第59話 味噌を見つけた件

 翌朝、俺達三人はマダラに場所を聞いてから冒険者ギルドに向かった。なるべく目立ってくれとナッツンには言われたが、どうすれば目立つのかなんて分からないので、取りあえず受付に行ってこの町に暫く滞在すると伝える事にした。


 俺が冒険者達が並んでいる場所の後ろに同じように立つと、サヤとマコトが空いている方の受付に俺を引っ張って行った······ 人気の受付嬢を見たかったのだが、諦めて空いてる方に並ぶと直ぐに順番がきた。

 度の強そうな昔で言う牛乳瓶の底のような眼鏡で髪をセンター分けしてくくった辛うじてツインテールと言える髪形の女性が受付だった。


「ナーズ冒険者ギルドにようこそ。どのようなご用件でしょうか?」


 喋り方はハキハキして好感が持てる。しかし、あの眼鏡は本当に見えているのだろうか? とか考えて返事をするのを忘れていたら、その受付嬢にあの······ と声をかけられた。そこで気がつく俺。


「いやあ、ゴメンゴメン。その眼鏡って見えてるのかなぁって考えてしまって······」


 俺がそう言ったらギルド内がザワつき、何人かは俺に殺気を飛ばしてきた。 ナンダナンダ······

 俺がそう思っていたら、三人のオッサンが俺に喋りかけてきた。


「おい、兄ちゃん。ここは初めてか?」


「初めてだとしてもヨッパちゃんへのあの言葉は許されねぇな」


「一人は【剣風けんぷう】か? もう一人の女は知らねえな······ たがテメエが言っちゃいけない事を言ったのが間違いない! 訓練場に来い! 殺しはしねえがボコにしてやるっ!」


 それに慌てる受付嬢のヨッパちゃん。


「カザアーナさん、ソロリーさん、ハマカヌさん、やめて下さい。この方は事情を知らないだけなんですから。私の仕事を邪魔しないで下さい!」


 慌てながらも少し強い口調でそう言うヨッパちゃん。言われた三人は、けどよー、ヨッパちゃんなどと言っているが、ヨッパちゃんは相手にせずに俺に向かって喋りかけた。


「ごめんなさい。私はある事情でこの眼鏡をかけないと仕事も生活も出来ないんです。けど、それは私の事情ですから気にしないで下さい。それで、ご用件は何でしょうか?」


 うん、このはプロだな。俺は先ず謝罪してから用件を言う。


「知らなかったとはいえ、大変失礼な事を言ったようだ。頭を下げた位では許せないかも知れないが、どうか許して欲しい。それと用件なんだが、俺はトウジと言って先だって隣国のゴルバード王国の冒険者ギルドでS級認定を受けたんだ。両隣にいる俺の妻のサヤとマコトと一緒に。それで、暫くこのナーズに滞在するからギルドに知らせておこうと思ってやって来たんだ」


「え、S級冒険者ですか! トウジさんとサヤさん、マコトさん······ た、確かに本部から通知が来ております。それで、挨拶に来て頂けたんですね。有り難うございます。今のところ、ナーズの冒険者ギルドではS級の方の力をお借りしたい依頼はございません。ですので、滞在されている間はゆっくりとこの町でお過ごし下さい。ただ、緊急にお願いが発生した場合はどのようにご連絡をすればよろしいでしょうか?」


 驚きからか俺の謝罪はスルーされたが、まあ仕事に徹してくれているので良しとしよう。


「ギルドの通信を使って呼び掛けて貰えれば連絡がつくから、それで教えて欲しい」


「はい、かしこまりました。それではその様に他の職員にも通達しておきます。トウジさん、サヤさん、マコトさん、ようこそ、ナーズの町へ。歓迎いたします」


 相変わらず目は見えないが弾ける笑顔で俺達にそう言ってくれたヨッパちゃん。こんな良いにどんな事情があるのかは分からないが、この眼鏡を使用しなくて済むようにしてあげたいな。まあ、妻二人に許可をとってからだが。

