第8話 美女と美少女が半端ない件

 

 北門から出た俺達は一キロ先にある森に向かった。

 ここには、地主オオカミや猛毒オロチがいるらしい。

 中級冒険者(D級~C級)がヤられる事もある猛毒オロチは、皮·肉·血·毒·牙が買取対象で、キレイに倒したら一体で大銀貨一枚(凡そ五万円)になる。

 その所為か、エルさんの気合いが凄かった。


 地主オオカミは、皮·肉·牙·骨が買取対象だが、一体で丸銀貨一枚(凡そ一万円)なので、テンションが上がらない(byエル)そうだ。


 そして、森に入って索敵していたエルさんが、お目当てを見つけた。

 俺は検証を兼ねて、三人を同体と見なして無音をかけてみていた。

 すると、一人一人にかけていた時と違い、互いに話が出来たので、複数で狩りに来た時にはこの使い方をする事になった。


「あそこに一体とあちらにもう一体いるわ! サヤちゃんはアッチをお願い! 私はこっちに行くわ! トウジさんはそこで見ていて下さい!」


 俺は頷くしか出来なかった。だって圧が凄いんだもん······

 

 サヤちゃんは言われた方に向かい、刀を一閃する。

 木の上で獲物を待っていた猛毒オロチの首が落ち、その下に既に刀を血を受ける樽に持ち替えたサヤちゃんが立っていた。


 首を指差して、俺に回収するように指示するサヤちゃん。俺はそのまま無形箱に首を入れた。


 一方、エルさんは首を皮一枚残して切り、サヤちゃんと同じように下で樽を持ち血を受けていた。


 俺はそんな二人を見て、半端ないなと思っていたら、エルさんから指示が飛ぶ。


「トウジさん、血の匂いで地主オオカミが来てます! 対処してください!」


 俺は慌てて周囲を見る。

 すると、木に隠れながらこちらに来る四足歩行の魔物を八体見つけた。


「分かりました」


 俺はエルさんに返事を返して刀を抜く。


 先手必勝の気持ちで、最初にエルさんに飛びかかろうとした地主オオカミの頸動脈を切り裂き、返す刀で、二体目と三体目の頸動脈を切り裂く。


 いきなり三体もヤられたのを見た残り五体は、サヤちゃんに的を移す。


 しかし、サヤちゃんは既に血を受け終えていて、しかもオロチも魔法鞄に収納済みだった為に、かかってきた三体を俺より早く仕留めた。


 B級というのは、こんなにも凄いのかと俺は感心した。

 残った二体はキャンキャンと哭きながら、森の奥へと逃げていった。


 その時に俺は視線を感じた。


 かなり高い場所からの視線だ。俺は顔を向けずに目と意識だけを視線の来る先に向ける。


 すると、気付かれたと悟ったのかエルさんやサヤちゃんが倒したオロチよりも、二回り大きな猛毒オロチが俺達を目掛けて襲ってきた。


 俺は視界の片隅でその動きを見ていたので、慌てずに刀を振った。

 狙いは違わずに、エルさんと同じように首皮を一枚残して切り裂き、溢れる血を慌てて無形箱から出した樽で受けた。


 俺が倒したオロチの気配に気付いてなかった、エルさんとサヤちゃんは驚き、二回り大きなオロチを見て、更に驚いた。


「「王毒オロチッ!!」」


 血を受け終わった俺に、エルさんが言う。


「ト、トウジさん。良く気付きましたね」


 続けてサヤちゃんが買取価格を教えてくれた。


「王毒オロチは猛毒オロチの上位種で、買取価格は大金貨一枚(凡そ百万円)が相場です」 


 そこでエルさんとサヤちゃんの闘志に火が着いたようだ。


「サヤちゃん、これはオスだから更に二倍大きいメスが近くにいる筈よ!」


「エルさん、最大限に索敵を強化します! 見つけて必ず狩りましょう!」


「「トウジさんは、露払いをお願い!!」」


 二人の気迫にハイとしか返事できない俺。

 そうして、二人の後をついていき、時折現れる地主オオカミを狩りながら、レベル上がったけど見る時間は無さそうだなと考えていた······


 そして見つけた洞窟。

 サヤちゃん曰く、これはオロチの巣穴らしい。

 そして、この奥にオスよりも値段が高いメスがいるそうだ。

 しかし、二人ともこんな事は想定してなかった為に、灯りの用意がないという。


 エルさんは初級魔法(火・水・風)で、サヤちゃんは中級魔法(風・土・闇)なので、光源がないと言う。

 そこで俺は二人に言った。


「あの、俺のスキルに光源があるから入って見ますか?」


 二人は俺を称賛してくる。


「素晴らしいわ! 人妻じゃなかったらトウジさんに抱かれても良かったぐらいっ!」


『いや、不倫はダメですよ。エルさん』


「トウジさん、私はソロで活動してるんですが、レベル上げが終わったら、パーティーを組みましょう!」

 

