第27話 エルさんが襲われた件
夕方に近くなった十五半の時刻に俺とサヤ、マコトはそのままで、ユウヤとフィオナに無色をかけて家を出た俺達。
家を出る前にユウヤとフィオナから新婚さんの邪魔はしたくないから、何処かに住む場所を探すと言ってきたが、今のところ二人の復活はまだ秘密の為、もうしばらく待ってからにしようと決めた。
プライバシーは無音で守られているし、ユウヤとフィオナには部屋を明け渡して、俺達はもう一つの十畳の部屋に地球でいうキングサイズのベッドを購入して、移ったから支障はない。
ベッドを購入に行った時にライーグさんから何か買取の品はございませんか? と聞かれたので、無限箱に入っている猛毒オロチを二体買取してもらった。ニコニコ顔のライーグさんを見ながら、来る度に何か買取品が必要だろうか? と思ってしまう。
しかし、そんなライーグさんの口利きでベッドはかなり安く購入出来たので、これはこれで良いと思う事にした。
ブラブラと歩きながら、エルさんの店に向かうと、店の前に兵士の姿がある。俺達は少し警戒しながら、俺が代表して兵士に尋ねた。
「こんにちは~。何かあったんですか?」
問い掛けた俺に兵士の一人が答えてくれた。
「ああ、この店の常連か? 残念だが今日は無理だぞ。店内で暴れた客が居てな、女店主は傷をおってこの先の治療院で治療中の筈だ。暴れた客が逃げたから、俺達は捜索と店が荒らされないようにここにいるんだ。」
俺は焦る気持ちを圧し殺して、兵士に礼を言った。
「そうなんですね。教えて頂き、有り難うございました」
そして、俺達は足早に教えてもらった治療院に向けて歩きだす。歩きながらサヤに聞く。
「治療院まで何れくらいかかる?」
「徒歩十分くらいかな?」
「兵士はまだこっちを見てるかな?」
マコトが答えた。
「店の方を見てるよ。」
それを聞いて走り出す俺達。エルさんの怪我がどの程度か分からないから焦りばかりが募る。
ようやくたどり着いた治療院に駆け込み、受付に聞いた。
「怪我をして運ばれたエルという女性は大丈夫でしょうか?」
受付に座るオバチャンはおっとりとした感じで、記憶を探るように返答した。
「エル、エル······ あっ、さっき運ばれてきた女の子ね。治療は終わったけど、可哀想に顔に大きなキズが残るわね~······ あなた達は友達? あまり言っちゃダメよ。意識はハッキリしてるから面会は出来るわよ。旦那さんも来てたようだし」
俺は場所を聞いてから礼を言い、受付を離れた。
部屋の前では怒り狂うエイダスを宥めているエルさんがいた。
「うおーーっ! 絶対に許さんっ! 今から探しだして捕まえて、ギタギタにしてやるっ!」
「エイダス! 落ち着きなさい! 私なら大丈夫だから!」
俺達は中に入った。俺の顔を見たエイダスは、開口一番に、
「トウジ、頼む! エルを治してやってくれっ!」
と頭を下げてきた。
「エイダス、安心しろ。ちゃんと治すから。少し落ち着け。それに治すにしてもここじゃマズイ。俺の家に行こう。集合場所の変更をナッツンに伝えないと」
俺は通信石を使用してナッツンに連絡を取り、今日は俺の家に集合だと伝えた。
ナッツンは宿屋『豚の箱』に伝えて、裏口を使用させてもらうように頼んでくれと言ってきたので、俺は了承して、通信を終えた。
「エルさん、歩くのは可能かな?」
俺が聞くと、エイダスが言った。
「大怪我をしてるんだから、俺が背負って行く!」
愛されてるねぇ、エルさん。俺は通常通りに出ていく手続きをしてもらい、エイダスに背負われて出てきたエルさんに言った。
「先ずはエイダス、住んでる家は店とは違う場所なんだろ? 一旦そこに向かおうか」
「何故だ? 遠回りせずにここから直ぐにトウジの家に行けば良いじゃないか!」
かあ~、早くエルさんを治したい気持ちは分かるけど、落ち着いてくれよエイダス。俺はそう思いながら通信石を手に持ち、エイダスとエルさん、サヤに通信を送る。マコトの分はまだ貰ってないからな。
