第21話 復活誤魔化しの件


 フィオナ(セレナ)が頭を押さえて呻くユウキ(ユウヤ)を見て俺に言った。


「なんて事をするんですかー!」


 いやー、ついね。ユウキが俺の地雷を踏み抜いたから。そんなに怒ると美人な顔が台無しですよ~、王女様。俺が心の中でそう思っていたら、


「アハハハ、フィオナ大丈夫だよ~。他愛ない師弟の戯れだから······ しかし、痛いです! 蕩児師範! もう少し加減してくれても良いじゃないですか! 可愛い弟子にこんな処で会えたって言うのに!」


 ユウキがそう言う。

 そこで俺は、俺に向かって文句を言うユウキをニヤリと睨み、言ってやった。


「ほー、敵にヤられて固まって、俺に助けられた割には偉そうだな、ユウキ。そんなに強くなったんなら、稽古をつけて貰おうかな?」


 俺の言葉に顔を青ざめて謝罪するユウキ。


「いや、ウソ、嘘です。師範! 僕はとても師範に感謝してます! 本当ですよ!」


 平身低頭のユウキを見て唖然となる三人。

 そんな三人を眺めながらユウキに尋ねた。


「しかし、ユウキいやユウヤか? ユウヤが良いか。お前が後れをとるなんて、そんなに強かったのか? 石化ドラゴンは?」


「いや~、師範。聞いて下さいよ~。無回流の奥伝、『絶斬』で鱗一枚しか斬れなかったんですよ~。硬いヤツでした~。左手は食い千切られるし。しょうがないから裏奥伝『回流斬』で、首を切り落とした迄は良かったんですけど、今際いまわの際に放たれた呪いを交わす余裕がなくて······ このざまです」


「ふん、残心を忘れていたんだろう! お前は稽古の時もそうだったからな······ でも、まあ会えて良かったよ、ユウヤ」


 俺がそう言うと、ユウヤも涙を流して言う。


「僕も会えて良かったです~······」


 そこでナッツンから指摘が入る。


「しかし、欠損復元ですか? トウジさんは一体他にどんなスキルをお持ちなんですか······ まあ、詮索はしませんが。

 

そして、セレナ王女殿下はじめまして。


現在この国でこの姿ではないですが、変装をして宰相をしております、ナッツンと申します。お見知りおきを。


しかし困りました······ いや、復活されたのは非常に喜ばしい事なのですが······ 大々的に発表したら、国王達がまた良からぬ気持ちになりそうで······」


 フィオナ(セレナ)が返事をした。


「私は今は冒険者ユウヤの妻、フィオナです。王族の立場ではありません。だから、王女殿下は止めてくださいね。よろしくお願いします。宰相閣下」


 フィオナの挨拶が終わるのを待って、俺はサヤに言った。


「サヤ、土魔法で二体石像を作れるかな?」


「トウジ、それは可能だけど······ 劣化速度が違うからバレちゃうわよ」


「状態維持がかかってるから大丈夫なんじゃないのか?」


 俺がそう疑問を口にすると、フィオナが返答してくれた。

 

「状態維持の結界は永遠ではなく、劣化を極端に遅らせるだけなんです。ですから、いずれは私達も朽果てる筈でした。石化ドラゴンの呪いが強力だった為に、劣化速度も遅かったのが幸いでしたが、土魔法で作られた石像は例え状態維持がかかっていても、半年で崩れてしまいます」


 ナルホドなぁ~······。 まあ、それでも今すぐ大騒ぎになるよりは良いだろうと提案して、疑似石像をサヤに作って貰った。

 その上でナッツンに言う。


「ナッツン、変装でユウヤとフィオナさんを俺とサヤに出来るか? そしたら、色々便利なんだが。それと、通信石に余分があるなら二人にも渡してくれ」


 幸いにも俺とユウヤ、サヤとフィオナは身長がほぼ同じ(俺は175cm、サヤは158cm)で、フィオナの方がサヤより出る所は出ている(ッ! 殺気が!)が、ナッツンの変装なら何とか出来るだろう。何せナッツンが女性のエルさんになってたんだから。


「キヒヒヒ、勿論全て大丈夫ですよ。考えましたね、トウジさん」


 そう言うと、二人に変装を発動するナッツン。そして、俺とサヤに瓜二つになった二人に通信石を渡して使い方を説明する。

 俺は二人に言った。


「二人が建てた家は、俺とサヤが購入して住んでいる。二人はそのまま家に行って身を休めてくれ。俺とサヤは新婚だから、家から出なくてもそんなに怪しまれない筈だ。但し、裏の宿屋のヤーン君とレイちゃんは遊びにくるかも知れないから、そこだけ注意してくれ。食事用の食材は買ってあるから好きに使ってくれ。詳しくは落ち着いて話せる様になったら説明するから」


 そう言うと、俺に慣れているユウヤは、


「わっかりましたー! 師範、待ってます!しかし、師範が結婚されたとは! それもこんな若い美少女と! 犯罪ですね! それに師範好みの出過ぎない胸をお持ちなんて! まあ、僕はフィオナにメロメロですが、フィオナに出会ってなかったらヨロシクしたかったですね!

