第47話 ヒジリの件

 コウが繰り出す魔法を全て受け止めているマコト。既にコウの両手の親指以外は折れている。次の攻撃を受け止めればコウは両方の親指を折ると言っている。

 しかし、指を折ってあの平然とした顔は何故なんだ? まるで痛みなど感じていないかのようだが······ 答えはコウ自身が言ってくれた。


「クククッ、俺は痛みを一切感じないスキルを持っていてな。姉ちゃんが攻撃をして俺に当たったとしても痛みは感じないから、安心して攻撃をしてくれや。その攻撃の隙を狙わせてもらうよ」


「では、遠慮なく······ 氷炎風斬!」


 マコトのはなった魔法がコウの腕に当たる。斬り飛ばしはしなかったが、かなり深く入っている。が、コウは気にせずに魔法をはなった。


「闇の千手!」


 コウから出てきた闇の固まりから千は有ろうかという手が現れて、マコトに向かって伸びる。

 その手がマコトに届こうとした時に、マコトが魔力を鎧に与えた。


「光の守護!」


 鎧に集まった魔力が鎧を光輝かせる。これは、マコトの父であるケンジさんのスキルを参考にゴルドーさんが、鎧に光属性を付与してくれた効果だった。鎧から溢れる光により、マコトに届く前に消えていく闇の手。そして、全ての手が消えた時にコウは潔く言った。


「ケェー、俺の奥の手を防がれてしまったなら、俺の負けだな。約束通りに親指も折ろう」


 しかし、マコトはそれを遮った。


「負けを認めるのね。なら、その親指は折る必要はないわ。最初に決めた通りに貴方の金玉を潰させてもらうから」


 そう言うと魔法を発動するマコト。


「闇の閃手!」


 マコトの手から漆黒の両手が伸びてコウの股間に伸びたと思ったらマコトの目の前に戻る。その漆黒の手には一つずつ玉がつままれていた······ マコトが冷酷に言う。


「これは貴方の睾丸よ。触って確かめてご覧なさい」


 言われて折れた指で自身の股間をまさぐるコウ。


「な、無いぞ! 俺の玉が無い!」


 動揺するコウの目の前でマコトは漆黒の手で睾丸を握りつぶした。


「タマナシさん、これで貴方とは真の決着がついたわね。これからどう生きるかは貴方次第よ」


 そう言ってニッコリ笑ったマコトを見て、絶対に怒らすまいと俺は心に誓った······


 そこに、ヒジリが大声で笑いながらコウに下がるように言った。


「ハハハハッ、カマになっちゃったね、コウ。さあ、負けたら下がるんだ。次はヒカルの番だね。誰を指名するんだい?」


「そうだな······ 俺はあそこの王子の隣にいる優男やさおとこを指名しよう」


 そう言ってナッツンを指名したヒカル。


「キヒヒヒ、私をご指名ですか。お相手いたしましょう」


「うん? その笑い声······ ひょっとして宰相か?」


「ええ、そうなんですよ。コレが宰相ナッツンの真の姿ですよ。初お目見えですな」


「ふん、何だ! 強者かと思ったらあの宰相殿か······ 拍子抜けしたが、まあ良いか。ちょっと遊んでやろう」


 そう言ってヒカルは何もない空間から槍を出した。それを見たナッツンはゴルドーさんの作った特注カードを出す。


「何だ? まさかそのカードが武器だと言うのか?」


 ヒカルがナッツンにそう言うと、


「キヒヒヒ、武器でもあり、防具でもあるんですよ」


 ナッツンはそう答えてカードをきりだした。その鮮やかな手つきは確かにマジシャンだったのだろうと思わせるものだった。


「ふんっ! そんなオモチャで俺の槍を受けれるなら受けてみろ!」


 そう言って槍の届かない間合いからナッツンに向けて槍を突き出すヒカル。すると、槍の穂先から光が飛び出しナッツンに向かった。


 ナッツンは慌てずにきっていたカードを光に向かって広げる。カードに当たった光は跳ね返りヒカルに向かった。それを避けるヒカル。


「只のカードじゃなさそうだな······ それなら直接攻撃だ! コレでも喰らえ!」


 ヒカルはそう言うとナッツンに向かって走り、槍を突き出した。ナッツンの体に入る槍。鮮血を飛び散らし倒れるナッツンがヒカルに見えた。

 しかし、俺達には別の映像が見えていた。ナッツンは既に槍を避けてヒカルの後ろに立っている。そして、後ろからヒカルに声をかけた。


「キヒヒヒ、何もない場所を串刺しにして大丈夫ですか?」


 その声にビクッとなり後ろを振り向くヒカル。そこに立つナッツンを見てから前を見て、先ほど見えた倒れたナッツンがそこに居ない事を確認すると、振り向かずに槍を後ろに振るった。

