第19話 ナッツンの件

 エルさんの店で晩飯を食べようとやって来た俺達二人。

 扉を開けようとして気がついた。


 【closed】


 閉まってるーーー!


 サヤと二人で扉の前で固まっていると、後ろから声が聞こえた。


「あれ? トウジとサヤに声をかけたかな? 今日はまだで次回って聞いてたが?」


 エイダスの声だ。


「エイダスさん、今日って休みなんですか?エルさんの体調が悪いとか······ ハッ! まさか、オメデタですか?」


 サヤがエイダスに早口で聞く。


「オイオイ、落ち着けサヤ! 今日はとある方の貸切でな。エルは元気だし、オメデタでもないぞ」


  その言葉の後に続けて、


「二人とも、ちょと待ってろよ」


 と言って店の中に入っていった。

 暫く待っているとエルさんが出てきた。


「二人ともいらっしゃい。今日は貸切だけど、貸し切った人が是非ご一緒にって言ってるから、入ってちょうだい」


「えっと、構わないんですか?」


 俺が聞くと、


「大丈夫よ。次回はあなた達二人も呼ぶ予定だったのが、少し早くなっただけらしいから。さあ、入って」


 笑顔で答えが返って来たので、俺とサヤはエルさんに続いて店に入った。

 けど、何か引っ掛かるんだよなぁ。目の前のエルさんが、エルさんじゃないみたいな感じが······


 中に入るとエイダスが笑っていた。それも腹を抱えて。何だ?

 それに貸切って言ってたけど、俺達以外に客は居ない。


 すると、奥の厨房からエルさんが料理を持って出てきた。

 あれ? エルさんは俺達の前に居るぞ。すると、奥から出てきたエルさんが怒った。


「こらーっ、ナッツン!」


 その声を聞いて驚く俺達。


「キヒヒヒ、ご本人が現れましたか」


 そう言ったかと思うと、目の前のエルさんが煙に包まれて、見覚えのない青年の姿になる。


「本当の姿では初めまして、ですね。この国の宰相を勤めてます、ナッツンです」


 うん、俺より若いな。

 まさかあんな年寄りがこんな若者だとは······


「ああ、宰相閣下が思ったよりも若くてビックリしたよ。で、今日はあんたの貸切なんだな?」


 俺は宰相に対する態度ではなく、同じ召喚された異世界人として接する事にして、くだけた言葉で答えた。


「キヒヒヒ。ええ、そうなんです。実はお二人にも相談事がありましてね。次回にお呼びする予定だったんですが、エイダスから来られていると聞いたものですから、ちょうど良いと思いまして」


「ナ、ナッツンさん、若かったんですね!」


 サヤさんや、その話題は終わってますよ。


「キヒヒヒ。サヤさん、お褒めになっても何も出ませんよ」


 いや、若いって言っただけで褒めてはないぞ。

 まあ、それは良いんだが。


「ちょうど良かったよ。俺も聞きたい事があったんだ。そっちの話が終わったら質問に答えてくれるか?」


「キヒヒヒ、私に分かる事ならお答えしますよ」


「さあさあ、詳しい話は座って食事をしながらにしよう」


 エイダスがそう言って座るように促すので、皆で席に着いた。


 暫くはエルさんの美味しい料理を堪能しながら世間話をしていた。

 俺もサヤとの新居の話をしたら、皆が遊びに来たいと言うので、連絡してから来てくれと伝えた。


 そう言うとナッツンが、懐からペンダントを人数分出した。


「これも話の後でお渡しする予定でしたが、連絡というワードが出たので、今お渡ししますね。キヒヒヒ。これは予てから研究を進めていた魔道具で、通信石のペンダントです。首に下げた状態で石を握りながら、話をしたい相手を頭に思い浮かべれば、その相手の石が反応して、通信が来た事を知りえます。そして、石を握ると声を出さなくても、相手と思念で会話が可能になります」


 凄いモンが来たー! これは良いな。この世界にはスマホなんて無いから、連絡をするのも一苦労なんだよな。これで何時でも連絡出来る。


「話のついでに私からの話を続けさせて下さい。実は、ベアー退治案件の後にあの愚者達勇者五人から命を狙われてまして、何とか回避している状態が続いてるんです。キヒヒヒ。困った事にレベル上げも真剣に始めたので、このままでは近い内に本当に殺されそうなんですよ。キヒヒヒ」


 いや、ナッツンよ。その笑い声で危機感が薄れているのは気付いているのか?


