第46話 決着はまだの件

 フィオナを指名したキョウジは魔法を駆使してフィオナを倒そうとしていた。それも、毒魔法や麻痺魔法、混乱魔法など、体に傷をつけずに倒そうと考えているのが分かる魔法ばかりだった。


「クククッ、その乳をこの両手でたっぷり揉みし抱いてやるからな······


「誰が貴方なんかに揉ませるって言いました。私の胸を好きにしていいのはユウヤともう一人だけよ。もう一人は誰とは言わないけどね」


 フィオナの告白にビックリした顔をする俺達。俺は心のなかで、クソッ誰だその幸運な奴は。と思っていたが、考えが顔に出ていたようで、サヤとマコトにつつかれた······ スマヌ妻よ。これも男のサガなんだ。諦めてくれい。

 などと、バカな事を考えていたらケリを付けるべくフィオナが魔法を剣に纏わせて振るった。


「バカめ! そんな攻撃が当たるかぁ!」


 キョウジの言う通り普通なら当たらない攻撃だが、振るった剣先から魔法が飛びキョウジの右肩に当たる。するとキョウジの右腕が石化した。


「なっなっ、何! うわっ、俺の、オレの腕があーー!」


叫ぶキョウジに容赦なく飛ぶ第二の魔法。それは両足を石化させた。しかし、そこでキョウジは笑い出した。


「クックックッ、ハァーハッハッハー! バカめ! 状態異常魔法は俺の真骨頂でもある。勿論俺も石化魔法は使える。そして、その解除もな。見て諦めろ! 【石化解除】!」


 シーン······ 何も起きない。相変わらずキョウジの手足は石化したままだった。慌てるキョウジ。


「な、何で解除しない。オレの魔力はまだまだ余力があるのに、何故だ?」


 フィオナが答えを教えてやった。


「それはね、ある人以外は解けない石化ドラゴンの石化ブレスと同じモノだからよ。貴方はこの先一生それで過ごしなさい。ただ、所詮は人である私が唱えた魔法だから、五年もしたら石化部分の風化が始まるわ。でも安心してね、死にはしないから」


 そう言ってニッコリ微笑みを浮かべたフィオナを恐怖に満ちた眼差しで見たキョウジは、ヒジリに向かって言った。


「ヒ、ヒジリさん。あんたなら治せるだろう! た、頼む、俺を今すぐ治してくれ!?」


 そう言われたヒジリはアッサリとした口調で言った。


「キョウジ、対マンなんだから僕は手を出せないよ。まあ、全ての対マンが終わるまではね······ コウ、悪いけどあのバカを下げてくれるかな。ああ、有り難う。それじゃ次はラック、君だ。誰を指名するかな?」


「俺はそうですね~······ 英雄ユウヤにお願いしようかな? いや無回流のユウキにね······」


 指名されたユウヤは怪訝な顔をする。指名したラックという男の顔を凝視しているが見覚えはないようだ。そこで、怪訝けげんに思いながらも前に出たユウヤにラックが言った。


高根康明たかねやすあきに聞き覚えはないかな?」


「康明君は僕の友人ですが、何か?」


「友人、ユージンね······ 弟が聞いたらさぞかし喜ぶだろうなぁ。あのいつも自分の優勝を阻んでいた無回流のユウキが、自分の事を友人だと言ってくれたって!? ふざけるな! お前が弟を打ち負かすたびに弟は壊れていったんだよ! 明るく良く笑う弟だったが、笑いも無くなり、剣、剣、剣だっ! 終いには体を壊して入院だよ! お前のせいだ! だから、弟の為にお前にはここで壊れてもらうぞ!」


 そんな見当違いな憤りを見せるラックという男に圧倒されて何も言えないユウヤに代わって俺が鼻くそをホジりながら言ってやった。


「なーにをバカな事を言ってるんだ。お前の弟が入院したのは無茶な稽古をして体を壊した所為だろう。その責任はその無茶な稽古を止めずに見ていた兄貴であるお前の所為でもあるな。ユウヤに弟が負けたのは、弟が弱かったからで、それもユウヤの所為じゃないな」


 俺の言葉に激昂するラック。


「黙れ、黙れ、ダマレーーッ! 無回流師範代、秋刀魚蕩児さんまとうじ! ユウキをヤったら次は貴様の番だぞ!」


「その名で俺を呼ぶなー!」


 俺はキレてラックに向かって行こうとしたが、周りの皆に止められて仕方なく諦めた。そんな俺を見て肩に力の入っていたユウヤから力が抜けた。


「ハハハ、先生。それも含めて僕がケリを付けますから、そこで大人しく見ていて下さいよ。さあ、始めましょうか、ラックさん。いや、周円しゅうえん流の孝明たかあきさん」


「ふんっ、鈍いお前も弟の名を聞けば気がつくか。良いだろう、始めようじゃないか! お前を壊す死合をな!」


 そして、両者がスラリと刀を抜き出した。ユウヤの刀はゴルドーさんの鍛えた名刀だ。銘は【活殺刀かっさつとう】。活かすも殺すも己の心次第だと言いながらユウヤに渡していた。それを正眼に構えるユウヤ。