 今度はかわすナッツン。


「幻術か······ アジなマネを······ しかし、もう効かんぞ! 【神眼】!」


 ヒカルがスキルを発動した瞬間にナッツンはカード全てをヒカルに向けて飛ばした。しかし、それらをことごとく打ち落とすヒカル。


「ムダだっ! この神眼が発動している状態ではどんな攻撃も全て見切る! もはやお前の攻撃は俺には当たらないぞ!」


 ヒカルはそう言ってナッツンに迫るが突然、両足の指が全て切断されて、うめき声を上げた。


「グワァーッ、な、何故だ! 何故見切れなかった······ グッグゥー······」


 それにナッツンが説明をした。


「それはですね、攻撃の意志が私になく、貴方が打ち落とし地面に突き立ったカードを自ら踏みつけただけだからてすよ。キヒヒヒ」


 その声にヒカルは気合いを入れて立ち上がった。


「ふん、だが種明かしをしたのは不味かったな。もうその手は通用しないし、俺はまだ動け······ る······ う、うご、け······」


 そこまで言って倒れるヒカル。ヒジリは呆れたように首を振りナッツンの勝利を告げた。


「カイ、悪いが対戦相手を指名する前にヒカルを下げてくれるかな? 有り難う。それじゃ、気を取り直してカイは誰を指名するんだい?」


 しかしカイは何も言わずにその場から消えた。


「アレ? カイの奴、僕の思惑に気がついたかな······ まあ、良いか。後であいつを追えば。それじゃ、トウジさん。リーダー同士で最後の対戦と行きたいところだけど少し待ってもらえるかな? 今から一仕事するから······」


 そう言うと傷付いた仲間の方を見るヒジリ。そして、仲間に向かって微笑むと言った。


「皆、良く頑張ったね。取り敢えず出血多量で死なないように止血だけはしておいたけど、今から皆を癒すよ。さあ、目を閉じて僕の力を受け入れるんだ······」


 そう言うとヒジリは両手を仲間に向けてかざした。

 その瞬間、ヒジリの仲間達から血液が奔流となってヒジリの両手に吸い込まれる。


「ガアアッ、ヒ、ヒジリ! て、手前てめー、何をしやが······ ヴゥーー」


 コウがそう言いながら干からびてミイラになった。そして、他の皆も同様にミイラになってしまった。

 突然の出来事に唖然とする俺達。そんな俺達に振り向いたヒジリはニッコリと笑いながら、


「もう一仕事あるから、もう少し待って下さいね」


 そう言って国王に向かい、その胸を手刀で貫き国王の体から黒いモヤを取り出した。モヤが喚き声を上げる。


『グオッ! ヒジリ、貴様何をした。我を体から引きずり出すとは!』


「フフフ、悪いけどね、₢₰さんにはこの世界からご退場願おうかと思ってね」


 二人が話している隙に俺は国王に無傷をかけて無在もかけた。それに気づいたヒジリが言う。


「おや、助けますか? しかし、既に脳の中は廃人になってますよ、国王は」


 そう言われたが、俺は反論した。


「例えそうであろうとも、救えるなら救うさ」


「僕の仲間は見殺しにしたようですが······」


「さて、それはどうかな?」


 俺の返事に仲間だった者達の姿も見えなくなっている事に気がつくヒジリ。


「ヤレヤレ、とんだお人好しのようですね。トウジさんはまるでアキヒトのようだ」


 そう言って憎々しげに黒いモヤを握りつぶしたヒジリ。


『ガアアッ、貴様では฿₥₩₮様には勝てぬぞぅ······』


 その一言を最後に黒いモヤは消えた。そして、俺達の方を向き、ヒジリが言う。


「ここでケリをつけても良いのですが、僕も忙しい身でしてね。逃げたカイを追わなきゃダメですし、この世界を救わなければならないから、今回はコレまでとしておきましょう」


 そう言って逃げようとしたヒジリに俺は無空間を使って迫る。が、ヒジリの前に幾つもの空間が現れて、目の前に見えるのにヒジリとの距離が数十キロ開いたのに俺は気づいた。


「フフフ、ムダですよ、トウジさん。貴方は僕を捕まえる事は出来ません。また、いずれ会いましょうね」


 そう言って仲間だった者達を見捨てたヒジリは俺達の目の前から消えた。


 俺は隠していた国王と、先ほどまで対戦してヒジリに血を吸われて瀕死になっていた男達を出す。死んだと思われていた男達だが、辛うじて生きていたため、俺が無病が進化した無病息災をかけて、失われた血液を戻してやっていた。しかし、欠損等は治さない。それでも、男達は俺の方を見て言った。


「あんたが助けてくれたのか、何故だ?」


「ふん、人を助けるのに理由がいるようだから答えてやるが、俺はお人好しなんだとよ。それが理由だ。但し、失った手足を戻したりはしないぞ。そして、今後俺達にちょっかいを出すな! もしそんな事をしたら殺してくれとお前達が頼むような状況で永遠に生かしてやるから、覚悟しておくんだな! さあ、動けるだろう、この場から立ち去って二度と俺達に顔を見せるな!」


 俺がそう言うとノロノロと起き出した男達は何も言わずにこの場を去っていった。一応、攻撃されないように、エーメイさん達に大人しく出ていくようなら手を出さないように伝えておく。

 本当にお人好しだな、俺は······




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