!」


 と憤りを見せながら言った。

 そこでアカネさんが冒険者ギルドで仕入れた情報を教えてくれた。 


「ギルドで聞いたけど、始まりの四人がこの町に来ているそうよ。彼らは一度ベアー騒動の時に来ているそうだけど、その時はトウジ君が解決して報酬も貰えずに去っていったようね。

それを恨みに思ってるようよ。彼らは皆が私達よりもレベルが高いから、容易ならないわよ。

トウジ君も彼らに出会う前にレベルを上げる必要があるわ。ゼムからそう注意されたわ」


 ゼムさん、何でそいつらがこの町に来たかは調べてないのかな?


「まさか俺への逆恨みだけでこの町に来た訳じゃないですよね?」


「ええ、理由は分かってないようだけど、国王が関わっているらしいとは聞いたわ」


 それを聞いてナッツンは言う。


「私は何も聞いてないですね。これは国王も動き出したと見て間違いないようですね······」


 まだ暫くは猶予があると見ていたが、少し急がないとダメな状況になってきたようだな。

 そうなるとエイダスは戦闘から外した方が良いか? こちらの世界の人がどこまで強くなるか分からないが、どうなんだろう?


「エイダスはどうする? 俺達と一緒にレベルを上げるか?」


 俺がそう聞くとエルさんからの返答が。


「トウジさん、エイダスはこの世界の人間だわ。レベルを上げても異世界から来た私達の様にはステータスは上がらないらしいの。だから、夫を戦闘に出す気は私にはないわ」


 静かにそう言ったエルさんだが、当のエイダスから抗議が。


「エル、俺は確かにお前達のようにはなれないかもも知れないが、それでも大事な場面では側にいてお前を守るぞ!」


 そこで俺はナッツンに聞いてみた。


「ナッツン、エイダスの親父さんは騎士団長だったんだよな? どれくらいの強さだったんだ?」


 俺がそう問い掛けるとマクド君が徐に喋り出した。


「エーメイは強かったよ。恐らくだが、今のトウジよりは強いだろう。職業は剣騎士で両手剣バスタードを使用していた」


 くそっ! みんな格好いい職業につきやがって!俺なんて無職だぞ! ······止めよう。虚しくなった。

  

 続いてフィオナが言った。


「エーメイの強さはずば抜けていたわね。両手剣でベアーだけじゃなく、オロチも瞬殺してたわ。あの体捌きと足の運びは誰にも真似できなかったわ」


 そうか、そんなに強い人だったのか。エイダスは稽古とかしてもらって無かったのか?俺はその疑問をそのままエイダスに尋ねた。


「エイダスは親父さんに稽古をつけて貰ってないのか?」


「親父から稽古を受けていたのは子供の頃だけだな。しかし、仕事についてからも自主訓練はしていたぞ」


「それは両手剣バスタードか?」


「ああ、そうだが、それがどうかしたか?」


「エイダス、悪いがちょっと一緒に来てくれ」


 俺はそうエイダスに声をかけて部屋を出て外に出た。裏に回って広さを確保してから、大太刀形の木刀を出してエイダスに渡して言った。


両手剣バスタードとは少し違うが、この木刀を教えてもらった型で振ってみてくれないか」


「ああ、分かった。しかし、長いな」


「あれ? 両手剣ってこんぐらい長くなかったか?」


 俺はエイダスの呟きを不思議に思いそう聞いてみた。


「刃身は普段トウジ達が使っている刀ぐらいだぞ。刃自体が厚く重くなってるから、両手で扱うんだ」


 ガーン! 衝撃の事実だ。俺もラノベや漫画の絵に影響されていたようだ。


「しかし、これはこれで面白そうだから振らせてもらおう」


 そう言ってエイダスは静かに構えた。


 上段から一気に振り下ろされる木刀の速度は俺と同等。この木刀は鍛練ように中に鉄心を入れて重くしてあるが、ぶれる事なく振り切るエイダス。

 そこから、横に下からと次々と木刀を繰り出すエイダス。

 俺はそれを見てイケると思った。


「エイダス、もし構わなければ職業を教えてくれないか?」


 振り終えたエイダスにそう聞いてみた。


「ん? 俺は門衛だよ」


 ちっがーうっ! エイダス君、そこはそのボケは要らないから! 

