第20話 各々の召喚の件

 詳細はサヤの家族が明後日に揃ってからになるが、今日この時から俺とサヤはナッツンの護衛として動く事を決めた。

 ナッツンが居なくなれば、アホな王族が暴走してしまい、この国は大変な状態になる(エイダス談)らしい。

 ナッツンは表向きは国王達に従いながらも、政策なんて何も興味がない国王達を口と膨大な資料で誤魔化し、善政を行っている。

 国民の多くはその事実を知っている。何故なら、ナッツンが宰相になる前と比べて、格段に生活が向上したからだ。

 

 ナッツンは南の隣国で、魔道具を数多く作る【ヤーマーラ国】の宰相に親書を送り、良好な関係を結んだ。(国王は知らない)

 そこで、色々なアイデア(地球産の便利な物)を出して、作成を依頼して出来た物を優先して買取り、国に広めたのだった。


 そんな話を聞いて、ナッツンに俺は聞いてみた。


「何で、そこまでしてこの国に貢献してるんだ?」


 ナッツンの答えは予想通りだったが。


「キヒヒヒ、初めは恨みましたよ~。だって皆さんと違って召喚時に私は一人でしたからね。すぐに役立たずと言われて、城から放り出された時は見返してやるって思ってましたよ。しかし、エイダスやエルさん、そして、宰相になるまでに自分も苦しいのに私を助けてくれた方々に、恩返しをしようと思いましてね。柄にもなく、やらせて貰っております次第です·······」


「そうか。それなら、良いんだ。俺も国王や王妃は嫌いだが、この国は好きだからな。確りとナッツンを護るさ」


「キヒヒヒ、よろしくお願いしますね。さて、トウジさん。聞きたい事がおありだとか? 知っている事はお答えしますよ」

 

 

 図らずもナッツンの召喚時の話が聞けたので、俺は先ずは既に亡くなったという二人の召喚者について、三人に聞いてみた。


「一人目の城から放り出された召喚者と、二人目の召喚者について知っている事があれば教えて欲しい」


 俺の質問に顔を見合わせる三人。そして、ナッツンが口火をきった。


「キヒヒヒ、私が知っているのは一人目の方は名前がアキヒト。他に四人の勇者が一緒だったそうですが、アキヒトさんは能力が低い為にお仲間からも見限られて、町で、冒険者になったそうです。しかし、レベルを上げる為か、無茶な依頼をこなして無理が祟り、体を壊してしまい、帰らぬ人になったそうです。一緒に召喚された四人は、この国での自由行動の出来ないやり方に嫌気が差して、出て行ったそうです。今も何処かの国で冒険者をしている筈です。能力は高かったそうですが、人格は褒められた物じゃなかったそうですよ。今回の五人と同じですね。


二人目の方はユウキさんと言います。ユウキさんと共に二名の方が召喚されました。が、この二名については詳細が分かりません。と言うのも、直ぐに国王夫婦に呼ばれて、別室に行き、その後その姿を見た者が私を含めて居ないからです。そして、ユウキさんが城から出された時に、実はもう一人召喚者ではないですが、ユウキさんと一緒に城を出た方がいます。第一王女のセレナ様です。お二人は一時期、隣国に逃れていましたが、ホトボリが冷めたのを見て、この国に戻ってこられました。名を変えてね。ユウヤとフィオナと名乗っておられたそうです」


 そこからのナッツンの話を要約すると、ユウヤ(ユウキ)とフィオナ(セレナ)は契りを結び、家を建て始めた。(俺達の新居の事)

 そして、家も建て終わり住もうと思った時に、この国に【厄災】がやって来た。


 【厄災】とは、石化大トカゲと石化大キメラが五体ずつ。そして、それを支配していた合の子の石化ドラゴン。

 五体ずつと侮るなかれ。この世界の【バジリスク】と【コカトリス】の様な魔物は、お互いには石化が効かず、辺りを睥睨して動く生物を石化して補食する怖い存在らしい。

 最悪なのは二体の合の子がドラゴンに必ず進化する事。そして、組織だって人の町を狙う様になる事らしい。

 ユウヤ(ユウキ)とフィオナ(セレナ)はこの町に戻って来た時にB級冒険者で、一番上のランクだったそうだ。勿論、ギルドも緊急連絡網を駆使して、近場にいるA級やそれ以上のランクxyz級の冒険者に手助けを依頼していた。

