第62話 国王がきた件
ハーベラスは自身の股間を凝視して固まっている。良し、このまま放っておこう。
俺はナラズ達に声をかけた。
「さあ、もう大丈夫だから、こんな所からはさっさと出て行こう。ギルドでみんなが待ってるから」
「いや、トウジさん。俺は一発は殴らないと納得行かない!」
ナラズは気がついてないようなので、俺はナラズにマコトの魔法によってハーベラスに起こった事を説明した。
「ブッ! ウワーハッハッハ、本当ですか? それなら俺も納得しました。さあ、出ましょう」
ナラズも納得したので、無在をかけたまま無空間で移動しようとした時に子爵が扉をノックした。
俺はソレを無視して皆を冒険者ギルドのマスターの部屋に送った。ややこしくなるのは目に見えてるし、これ以上は子供達の教育に悪いと思ったからだ。
無空間でギルマスの部屋に皆が入った後、俺も移動しようとした時に子爵と私兵が一人入ってきた。
そして、その私兵が腰の剣を抜いて俺のいる場所に剣を振った。俺は嫌な感じがしたので慌ててギルマスの部屋に逃れた。無空間を閉じる前にその私兵が、
「チッ、逃げたか······」
そう言うのが聞こえた。まさか、無在状態の俺に気がついたのか? だとしたら何故だ? 俺は今まで無在状態で見つかった事がない。それを見抜く存在に出会った事がないからだが、先程の男は明らかに俺に気づいていた。そんな能力があるのか? 考えても答えは出なかった······
その頃、ハーベラスの部屋に入った子爵は私兵を怒鳴りつけていた。
「ケビン! いきなり剣を抜いて振り回すな! ビックリするだろうが!」
「はいはい、悪かったよ。何かの気配を感じたんでな。念のためにだよ」
子爵の事も雇い主とは思ってない口調で返答したケビンだが、それには何も言わない子爵。
子爵はケビンの返答を聞いて納得したのか、ハーベラスの方を見た。侯爵は、
「わ、私のジュニアが、ジュニアは何処に行った······ ジュニアがいないとアンナ事やコンナ事が出来ないではないか······」
とブツブツと呟いている。
「こ、侯爵様、
しかし、子爵の問い掛けには答えずブツブツと呟き続けるハーベラス。子爵は思わずケビンを見た。ケビンはハーベラスの前まで行き、股間を見た。
「ブワーハッハッ、ねえよ。こいつの【竿】が無くなってる! 笑えるなぁ!」
「こ、こら! 無礼者! 侯爵様に対して何と言う口の聞き方だっ!」
「あっ!? 俺には関係ねぇよな?」
ケビンが凄むと子爵と目の前のハーベラスも震え上がる。
「そもそも俺は面白いからって言う理由でお前らに力を貸してやってるんだ。そこを履き違えるんじゃねえぞ」
そう言うとケビンはハーベラスを
「ああ、こりゃ魔法だな。オリジナルってヤツだ。二ヶ月程で元に戻るが、戻せない事もない。今、無理に戻しても良いが、完全に解析は出来ねえから、戻しても機能が死んでしまう可能性があるな。どうする? 戻すか?」
ハーベラスはそれを聞いて、
「じょっ、冗談じゃない! 私はまだジュニアを使ってアンナ事やコンナ事をしなくては行けないのだ! 二ヶ月ならば辛抱する!」
そうケビンに言った。ケビンはそんなハーベラスを見て、
「だったらその薄汚ねえ裸体をとっとと隠せや。見苦しい」
そう吐き捨てた。子爵はそれを聞いてギョッとしたが、ハーベラスはノロノロと動いて服を身に纏いはじめた。
ギルドマスターの部屋に移動したトウジ達は、無事に戻ってきた事で皆に良くやったと声をかけられた。そして、三人の女の子達からはお礼の言葉をもらい、ヨーゼフ院長からも丁寧に頭を下げられた上に依頼料だとお金を差し出された。それをトウジは受け取るのを固辞して、子供達の為に使用してくれとヨーゼフ院長に言った。