『落ち着け、エイダス。ユウヤとフィオナが透明状態で俺達の周りを警戒してくれている。ユウヤが言うには俺達の後をつけようとしている奴が三人ぐらいいるらしい。だから、一旦エイダスの家に入って俺のスキルで皆を見えなくする。それから、俺の家に行けば、そいつらは誰も居ないエイダスの家を見張り続けるさ』
『分かった、トウジ。どうも俺は冷静じゃないようだ。すまない』
『大事な人を傷つけられたんだ、当たり前だよ』
『有り難う、それじゃあ俺の家に向かうぞ』
そして、通信を終えた俺達。勿論、通信中も歩きながらだから怪しまれてはない筈だ。しかし、ナッツンのくれた通信石は役に立つなぁ。
エイダスの家は治療院から徒歩十五分ほど歩いた場所だった。俺達はエイダスに招かれた風を装い中に入る。
「エイダス、コッソリ出ていける場所はあるか?」
「トウジ、残念だが、普通の造りの家だから秘密の出入口なんてないんだ。どうする?」
俺は暫く考えてから、ユウヤに通信を入れた。
『ユウヤ、出る準備が出来たら合図するから、家の裏側で派手な物音をたててくれないか?』
『分かりました、先生。物音に彼奴らが集まった隙に玄関から出られるんですね』
『そうだ、頼んだぞ』
そして、俺は先ずはエルさんに無傷を発動した。包帯をとると傷一つないエルさんの顔が現れる。それを見てエイダスが礼を言う。
「トウジ、有り難う······」
「気にするな、エイダス。これで少しは借りが返せただろ?」
「ばか野郎、借りどころか貸しの方が大きいよ!」
俺達二人は笑いあった。そんな俺達にエルさんが、言った。
「トウジさん、本当に有り難う。私達はトウジさんに出会えて、仲良くして貰って本当に良かった······ これからもエイダスと一緒に仲良くしてくださいね」
エルさん、異世界に来て助けて貰ったんだから、俺の方が借りがデカイと思ってるんだが、そう言ってもらえると嬉しいな。
「エルさんも、気にしないで良いよ。旨い料理も食べさせて貰ってるしね」
俺はそう言ってから皆にフルコース(無色、無音、無臭、無視)でスキルを発動した。
そして、玄関前に集まりユウヤに連絡を入れた。
『ユウヤ、頼んだ』
『はい、ヤりまーす!』
そして、家の裏側でド派手な物が壊れる音が響いた。俺は少し心配になってユウヤに聞いた。
『まさかと思うけど、家を壊した訳じゃないよな?』
『先生、いくら僕でもそんな事はしませんよ。今のは、彼奴らの一人を隣の家の壁にぶつけてやったんですよ。それより、残り二人もこっちに来ました。今なら出られます』
『疑って悪かったな、よし、それじゃ俺達は出て家に向かうから、ユウヤとフィオナも直ぐに表に移動してこい』
『はい』
俺達はエイダスの家を出て、ユウヤ達と合流して俺の家に向かった。
俺は家の周りをぐるっと一周して、誰も怪しい奴が居ないのを確認してから玄関を開けて家に入った。そして、家に無音をかけてから、皆にかけていたスキルを解除した。
「マコト、サヤと一緒に冒険者ギルドに行って、ケンジさんとアカネさんに変更を伝えてくれないか? 俺は宿屋に行ってコーランさんと話をしてくる」
「うん、分かった。サヤ、行こう」
二人が出て行き皆に家の音は外に漏れないから、安心してくれと伝えてから裏口から宿屋に向かう。
裏口から宿屋に入るとレイちゃんがいた。
「レイちゃん、こんにちは。お母さんは居るかな? トウジが用事があるって伝えて欲しいんだけど」
俺がそう声をかけると、レイちゃんは顔を赤くしながらもコクコクと頷いて奥に走っていった。
待つこと数秒。コーランさんがやって来た。開口一番にお小言が······
「トウジさん、お若いからお盛んなのは良いんですが、もう少し声を下げていただければ······ ウチのレイも年頃ですしねぇ。宿ではあんなに静かだったのに、やっぱりご自宅だとハッスルしちゃうんですねぇ······」
俺は誤解を解きたい気持ちを堪えて、謝った。
