第6話 レベルアップの件


 昼に落ち合う約束だから、俺も狩れるだけ角ウサギを狩ろうと思い、自分に無音をかける。


 そして、角ウサギを見つけた。何か小動物を襲って食べているようだ。しかし、問題は二羽いる事だ。一羽は気付かれずに仕留められるだろうが、もう一羽には無音をかけていても、視覚が生きているのだから気付かれてしまうだろう。


 しかし、俺は気付かれるリスクを気にしない事にした。自分が学んでいた剣術は古流で型を繰り返し稽古するのだが、それは体に動きを覚えこませる為だ。咄嗟の時には稽古の動きが出ると信じて、俺は角ウサギ二羽に無音をかけた。


 俺自身にも無音がかかっているので、素早く近づいて、先程と同じように一羽を仕留めた。

 しかし、残り一羽にはやはり気付かれた。攻撃がくる。が、真正面からだったので体捌きで身を交わして、落ち着いて首を狙って刀を振った。


 二羽でも怪我をせずに仕留められた事に満足していると、頭の中でピコーンと音が響いた。


 俺はビックリしながらも、エイダスさんに聞いていたので、落ち着いて周囲を確認して、血抜きを済ませた角ウサギを無形箱に入れてから、その場を離れて、安全を確認する。


 そして、深呼吸してから唱えた。


「ステータス」


 名前:トウジ

 性別:男

 年齢:三十二

 職業:【無職】神級職

 レベル:2

 生命力:150 魔法力:90

 体力:80  魔力:45  器用:100  敏捷:120

 攻撃力:165(魔鋼小刀+55)

 防御力:160(上位蜥蜴ハイリザードの革鎧+60)

 スキル:【

 無音むおん:

  (味方)自身や対象者(物)が発するあらゆる音を消す

  (敵)相手を喋れなくして魔法詠唱を出来なくさせる 詠唱が必要なスキルも同様 また、音を聞こえなくする

 

 無回流むかいりゅうLv.1:(New)

  刀を用いる剣術 

 

 無毒むどく:

  (味方)自身や対象者(物)の毒を消す

  (敵)自身や対象者(物)から消した毒を無形箱に保管でき、その効力を変化できる 毒を敵の体内に送りこめる

  

 無臭むしゅう:

  (味方)自身や対象者(物)の匂いを消す

  (敵)どんなに嗅覚に優れた者でも、匂いを感じなくさせる

  

 無形箱むけいばこ:

  形のない箱で、何でも入れる事が可能 但し百メートルを越える物は入らない 内部は自動整理される


 俺は歓喜してしまった。レベルアップした。

 生命力も魔法力も元の数値からだと信じられない位に上がっている。そして、攻撃力も防御力もだ。まあ、それは武防具に依る所も大きいが······

 

 そして、スキルが増えた。

 それも地球で学んでいた剣術だ。

 Lv.1と低いが、これから頑張って上げて行こう。

 

 テンションが上がったままだと危ないと判断した俺は、深呼吸して気を落ち着かせた。


 そして、昼にエイダスさんと落ち合うまでに、八羽の角ウサギを仕留められた。レベルは上がらなかったが、昼までに無回流がLv.3になったのは大きな成果だと思う。


 エイダスさんと落ち合ってスキルの事を聞いて見た。無音は落ち合った時にまだ発動していたので解除した。すると、


「トウジ、このスキルはヤバいぞ!」


 興奮したエイダスさんに迫られた。


「俺はトウジの姿が見えなくなると、スキルは解除されるだろうと考えていたんだ。だが、トウジが俺の反対方向に行き、姿が見えなくなってもスキルは解除されなかった。少なく見積もっても一キロメートル離れても大丈夫なんだ。こんなスキルは俺は初めてだよ!」