ナラズもそれに言葉を足してくれたので、依頼料は受け取らずにすんだ。
「それで、これからどうしたら良いかな?」
ヨーゼフ院長がそう俺達に聞いてきたので、
「今日と明日はギルド内でみんなが過ごせば良いよ。マコトの結界は生半可なヤツには破れないから。明日か明後日には国王がこの町にくる筈だから、そうすればハーベラスも終わりだ」
俺はそう返事をした。ヨーゼフ院長は俺の言葉に安心したようだ。俺はそのまま部屋を出て、ギルド周囲を無謬で確認する。悪意ある者はギルドに近づく事すら出来ないようだ。マコトの魔法は凄いな。サヤはギルド地下にある訓練場に行ってる。
『剣風』がいると知った女性冒険者が訓練してくれと頼みにきたのでそれに応えたのだ。
俺はそのままギルドを出てマダラの隠れ家に向かう。そこでマダラと三姉妹に明日か明後日には全てが良い方向に行くと思うと伝えた。
「そうか! それなら俺も安心してこの
マダラがそう言って頭を下げた。俺は後少しだけ、ここに隠れていてくれと頼みギルドに戻る事にした。
その道中である。大通りで俺は豪華な馬車を見た。冒険者ギルドに向かっているようだ。
あれ? 思ってたより早い到着だな。国王だろう馬車の後をテクテクついて歩く俺。すると護衛の兵士が俺の方に来て言った。
「失礼だがS級冒険者のトウジ殿だろうか?」
ん? 何で分かったんだろう。だが口調は丁寧だし正直に答えた方が良さそうだったので俺は返事をした。
「そうだが。何故俺がトウジだと分かったんだ?」
「それは私には分かりかねるので、済まないが馬車の中の方がトウジ殿ならば話があると言っているのだ。良ければ馬車に来ていただけるだろうか?」
断る理由もないので俺は了承した。そして、兵士が馬車の中に声をかけた。
「S級冒険者のトウジ殿をお連れしました」
「入ってもらってくれ」
中からそう返事があり、俺は中に入る事になった。入った俺を待っていたのは、
「ナッツン!?」
「キヒヒヒ、暫くぶりですね、トウジさん」
「クフフフ、彼がトウジなんだね」
独特の笑い方をするヤツが増えた······ いや、まあ見た目からそちらがカインの国王、タイサンに間違いないだろう。
「あー、えっと。失礼しました。S級冒険者のトウジです」
俺は驚きを隠して挨拶をした。
「クフフフ、ナッツン宰相から話は聞いてるよ。僕はタイサンという。この国の国王に父と兄が亡くなったからならされてしまった哀れな魔道具士だよ。けど、なったからには不正は許さないつもりだから、そこは安心して欲しい」
俺はタイサン国王の言葉にホッとした。これはナッツンの言った通り、筋を通す男だと感じたからだ。そして、今までにあった事を教えて欲しいと言われた俺はそのまま、ハーベラス侯爵と名も知らない子爵の話を全て話して聞かせた。
俺の話を聞いたタイサンはこのまま冒険者ギルドに向かい、ギルドマスターのザーバスとヨーゼフ院長からも話を聞いてから侯爵の泊まっている宿に向かうと言った。その時に俺達(サヤとマコト)にも着いてきて欲しいと頼まれたので俺は了承する。そして、ナッツンに言った。
「新婚なのにこんな所に来ていて良いのか?」
「キヒヒヒ、心配ご無用です。実はその新妻に尻を叩かれましてね」
「そうなのか。それなら仕方ないな。しかし、かなり早かったが、どうやって移動したんだ?」
「クフフフ、それは僕から説明しよう。実は転位魔法を応用する事に成功してね。今のところゴルバード王国とだけなんだが、転位装置を置いて繋げる事に成功したんだ。早かったのはカインから僕がゴルバードにその装置の設置にちょうど行ってたからだよ」