 一方で抜いた刀をダラリと下げたままのラック。柳生十兵衛でも気取っているのか? 無形むぎょうくらいのような構えだ。

 さて、周円流にそんな構えがあったかな? 俺は見覚えのない構えに少し警戒をしながら見ていた。がユウヤは尺足を使用してジリジリと間境いに近づいて行く。そして、後五寸進めば一足一刀の間合いになる場所で止まるユウヤ。


「クククッ、どうした。怖じ気づいたか?」

 

 ユウヤを挑発するラックだが、ユウヤは涼しい顔で言った。


「僕からは仕掛けませんよ。周円流奥義、刃隠はがくしの餌食えじきに好んでなる趣味は有りませんから」


 ユウヤの言葉に驚くラック。


「何故、貴様が知っている。そうか、親父殿に聞いたのだな。しかし、待つだけが刃隠しの技の入りでは無いぞ!」


 そう言って踏み込んだラックは、正面から見ていたら絶対に見えない角度から刀を振るった。剣先が下からユウヤの足の付け根を狙って飛ぶ。

 しかしユウヤはその攻撃を軽くなした。まるでそこに来るのが分かっていたかのように。

 俺ならもう少し慌てて対処してただろうなぁ······ 何て思いながら見ていたら、峰に返した刀でラックの足の付け根を叩いたユウヤ。しかし、その一撃は強く、骨を叩き折ったようだ。

 それでも倒れずにユウヤを睨み付け折れた足を浮かせて片足で飛び上がり刀を振り下ろすラック。

 その刀を受け流したユウヤはもう片方の足の付け根に峰を打ち付けた。骨が砕ける音が響き、着地出来ずに倒れ込むラックから刀が届かない場所まで離れてユウヤは言った。


「貴方の敗けです。降参してください。それと、訂正が一つ。僕は親父どのからほとんど教えを受けていませんから悪しからず······」


「バカか! 俺が降参などするか! 殺せ! それにそんな嘘をついてどうなる? お前が知らない筈の周円流の奥義を知っていたのは、父親から聞く以外にはないだろうが!」


 そこにヒジリが口を挟んだ。


「君の敗けだよ、ラック。全く少しは使えるかと思ったけど、君たち三人には失望したよ。後でお仕置きだね。さあ、両手は動くだろう? 下がりなさい」


 ヒジリがそう言うと痛みなのか恐れなのか分からないが、顔を真っ青にしたまま手で体を動かして素直にラックは下がっていった。

 それを見届けてからヒジリが言う。


「さあ、前座は此方こちらが全敗したけれど、これからはそうはいかないよ。コウ、対戦相手を指名して」


「おう、ヒジリ。俺はお前を指名するぞ、乳の立派な姉ちゃん」


 コウと呼ばれた青年はマコトを指差してそう言った。マコトは慌てもせずにコウを見て前に出る。


「ヘヘヘッ、賭けをしようじゃないか、姉ちゃん。俺が出す攻撃を受け止めたり反撃したり出来たら、俺は自分の手の指の骨を二本折ろう。しかし、俺の攻撃が姉ちゃんに当たったら、下を一枚ずつ脱いでいってもらおうか? どうだ?」


「ええ、良いわよ。但し条件の変更を求めるわ。私に一撃も当てる事が出来なかった場合は貴方の両方の金玉を潰すというのでどうかしら?」


 マ、マコトさん、き、きん○まなんて乙女が口にして良い言葉じゃありません。俺はそんな風にマコトをしつけた覚えはありませんよ······


「ギャハハ、顔に似合わず下品な事を言う姉ちゃんだな。良いぜ、俺の出した条件にプラスして姉ちゃんの出した条件も飲もう。しかし、俺が勝ったらその場で姉ちゃんは全裸だけどな」


「わかったわ」


「条件も整ったようだし、始めようか」


 ヒジリの言葉と同時に相対する二人が魔法を繰り出した。


「極上の火閃かせん!」


「絶対零度の防壁!」


 火魔法がコウ、防御魔法がマコトだ。コウの火閃かせんはマコトの防御を貫けずに消えた。それを見たコウは、


「小手調べとは言え本気で出した俺の魔法を受け止めるとはな。これは楽しくなってきたぜ! 約束だ、俺の指を二本折ろう」


 そう言って左の小指と薬指を躊躇ちゅうちょせずにへし折った。プラプラする指を気にもせずにコウは言う。


「次も小手調べだが、本気でだすから注意しなよ、姉ちゃん」


「お気遣いなく、全て受け止めてあげるわ」


 二人の間に見えない闘気が漂っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る