 俺もそれを聞いてビックリした。

 俺が考えていたのは、離れてしまうと解除じゃなく、効果が弱くなり、近付くとまた強くなると思っていたのだが······


 離れた状態でもその効果は変わらなかったようだ。

 因みにエイダスさんは十三羽の角ウサギを狩っていた。さすがだ······


 俺はスキルが増えた事は言わずに、レベルが上がって、基礎能力の数値が思った以上に増えた事をエイダスさんに伝えた。


「本当か! 初日にレベルが上がるなんて、トウジは凄いな! サヤは二日目にやっと上がったんだ」


 そして、エイダスさんは考えてから言った。


「この草原の奥に、林程度の森がある。そこには角ウサギよりも強い魔物が居るんだが、今のトウジなら大丈夫だと思う。

既に八羽の角ウサギを狩っているなら、林の魔物を一体でも狩れば、恐らくもうひとつレベルが上がるだろう。どうだ、トウジ。挑戦してみるか?」


 エイダスさんにそう聞かれた俺は直ぐに頷いた。


「はい、挑戦してみます」


「よし、それじゃ、行ってみよう」


 と、昼食も食べずに行こうとしたエイダスさんを止めて、落ち着いて昼食を食べた。


 無形箱はどうやら食べ物などは、時間停止をしてくれてるようだ。

 朝に購入したままの少し温かい状態だったので、それに気付いた。

 しかし、それもエイダスさんには黙っておいた。


 エイダスさんは狩った角ウサギを、自前の魔法バッグに血抜きをして入れているそうだ。

 時間停止機能はないが、時間遅延機能があり二日程は持つらしい。

 まあ、今日中に解体して売るつもりらしいが。

 

 そして、俺達は林に着いた。

 エイダスさんに話を聞くと、ここに居るのは大牙イノシシで、中級冒険者が最低二人で倒す魔物らしい。

 狩る際のポイントは、林から草原へと誘き寄せて、自分達が林を背にするのが良いらしい。


 上位種の暴れイノシシとは違い、走り出したら止まれないそうなので、木を背にして突進を交わすと自分から木に突っ込み勝手にダメージを負っていく少し残念な魔物だそうだ。

 狩る側からすれば非常に助かる間抜けさだが。


 そして、林の入口付近でガサガサと音をたてていたら、大牙イノシシがこっちに向かって走ってきた。

 俺とエイダスさんは慌てて草原に走る。

 そして、俺に向かって突っ込んできたので、身を交わすとそのまま止まらずに十五メートル程駆け抜けてから、足を踏ん張って止まろうとした。

 が、それでも更に五メートルぐらいは進んでいる。

 怒りながら振り向いた大牙イノシシは木を背にしている俺を見つけて再度、突っ込んできた。

 俺はギリギリまで引き付けてから身を交わした。


 結構な大木を背にしていたので、正面からぶつかった大牙イノシシはフラフラとなっている。


 そこに俺が振った刀がスルリと首に入り、その首を落とした。


 その瞬間にまた、頭の中でピコーンと音が響いた。

 しかし、今はこの大物の血抜きが先だと考えて、エイダスさんにロープを借りて後ろ足を縛り、大木の枝を利用して逆さにした。


 血抜きが終わったら解体はせずに、落とした頭と一緒に無形箱に入れた。


「トウジ、どうだった?」

 

 エイダスさんに聞かれたので、

 

「またひとつレベルが上がりました」


 と俺は素直に答えた。


 エイダスさんは俺の返事にニカッと笑い、

 

「そうか、よし。やったな。今日はもうこれで終わりにしよう。町に帰って解体場に行って、自分達が要る分だけ解体して、他は売ろうじゃないか」


 そう言ってエイダスさんが町に向かって歩き出したので、俺もステータスの確認は宿に戻ってから落ち着いて見ようと考えて、後を追いかけた。


 町の解体場は誰でも使用する事ができて、エイダスさんは三羽の角ウサギを解体した。

 持って帰ってエルさんの店で出す食材にするそうだ。

 俺は二羽の角ウサギを解体して、大牙イノシシもエイダスさんに手伝ってもらいながら解体した。

 肉の半分は無理矢理エイダスさんに持たせた。

 少しでもお世話になったお返しになればという気持ちだった。

 残りはバーム商会に持って行き、買ってもらった。

 俺が角ウサギが六羽と大牙イノシシの頭で何と、大銀貨二枚(凡そ十万円)で買取して貰えた。

 大牙イノシシの牙が値段の大半らしい。


 エイダスさんは角ウサギが十羽と三羽分の角で、丸銀貨一枚と大銅貨二枚(凡そ一万二千円)だった。

 

 明日の朝、同じ時間にエルさんが迎えにくると俺に言ってから、ホクホク顔でエイダスさんは帰っていった。

 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る