「はー、そうなんですね。タイミングが良かった。陛下はまだ魔道具の研究を成されているんですか?」
「クフフフ、それは勿論。実はヤーマーラ国から何人かこの国に来てもらって、新たに研究所を作ったんだ。これで、カインからゴルバードに輸出する製品が出来るから、ナッツン宰相にはよろしく頼んでるんだよ」
「陛下は商売っ気もあるんですね」
「国民に少しでも楽しく生活してもらうには、国が頑張って儲けないとね。クフフフ」
「キヒヒヒ。まあ、それだけではないんですけどね。実は神聖皇国ハーネスが何やら企んでいるようでしてね。ケンジさんとアカネさんからも気をつけるようにと連絡が来まして。そこで、兼ねてから親しくさせてもらっていたタイサン陛下に御相談していたのです」
「ケンジさんとアカネさんは大丈夫なのか?」
「キヒヒヒ、既に皇国を出て海を渡って違う大陸に行くそうです。お二人は何処まで行かれるんでしょうね?」
「そうか。まあ、サヤやマコトには連絡が来てるようたから、心配はしてなかったけど。まさか海を渡るとはな」
「キヒヒヒ、トウジさんもそのうちにと思われているんでしょう?」
「ん、ああ。この大陸を旅して回ったらとは思ってるよ」
そんな話をしていたらギルドに到着した。そして、馬車を降りると何故か護衛の兵士の数が少なくなっている。
「クフフフ、ヤケに兵士の数が減っているけど何かあったのかな?」
タイサンが兵士長にそう聞くと、
「ハッ、陛下。何名かがここに近づくにつれ、気分が悪くなったりしたようなので、待機を命じました」
そう返事が返ってきた。
俺は思い当たる節があったので、コソッとタイサンに伝えた。それを聞いて納得したタイサンは、そのままギルドに兵士長だけを連れて入る。勿論、俺とナッツンも入った。
ギルドに入り受付にいたヨッパちゃんに声をかけて、マスターと院長がマスターの部屋にいる事を確認して、俺が案内して部屋に向かった。
その時にタイサンが、
「あんなに可愛らしく、けどハキハキした女性は初めて見た」
と呟いているのを俺はハッキリと聞いた。
部屋について扉をノックし、返事があったので扉を開けた。タイサンと兵士長を先に通すと二人が、
「「へ、陛下!」」
と慌てて立ち上がって片膝をついたのを見て、俺もしなきゃダメなのかと思ったら、俺の妻二人がナッツンの方に近寄って談笑を始めた。
なら、俺もしなくて良いなと秘かに思ったのはココだけの話だ。
ザーバスとヨーゼフはタイサンと兵士長に事情を話している。俺は無音をかけて、この部屋の声が漏れないようにしてある事を最初に伝えたので、安心して話をしているようだ。
全てを聞いたタイサンは、今から侯爵の所に行くとザーバスとヨーゼフに伝えた。それから、思い出したようにザーバスに言った。
「受付にいた女性はとても可愛らしいが、決まった婚約者などは居るのかな?」
「ハイ? 今受付に居るのは私の娘のヨッパの筈ですが、決まった婚約者などはおりません」
ザーバスがそう返事をする。タイサンはそうかと頷き、ザーバスを見て言った。
「君の娘が了承してくれたらの話だが、この件が片付いたら少し話をしたいんだ。良いかな?」
「は、はい。勿論です。ヨッパにも伝えておきます」
ザーバスの返事に満足そうに頷くと、タイサンは俺達に一緒に来てくれるかなと聞いてきたので、勿論と答えて、俺達はギルドを出た。
タイサンはヨッパちゃんに一目惚れしたようだな。しかしギルマスの娘とはいえ、平民だが大丈夫なのか? 俺は要らぬ心配をしてしまう。
まあ、先ずはハーベラス侯爵だ。片付いたらって言ってるし、ちゃんと片付けよう。
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