『いや、俺が冒険者登録をしたとして、F級始まりだし、そんな初級者がサヤちゃんとパーティーを組めば、やからに絡まれるから、遠慮します』


 俺は心の声が出ない様に最大限の注意を払い、二人に言った。


「ハハハ、二人とも有り難うございます。たまたま、昨日のレベルアップで新たに得たスキルだから、気にしなくても良いから」


 俺はそう言って、真っ先に巣穴の入口に向かい、起点を俺の頭上一メートル上の空間に定めて、無尽灯を発動した。範囲は半径五メートルに設定した。


 エルさんとサヤちゃんはそれを見て気合いを入れる。


「よーしっ! 行くわよ! サヤちゃんが先頭で、真ん中がトウジさん! 殿しんがりは私ね!」


「トウジさん、この灯りの範囲はこれが最大ですか?」


 サヤちゃんに聞かれたので、俺は俺を中心にして、あと三メートルなら範囲が広がると伝えた。


「分かりました。王毒オロチのメスを見つけたら声をかけますから、最大にして下さい」


 とサヤちゃんが言う。

 俺は分かったと返事をして、サヤちゃんと三メートル離れて歩きだした。


 その俺の後を同じく三メートル離れて着いてくるエルさん。

 何故か背中に味方からの威圧を感じながら、俺は進んだ。


 道中にいたスライムを俺が狩る。

 その数は三十を超えてからは数えるのを止めた。

 俺がスライムをスパスパ斬るのを後ろから見ているサヤちゃんが凝視しているのが分かるが、何だろう?何も言ってこないのでそのまま進むが。

 しかし、途中でまたレベルが上がった。

 これでレベル5になったなと思いながら、奥へ奥へと進む。


 巣穴に入って三十分が経った時に、サヤちゃんから質問された。


「トウジさん、随分長くスキルを使用したままですけど、生命力や魔法力は大丈夫ですか? かなり減ってませんか?」


 俺は素直に答えた。


「いや、サヤちゃん。実は俺のスキルはどちらも消費しないんだ。何故かは俺にも分からないから、聞かれても困るけど······」


 俺の返事を聞いたサヤちゃんはビックリする。


「えっ、! どちらも消費しないスキルなんて有るんですかっ!」


「実際にどちらも消費してないから、有るとしか俺は言えないんだけど······」


「トウジさんっ! 王毒オロチのメスを狩ったら、冒険者登録に行きましょう! そして、私とパーティーを組んで下さい。よろしくお願いしますっ!!」


 また、頼まれてしまった。


「ハハハ、まあ無事に終わったら考えてみるよ」


 俺の返事を聞いたサヤちゃんは、


「絶対ですよっ!」


 と力強く言った。


 しかし、その直後に前を向き俺とエルさんに声をかける。


「居ました! メスです!」


 それを聞いて俺は最大半径にした。

 

 が、俺自身が驚いた。

 

 昨日、確認した時は最大八メートルだった筈の灯りが、今はどう見ても半径十五、六メートルを照らしている。

 どうやら俺のレベルが上がると、最大値も上昇するスキルだったようだ。

 しかし、そのお陰でメスが確りと確認出来る。


 前に出てきたエルさんと、サヤちゃんが二人で王毒オロチのメスに迫る。


「行くわよ! サヤちゃん!」


「はい、エルさん!」


 迫って行く二人に首を伸ばし、噛みつこうとするメスのオロチ。その巨体からは信じられない位の速さだ。


 しかし、二人はそれを躱して攻撃する。


 が、二人の攻撃はその身に纏う鱗に弾かれた。

 それでも、さすがは高レベルの二人である。

 二人ともに首筋の同じ場所に何度も攻撃している。

 流石に鱗も耐えきれずに飛んで行く。


 そして、オロチの首筋にサヤちゃんの刀が入った瞬間に、オロチの口から霧が生まれた。


「ヤバい! 広範囲の毒霧よ! サヤちゃん、下がって!」


 言ってるエルさんも範囲内に居る為に、霧を吸ってしまう。二人の顔色が蒼黒く変わった。


 即座に俺はスキルを発動した。


 無毒。


 瞬時に二人の顔色が血色良くなる。


 そして、サヤちゃんの刀が首に入ったのが致命傷だったオロチはそのまま息絶えた。


 すかさず俺は樽を持って血を受ける。

 戦闘に参加しなかったから、雑務は俺の仕事だと考えたからだ。


 しかし、戦闘を終えた二人はそんな俺に質問を浴びせた。


「ト、トウジさん、何かした?」


「王毒オロチの毒が消えたっ! 何で? トウジさん、分かる?」


「えっ、! エルさんは俺のスキル知ってますよね? 無毒を」


「えっ、! あれって、王毒オロチの毒も消せるのっ!?」


「えっ、! えっ、! 何ですか? そのスキル?」


「いや、だから俺のスキルで無毒っていうのがあって、毒を消せるから使ったんだけど······ ダメだったかな?」


 ブンブンと首を横に振る二人。

 そして、エルさんが教えてくれた。


 王毒オロチのメスの毒は、吸ってしまうと体力が高い者でも、凡そ二十秒で死に至るそうだ。

 そして、町で売られている毒消しは効かないので、吸ったら死を待つのみらしい。

 そんな毒を瞬時に消し去った俺のスキルは途轍もないモノだと二人に言われた。


 が、俺にしてみれば何度も正確無比に同じ場所を攻撃し続けた二人の方が凄いと思っていた。


 半端ねぇな、この二人は。


 そして、俺達は遅くなった昼食を食べて町に帰った。


 俺の倒した王毒オロチのオスのバーム商会での買取価格は、大金貨一枚と角金貨三枚(凡そ百三十万円)に。

 

 エルさんとサヤちゃんが倒したメスは何と、大金貨三枚と金貨一枚(凡そ三百五十万円)になった。

 それにプラスして、森の入口で倒した猛毒オロチが二体。それぞれ大銀貨一枚(凡そ五万円)で売れた。


 因みに、地主オオカミとスライムは今回は売ってない。


 エルさんと、サヤちゃんはメスの分を三等分しようと言うが、俺は一切戦闘には参加してないから、断固として断った。

 何とか二人を納得させて、一旦宿に戻る事にした。晩飯は、エルさん宅でいただくが汗を流したいからだ。


 因みに、サヤちゃんの泊まる宿も同じ『豚の箱』だったので、二人で宿まで一緒に戻った。


 数年振りにデート気分を味わえて、嬉しかった。

 

 

  

 


 

 



 


 

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