 目的(目立つ)を計らずも達成した俺達はギルドを後にした。


 ギルドを出たらやっぱり居た三人のオッサンズ。俺達に向かってイチャモンを言ってくるのかと思いきや、何と頭を下げてきた。


「急にイチャモンつけて悪かったな。あんたがトウジか。俺達の間では有名だぜ」


「あのバーム商会の伝説の魔物卸師に出会えるとはな」


「俺達もバーム商会に魔物を売ってるが中々あんたみたいにはいかねぇ」


 ちょっと待て。バーム商会の伝説の魔物卸師って何だ? 俺はそんなモノになった覚えはないぞ。俺が三人の言葉に呆然としているとサヤが、


「トウジのお陰でバーム商会のライーグさんが出世したし、魔物買取によってかなりの利益を得たからバーム商会ではトウジの名前が伝説になってる」


 と言ってきた。いや、当事者の俺はその事を知らなかったんだけど······ まあ、それは良い。ソレよりもさっきと態度が違う三人がこの町の案内をしてくれると言うので、それに甘えて旨い飯屋に連れて行ってもらった。


「さあ、ここだ。俺達の行きつけだが、味は保証するぜ」


 店名は『極上のブタ箱』······ うん、この世界の店や宿では流行ってるんだろうな『ブタ箱』が。多分だけど。

 三人の後に店に入った俺達。三人のオッサンズは店に入るなり、店員に


「カーナちゃん、いつものを六つ頼むよ」


「カーナちゃん、エールも頼むわ」


「カーナちゃん、今日も可愛いね」


  と、続けて言った。言われた店員はまだ十代前半だろう女の子で、明るい声で三人に返事を返した。


「はーい、カザアーナさん。いつもの六つね。ソロリーさん、エールも六つで良いの? 女の人はエール好きな人は少ないけど? ハマカヌさん、いつも有り難う。お客さん方は初めてですよね? ようこそ、『極上のブタ箱』へ。ぜひ食べて行って下さいね」


 俺達への挨拶も忘れないここにもプロの女の子がいた。俺達はオッサンズに言われて席についた。そこでソロリーがサヤとマコトに言ってきた。


「ついいつもの感じでエールを頼んじまったが、大丈夫かい?」


「私もマコトも問題ないわ。エールは嫌いじゃないから」


 サヤの返事に安堵したあとに目を見開く。


「マ、マコトって、破壊の魔女かっ!!」


「その二つ名、やめてもらえるかな?」


 マコトが顔はニコニコ、目は苛立ちを見せてソロリーに言った。


「ひぃっ、 はい、すんません!」


 怯えを見せたのはソロリーだけじゃなく、カザアーナとハマカヌもだった。俺の大事な妻はそんなに怖くないぞ。しかし、マコトの二つ名が破壊の魔女って······ ププッ後でからかおう。


「ひとつ聞きたい事があるんだが」


 俺がそう言うとカザアーナが先読みして答えてくれた。


「ヨッパちゃんの事だな。ヨッパちゃんはな、ハーベラス侯爵っていうクソ親父に目を付けられたんだが、冒険者ギルド勤務だったからギルドがヨッパちゃんを守ったんだ。しかし、それが面白くなかったクソ親父が人を雇って、ヨッパちゃんの目に何かの薬品をかけやがったんだ。勿論、あのクソ親父がやった証拠はないんだがな。俺達は確信している。まあ、それで視力と目蓋が極端に傷ついたヨッパちゃんの為にギルドがあの魔道具の眼鏡を用意したんだ。ヨッパちゃんは新人の面倒を良くみたり、中堅やベテランにも気をかけてくれたりしたから、俺達も国王に抗議をだしたが、ちょうど国王が病に倒れたところだったからウヤムヤになってしまってな······」