 しかし、【厄災】の進行の方が早くギルドはユウヤ(ユウキ)とフィオナ(セレナ)をリーダーとした、30人体制のチームで対応する事を決定。


 結果は、石化大トカゲと石化大キメラはフィオナの光魔法【反射リフレクション】により、石化の呪いを跳ね返して、全て逆に石化して無力化に成功。

 しかし、石化ドラゴンとの戦闘では【反射】が効かずに、フィオナが石化してしまう。

 そこでユウヤが他の28人に逃げろと指示を出した。

 ユウヤは一人残った訳だが、どうなったかと言うと、町に石化ドラゴンは来なかった。


 冒険者達は一日待って恐る恐る戻って見ると、石化ドラゴンの首を斬られた死体と共に、フィオナの石像の横に、左手が失くなった状態で石像になったユウヤがいた。


 町に戻って冒険者達は涙ながらに話をする。

 町を救ってくれた英雄として、現在はユウヤとフィオナの石像は万が一にも劣化しないように、建物を建てて雨風に晒されない様にしているそうだ。


 そして、ユウヤ(ユウキ)と何故一緒に第一王女が城を出たかと言うと、王女の一目惚れだったらしい。

 全てが終わった後に、四人の勇者が町にやって来たが、彼らは町を救いに来てやったのに、全て終わっていたので悪態を吐きながら町を去ったそうだ。

 そう、一人目の召喚者と一緒に来た四人だった。当時の彼らは、色々な国で勇者として優遇されながら放蕩三昧に明け暮れていたらしい。

 今はその態度により、各国から敬遠されて、生活する為に【不真面目】に冒険者をしているそうだ。A級らしい。

『憎まれっ子、世に憚る』だなぁ······


 そこまで聞いて、俺は


「ユウキって人に心当たりがあるんだが······ 俺の知り合いかも知れない。その石像が安置されてる場所を教えてくれないか?」


 と三人に聞くと、エルさんが

 

「確認しに行くの?」


 と聞くので、そうだと答えた。

 ナッツンはそれなら案内しますと言ってくれたので、確認した後に城へ一緒に戻って護衛を開始すると決まった。


 結局、エルさんの話が聞けなかったが、又何時でも機会があるからと言われて、先に行動する事にした。



 ナッツンの案内で着いた建物は、夜でも明るく火が焚かれていた。

 一時間に一~二度の間隔で有志が見廻りを行っているそうだ。

 中に入る俺とサヤ、ナッツン。

 石像には魔除けと状態維持の結界が張られていて、触れる事は出来ないが顔は確認出来る。


 その顔を見て俺は涙を流した。


「良かった、こっちに来ていたんだな! ユウキ! 皆が心配していたんだぞ!」


 俺の泣きながらの言葉にナッツンは、


「お知り合いでしたか······」


 と言い、サヤは、


「トウジ、会えて良かったね。残念だけど······」


 と言う。

 

 二人の気の毒そうな顔を俺は不思議に思って聞いた。


「ん? 二人とも暗い顔でどうしたんだ?」


 俺は嬉しくて泣いていたのだが·······

 ナッツンが沈痛な表情で、あの笑い声を入れずに喋った。


「トウジさん、石化大トカゲやキメラの石化は解除出来ますが、上位種の石化ドラゴンの石化は朽果てるしかすべはないのです。だから、状態維持の結界を······」


「トウジ、残念だけど······」


 いやあ~、そうかあ。二人はコレを解く手段がないって思ってるんだな。

 俺は無謬を使って石化した二人の状態を見たから······


 状態:石化(石化ドラゴンの死の呪い)


 だったから、俺のスキルで治せるんだよね······

 取り敢えず、二人に相談しようと思い、言った。


「なあ、二人とも石化解除しても良いかな?」


「んなっ!?」


「えっ!?」


 サヤとナッツンが変な声を出す。

 

「トウジさん、何ですって!? 私は耳がおかしくなったのか、石化解除って聞こえたんですが······」


 ナッツンがそう聞いてくるので、


「おう、大丈夫だぞナッツンの耳は正常だ! 確かに俺は石化解除って言ったぞ」


「いくらトウジでも無理よ! 今まで色々な薬師や錬金術師が研究してきたけど、解除に成功した事例は一つもないのよ!」


 サヤさんや~、俺のスキル見たよね~······

 さては忘れてるな。いや、違うか。この石化が呪いだと知らないからだな。

 もう良いか、【論より証拠】、【百聞は一見にしかず】だ!


 俺は解除後に倒れて怪我をしたら大変だと思い、サヤにフィオナ(セレナ)の後ろに行ってもらう。

 しかし、石化しててもキレイな人だと分かるな。こんな美人で、ボンッ、キュッ、ボンッな人に一目惚れされるなんて······

 ありゃ、サヤさんや勿論私はサヤさん一筋ですよ!だから、その昔見た日本の傑作ホラー映画、『怪猫、オシマさん』と同じ目付きは止めて下さい······

 気を取り直して、サヤに解除するぞ~と声をかけてから、スキル無病を発動した。


 一瞬で石化呪いの解けたフィオナは、気絶しておらず、見事な白金プラチナ髪に端正な顔立ち、黄金の瞳で正面に立っていた俺を見て頭を下げた。

 もう少しで谷間が······ いつのまにか、解除された石化に驚いた顔をしていたサヤが、目に威圧を込めて俺を見ていた。

 いや、サヤさんや違うから、これは男のさがだから······

 だからその目は止めてー。夜中に一人でトイレに行けなくなるからー······

 俺の目線を気にもせずにフィオナ姫は俺に言った。


貴殿あなた方の話は理解しておりました。助けていただいて有り難うございます。どうか、ユウヤも助けて下さい」


「勿論。俺はそのつもりですよ」


 そう言って、俺はユウキの側に立ち、スキル無病を発動。すかさず、無傷も発動した。

 最重要機密だが、ナッツンなら大丈夫だろうと思い、使用した。サヤも頷いているしね。

 石化が解除されて、失くなっていた左手も元に戻る。そして、俺を見たユウキは、


「えっ、アレ? 左腕が治ってる! 何でだ? あっ、! 秋刀魚さんま師範代!」


 その名で俺を呼ぶなーーーっ! ユウキーー!

 俺は心の中で叫んだ。そして、


 怒りと共に、拳骨をユウキに落としたのだった。 


 


 


 

 


 

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