「いや~、スミマセン。本当に。次からは必ず気をつけますから、勘弁してください」
「あらあら、ご免なさいね~。声につられてダイカンまでその気になっちゃって、私も大変だったものだから······ あら、やだ! 何を言わすのよ~」
いや、貴女が自分から言ったんですよ······。聞きたくなかったが、聞いてしまった。
顔を少し赤らめたコーランさんに心で突っ込みながら、ナッツンからの要件をコーランさんに伝えた。
「あら、それぐらいならお安いご用ですよ。分かりました。来られたら裏口にご案内しますね」
俺はよろしくお願いしますと言って、コーランさんと別れて家に戻った。
家に戻るとエルさんとフィオナが食事の用意をしていた。そこで、俺はあっと思いバーム商会に行ってくるとエイダスとユウヤに声をかけて、出掛けた。
バーム商会でベッドと下着などの着替えを色々なサイズで購入して(女性用も恥ずかしさを堪えて買った)家に戻る。
そして、エイダスとエルさんに声をかけて部屋に案内した。六畳の部屋しか空いてないから、少し狭いが我慢してくれと言って、購入してきたベッドを出して、着替えはこの中から着れるのを選んでくれと買ってきた服をベッドの上に置いた。
エイダスとエルさんは、家に帰るからそんなのは良いと遠慮するが、家には見張りがいるだろうし、落ち着くまではウチにいろと説得した。
「でも、新婚さんなのに邪魔したら悪いじゃない」
とエルさんが言うから、
「エルさん、安心してくれ。俺のスキルでプライバシーは完全に守られるから、勿論この部屋にも無音をかけてあるから、心配せずにコトに及んでくれ」
とサムズアップしながら言っておいた。
意味を理解したエルさんは顔を赤らめ、エイダスは嬉しそうにニヤニヤしている。
話が終わったところにサヤとマコトがケンジさんとアカネさんを連れて帰ってきた。
自分が治って子供が産めるようになったことは、まだ言ってないらしい。子供が出来てビックリさせたいとの事。まあ、それはそれで良いか。
ケンジさんとアカネさんは夜は取っている宿に帰るそうなので、部屋の用意はいらない。
後、六畳間が一つあるけど、娘達の邪魔はしないからと遠慮していた。
そして、皆で話をしながら待っていたら、ナッツンから通信が入った。変装を使用して城を抜け出したにも関わらず、後をつけてくる奴がいるらしい。俺は自分にフルコースをかけて迎えに行く事にした。
城から少し離れた場所まで走って行くと、怪しい二人組がいた。こいつらがつけてきてる奴かと見当をつけて、ナッツンに通信すると、何とその二人がナッツンとマクド君だった。
そりゃ、つけられるって······ 怪しさ満載だぞ! ナッツン。
ナッツンに近くに行ってから二人にいきなりフルコースでスキルをかけるからと伝え、通信を切る。
辺りを見回すとナッツンとマクド君をそれとなく見ている男が三人、女が二人いた。
俺はそれを確認してからナッツン達に近づき、スキルを発動した。そして、ナッツン達を促してその場から素早く離れる。
離れた場所から見ていると、急に消えたナッツン達に慌てふためき、男女五人がナッツン達がいた場所に集まってきて、話をしている。
それを見てから俺達は家に向かって移動した。
そのまま家にナッツン達を入れて、裏口に回りコーランさんに先程の話はなくなったことを伝えてから俺も家にはいった。
「いや~トウジさん、助かりました」
「トウジ、有り難う。ナッツンの変装があれば大丈夫だと思ったが、バレていたようだ。」
二人がそう言うとアカネさんが、
「恐らく魔力感知出来る人間が居たのでしょうね。まあ、二人が無事に着いて良かったわ」
と話を締めてくれたので、食事をしながら話をすることになり、今回は居間では狭いから、大広間で皆で集まって食べることにした。机と椅子が無かったから、急遽バーム商会に買いにいったが······
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