 あのハーベラス侯爵が関わっていたとはな。まあ、それも含めてちょうど良いな。確りと対処しよう。


「そのハーベラス侯爵だが、視察とやらでこの町に来るのは知っているのか?」


 俺がそう聞くとハマカヌが


「ああ、知ってるぞ。そこで俺達は一致団結してヤツがこの町の女に手を出さない様に見張る事にしてるからな」


 そう返事をした。そこにカーナちゃんが小さい体に大きなお盆を二つ持ってやって来た。


「はい、どうぞー。大角ピッグのステーキです。熱いから気をつけてね」


 そう言って先ずはサヤとマコトの前にお盆を置いた。


「他の人のもドンドン持ってくるから、もう少し待って下さいね」


 明るい笑顔でそう言って元気良く厨房に向かうカーナちゃんを見ながらハマカヌが言う。


「あのハーベラス侯爵はカーナちゃんみたいな年若いが好みだと言ってた。実際にヨッパちゃんも二年前、成人したての時に手を出そうとしていたしな。俺達はそんなクソ親父の手から守ると誓ってるんだ。それで、あんたにも力を貸して貰いたいんだ」


 おう、それが言いたくて待っていたのかな。しかし、イチャモンをつけてきた時はボコにしてやろうと思ってたけど、中々の正義感を持つオッサンズじゃないか。俺はオッサンズに表だっては力を貸せないが、俺もそんなクソに女性を傷つけられるのは胸糞が悪いから、陰から力を貸すと言った。


 そして、届いた大角ピッグのステーキにかぶりついた。うめぇ! 何だこのソース。味噌か? 味噌だな! サヤとマコトの方を見たら俺と同じ考えだったのか頷いてきた。俺はカーナちゃんを呼んだ。


「カーナちゃん、このソースって味噌っていう調味料を使ってる?」


 俺が興奮気味にそう聞くとカーナちゃんは不思議そうな顔をして言った。


「お料理のことは私には分からないので、父を呼びますね」


 そう言って奥に入るカーナちゃん。暫くして戻ってきたカーナちゃんの後ろから男性が一人ついてきている。父親なんだろう、左腕がやけに太いその男性は俺を見て言った。


「お客さん、ミーソをご存知なんですか? 一月前に新しく出来たばかりの調味料なんですが······· 今は色々な料理人が試行錯誤しながら使用してます」


 おう、やっぱり味噌か。それなら醤油も何処かにあるはずだ。 


「ミーソって言うんだな。いやあまりにも旨かったから、つい聞いてしまったんだ。大角ピッグに良く合うソースだと思ってな」


「有り難うございます。中々ミーソの使用法を思い付かなくて、ダメ元でソースを作って見たら良かったので、褒めていただくと嬉しいです」


 そう言ってカーナちゃんの父親は頭を下げて厨房に戻っていった。カーナちゃんも有り難うございますと言ってカウンターの方に行く。俺達はオッサンズに礼を言ってカーナちゃんに代金を聞いて、少し多めに支払ってから店を出た。

 大通りに出て見ると、ちょうどハーベラス侯爵の馬車が目の前を通り過ぎていった。見物しているのは男ばかりで、女性は俺の妻二人だけだった。俺は咄嗟にサヤとマコトに無在をかけた。

 馬車と並行して進んでいた男が俺の方に向かってこようとしたからだった。男は消えたサヤとマコトをキョロキョロとして探していたが見つからずに列へと戻っていった。危なかったな。まだ、事を構えるには早いからな。せめて国王がこの町についてからじゃないとな。


 そして、俺はサヤとマコトがついてきているのを確認して、マダラの隠れ家に戻り侯爵がこの町についた事をマダラと三姉妹に伝えた。

 そして、侯爵をどうにかするまではここに隠れておくように言って、俺達はここを出て宿屋に泊まるからとも伝える。全て片付いたら教えに来るから朗報を待っていてくれと言ってから、俺達はマダラの隠れ家を後にした。

 

 





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