 俺が静かに睨むと、あわててエイダスは言う。


「トウジ、そんなに怒るなよ。他愛ない冗談じゃないか。俺の職業は斬鉄士ざんてつし、鉄をも斬る剣士だ」


 エイダス! お前もかっ! 

 いつかは成りたい格好いい職業。良いなぁ~。けど俺は無職を極めてやるとここに誓った!


「そうか······ それで、振ってみてどうだった?」


 俺は心を圧し殺してエイダスに聞いた。


「習った型で使えない型もあったが、それほど違和感は無かったな」


「良し! それじゃ明日はゴルドーさんの所に行こう。エイダス用の大太刀を打ってもらおう」


 俺はそう言ってエイダスを促して家に入った。


 部屋に戻ると皆が俺達二人を見ている。そこで俺から皆に提案してみた。


「皆がそれぞれ慣れしたんだ武防具を使用していると思うけど、新調したい人はいるかな? 明日ゴルドーさんの所にエイダス用の武防具を頼みに行くんだが、他にもいたら一緒にどうかと思って」


 俺がそう言うとケンジさんとマコトは新調したい。アカネさんは今のまま。エルさんも決まった武器がないから、合う武器を探したいらしい。そして何故かマクド君が私も行くぞと目を輝かせていた。

 ナッツン、止めないのね······


 明日は俺とサヤ、ケンジさんとマコトは姿を見せたまま、エルさんとマクド君はフルコースをかけてゴルドーさんの所に行き、武防具を注文することになった。


 その後、新調武防具が出来るまでただ待つのも何なので、魔境の洞窟に行きレベル上げに勤しむことにした。


 ナッツンとマクド君は城に帰ると言っていたが、今の時点で国王達が動き出しているなら危険だということになり、城には帰らずに『豚の箱』に滞在することになった。


 城の協力者への連絡をどうするのか聞いたら、通信石を使うと言うので任せることにした。

 ナッツンは病欠の連絡を入れて、見舞いも断るそうだ。マクド王子は急遽の視察に出掛けたことにするらしい。

 大丈夫か······ 

 協力者の一人が信頼ある文官で、副宰相に兵士投入は冒険者ギルドとの連携が必要だから少し待てと指示をだすそうなので、その点は大丈夫だと言っていた。それを信じよう。


 そうして、取り敢えずの方針が決まったので片付けをして、解散。ケンジさんとアカネさんは宿屋に戻り、ナッツンとマクド君は裏口から『豚の箱』へ。俺とサヤ、マコト、ユウヤ、フィオナ、エイダス、エルさんは各自の部屋で休むことに。


 勿論、俺は各部屋に無音を個別にかけたよ。皆さん、寝過ごさないようにと念押しして。


 翌朝、男性陣が寝不足な顔をしているなか、艶々の女性陣が笑顔で朝食を作ってくれている。


「トウジよ······ あの無音は便利過ぎる。出来れば俺達がいる部屋にはかけないでくれ」


 エイダスが心底疲れた顔でそう言った。エルさんがハッスルしたようだ。うらやましい······

 それを聞いたユウヤが何で? という感じでエイダスに質問する。


「えっ? エイダスさん、何でですか? あれがあるから周囲を気にせずに出来るでしょう?」


「ユウヤよ、俺はお前達みたいに無尽蔵の精力は持ってないからな!」


「アハハハハ、僕だって無尽蔵にはないですよ。ねえ、先生」


「俺に振るな、ユウヤ。けどな、エイダスよ。悪いが部屋の無音はかけさせてもらうぞ。お前だって妻のアエギ声を他人に聞かせたくないだろ?」


「まっ、それもそうだな······」


 エイダスも納得した所で朝食の用意が出来たので皆で食べる。食べ終えて片付けは俺達でした。食後のコーヒーを飲みながら待っているとマクド君がやって来た。ナッツンは久しぶりの休みだからダラダラ過ごすらしい。

 お義父ケンジさんも来て、エルさんとマクド君にフルコースでかけてから、皆でゴルドーさんの店に出掛けた。



 



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