 

っ、! 今のは冗談ですよう······

笑顔で刀を抜かないで下さいよ~······

フィオナも詠唱を止めてくれよ~······

僕はフィオナ一筋だよ~、ホントだよ~。ねっねっ、二人とも、他愛ない冗談ぐらい笑って流しましょうよ~······」


 見かねたサヤが俺達を止めてくれた。

 本当にコイツは······ 地球に居た時と何も変わってない。突然居なくなって、先生はどれだけ気落ちしていたか······ まあ、それは俺にも言えるんだが······ 

 黙っている俺をまだ怒っていると思ってか、恐る恐る俺に聞いてくるユウヤ。


「あの~、師範。待つってれくらい待てば良いんでしょうか?」


 俺は少し考えて、三日間かなとナッツンを見た。


「キヒヒヒ、そうですな。凡そ三日で方がつくと私も思います」


そう答えたナッツンを見て、ユウヤが


「あの、間違ってたらゴメンなさい。貴方はマジシャンのピーナッツ・ペーストさんではないですか?」


 と聞いた。そう聞かれたナッツンは目を見開いて驚いている。


「まさか、三流マジシャンの私をご存知の方が居るとは!?」


 すると、ユウヤは


「やっぱり、そうなんですね! 僕は貴方がデパートのオモチャ売り場の入口でマジックを披露されているのを見てましたから!」


 と興奮していた。うーん、悪いが俺は知らないぞ。そんな美味しそうな名前のマジシャンは。


「キヒヒヒ、それは有り難うございます。私もそんな方に出会えて非常に嬉しいです」


 さてさて、色々と話し合いたい所だが、暫くは辛抱して、先ずはあの愚者五人からナッツンを守る仕事だな。


 それから、俺達は別れて移動を開始した。

 ユウヤとフィオナは我が家へ、俺とサヤはナッツンと一緒に王城へと向かう。

 ナッツンが、途中で聞いてきた。


「さて、お二人にはご迷惑をおかけしますがどうやって城に入られます?」


「ナッツン、城に到着する前に少し距離を取ろう。そこで、俺とサヤはスキルで姿を隠す。ナッツンはそのまま気にせずに、いつも通りに城に入ってくれ。俺達もその時にナッツンには見えないだろうが、一緒に入るから。入ってから通信石で連絡するよ」


 俺がそう言うとナッツンは驚いた顔で、


「マジシャン顔負けですね······」


 そう言った。


 城の数百メートル手前で俺とサヤは足を止めて、路地裏に入る。

 誰も居ないのをサヤに確認してもらい、スキル無色、無音、無臭、無視を併用がけしてナッツンの後を追った。


 ナッツンに追い付いたが、まだ声はかけない。

 専用門から中に入るナッツンと一緒にシレッと俺達も入った。自室に向かうナッツンについていくと、早速現れましたよ。


 ショウジだったかな? まあ良いか。ナッツンも足を止めたので、俺が右でサヤが左に立って警戒した。ショウジはナッツンに話し掛けてきた。


「宰相さんよ~、何時になったら俺達に商売女娼婦以外を斡旋してくれるんだい? 約束はちゃんと守ってもらわないとなぁ。いくら温厚な俺達でもいい加減、キレるぜ!」


 威圧を含んだショウジの物言いもどこ吹く風で返答するナッツン。


「キヒヒヒ、ショウジさん。約束と言うなら先のベアー退治が成功したら、でしたよね? あなた方は見事に敗走しましたから、約束を反故にされたのは、私ではなくそちらになりますよ」


 正論を言われてキレるショウジ。

 


 うーん、正論言われるとキレるなんて、カルシウム不足だな。煮干しと牛乳が必要だな。

 そう考えながらショウジの隣に移動する俺。


「どうやら、痛い目をみないと分からないようだな、宰相さんよ!」


 そう言ったショウジだが、隣に移動して爪先が引っ掛かる様に出した俺の足に見事にかかり、スッ転んだ。

 受ける~~~。サヤも笑顔だ。

 ウンウン、サヤの笑顔の為なら俺は悪戯を頑張るよ。


「おやおや、どうしました? ショウジさん?そこには段差も何も無いですが······」


 ナッツンがおどけて言うと顔を真っ赤にしてショウジが叫ぶ。


「うるせぇーっ! ちょっと滑っただけだっ! もう、お前は許さねぇからなっ!」


 そう言って立ち上がろうとしたショウジの頭頂にちょうど当たる様に俺は肘を構えた。

 これ、無意識で物に当たると想像以上に痛いんだよね~(経験者談)


 ゴッチーーンと擬音が聞こえてきそうな勢いで、俺の肘に頭をぶつけたショウジ。


「ぐあっ! 何だってんだっ! クソ痛ぇーー!」


 頭をおさえて踞る。そこにナッツンが語りかけた。


「ショウジさん、一つお教えしておきましょう。この国の宰相には神の守護がついております。私を傷つけようとしても、神の守護により、全て防がれてしまいます。そして、その防ぎかたも私への攻撃を止めなければ、段々と過剰になって行きます。どうされますか? まだ攻撃されますか?」


 そう言うナッツンを不気味そうに見ながら、口だけは偉そうにショウジは言った。


「けっ、神の守護だぁ。そんなハッタリが俺達に通用すると思うなよ。今度は五人全員でアイサツに来てやるからな。首を洗って待っておけ」


 俺達って······ 今いるのは君一人ですが?そう思いながら立ち去ろうとしたショウジにダメ押しで俺はラリアットをかました。

 あっ、ついまともに喉へ入れちゃった。テヘッ。ゲホゲホ言いながらも、慌てて走って逃げ出したショウジを見て腹を抱えて笑うナッツン。


「いや~、素晴らしいですな。神の守護コレで話を押し通しましょう」


 俺達が聞いている事を前提に喋るナッツンはおもむろに歩きだして、自室に行き扉の中に入り暫く(俺達が中に入るのを)待って扉を閉めた。

 俺は部屋に無音をかけて、通信石でナッツンに話し掛けた。


 今後の方針を話し合う為に。

 

 


 

  

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