「私が、護衛します!」


 いや、サヤさんやナッツンの話を最後まで聞こうね。まだ何か言うみたいだから。


「キヒヒヒ、護衛は有難いのですが、王城に入れないでしょう。そこで、彼等を国から何とか追放出来ないかと考えているのですが······ 皆さんの知恵をお借りしたいのです」


 そう言ってナッツンは皆を見た。しかしサヤだけは俺を見ている。

 俺は考え考え言葉を出した。


「彼奴らがレベル上げを真剣にしているっていう話だが、今のレベルは? それと、オープンじゃないステータスは分からないか?」


 俺の言葉にナッツンは返事をする。


「キヒヒヒ。実は城の協力者に【鑑定】Lv.MAXがおりまして、ステータスは確認してます。こちらが今日の訓練後のステータスです」


 そう言って紙を五枚出して来た。そこには彼奴らのオープンじゃないステータスが書かれていた。



 名前:カズマ

 性別:男

 年齢:十九

 職業:【剣神】高級職

 レベル:8

 生命力:835 魔法力:428

 体力:430 魔力:250 器用:285 敏捷:225

 攻撃力:515(魔鋼の剣+120)

 防御力:450(魔鋼の鎧+100)

 スキル:剣術Lv.MAX 身体強化Lv.8 

     初級魔法(火·水·風)

     気配察知 身体操作Lv.4


 

 名前:ハヤト

 性別:男

 年齢:十八

 職業:【極魔道】高級職

 レベル:7

 生命力:580 魔法力:1,050

 体力:280 魔力:510 器用:205 敏捷:195

 攻撃力:210(魔鋼の杖+80 魔力+50)

 防御力:350(魔糸のローブ+120 魔力+30)

 スキル:全属性攻撃魔法Lv.MAX 身体強化Lv.5

     支援魔法Lv.8 魔力感知 鑑定Lv.2


 


 名前:サトル

 性別:男

 年齢:十八

 職業:【槍神】高級職

 レベル:10

 生命力:925 魔法力:380

 体力:470 魔力:178 器用:280 敏捷:300

 攻撃力:580(魔鋼の槍+130)

 防御力:480(魔鋼の鎧+100)

 スキル:槍術Lv.MAX 身体強化Lv.8 

     初級魔法(水·風·土) 身体操作Lv.5


 


 名前:マコト

 性別:男

 年齢:二十

 職業:【聖者】高級職

 レベル:6

 生命力:600 魔法力:805

 体力:290 魔力:395 器用:280 敏捷:280

 攻撃力:250(魔鋼棍+110)

 防御力:380(魔糸のローブ+120 魔力+30)

 スキル:治癒魔法Lv.MAX 身体強化Lv.5 

     光聖魔法Lv.5 魔力感知 気配察知

     浄化炎

 


 名前:ショウジ

 性別:男

 年齢:十九

 職業:【戦神】高級職

 レベル:5

 生命力:700 魔法力:450

 体力:360   魔力:210 器用:200 敏捷:250

 攻撃力:300(魔鋼の長刀+100)

 防御力:300(魔鋼の胸当+100)

 スキル:軍略Lv.MAX 身体強化Lv.9 

     中級魔法(火·水·風·土·闇)

     認識阻害 戦力向上 身体操作Lv.8

     気配察知





 五人のステータスを確認した俺はナッツンに聞いた。


「こいつらが一人一人別々になる時間ってあるのか?」


「キヒヒヒ、訓練後の自由時間は王城の中で気儘に過ごしておりますから、その時はバラバラで過ごす事が多いようです」


「追い出せって事だから殺す必要はないんだろうが、こいつらが恨みを持ったまま違う国で力を付けて、ナッツンに復讐に来る可能性は考えてるのか?」


 俺が聞けばナッツンは、


「キヒヒヒ、既にサヤさんのご家族に連絡を入れて、国から出た彼等を監視、確認してもらう事になってます。詳細はこちらに到着されてから話し合う事になりますが······ 明後日には来られる筈です。トウジさん、覚悟は良いですか?」


 ぐはっ! まさかの情報がもたらされた。サヤのご両親義父母が明後日には来るだと。

 聞いてないよ~。しかし、サヤも知らなかったようで、ビックリしてナッツンに聞いている。



「えっ、! 明後日にはこっちに来るの!?トウジ、家に帰って迎える準備をしないと!」


 サヤさんや、気が早いよ。まあ、俺も焦る気持ちは同じだが。


「まあ、待ってくれ、サヤ。その話の前にナッツンの件だ。国から追い出すのは可能だ。しかし、サヤの家族に依頼しているなら、到着を待ってからの方が良いんだよな?」


「キヒヒヒ、可能ですか? しかし、どうやって城にトウジさんを? 方法としては私のスキル【変装】で入って貰う事は可能ですが······」


「いや、手引きはいらないから王城の地図を早めに用意してくれないか? その地図に彼奴らの行動範囲を記入して。 それから数日は彼奴らを牽制する必要があるだろう? だから其までは俺とサヤがナッツンの護衛につくよ。この通信石で連絡は直ぐに取れるから俺達が見えなくても安心してくれ」


 俺がそう言うとナッツンは何かを考えながら礼を言ってきた。


「キヒヒヒ、そうですか。手引きはいりませんか。分かりました。どうかよろしくお願いします。お二人に全てお任せします」


 頭を下げるナッツンに俺は任せておけと言ったのだった。

 

 

  


 

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