第32話 魔境の洞窟の件
ケンジさんは昨夜の内にアカネさんに連絡を入れて、ナッツンと一緒に魔境の森の入口で待ち合わせをする事になった。
昨日はエーメイさんの衝撃の事実を知ったのだが、それ以上の衝撃が家に入った俺を待っていた。
マクド君の近衛騎士の名前は、テリャーさん、ツキミさんと二人は知っていたが、他の二人の名前が判明したのだ。チーズーさんとバーグさんだった·····。神のイタズラか?
マクド⇨マ○ドナ○ド
テリャー⇨照り焼き
ツキミ⇨月見
チーズー⇨チーズ
バーグ⇨ハンバーグ
そう連想するのは俺だけじゃないだろう。更に衝撃だったのは、チーズーさんとバーグさんが恋人同士だったと言う事! 勿論二人とも男性なのはここに証言しておこう。
ただ、確かにチーズーさんは男にしては小柄で女性らしい柔らかい物腰だとは感じてはいた。しかし昨夜、テリャーさんからこの二人は恋人同士だから、一部屋に入れてやってくれと言われて、衝撃を受けたのは俺だけでは無かった。
その夜、やけにサヤとマコトが興奮していた事はここだけの秘密だ。もしかして、二人は腐女子なのか······
少し心配したが、人の趣味嗜好をとやかくは言うまいと俺は心に誓ったのであった。
そして、朝。皆に作成済みの武器や防具の中から一時的に使用する物を選んでくれたゴルドーさんは、今日から作成に取り掛かってくれると言ってくれた。
エイダスは大太刀の雷神刀(+360)を受け取りながら、これで充分なんだがと呟いていた。
エルさんは何と小太刀の乱流刀(+200)が二振りで、敏捷を活かして前衛が向いているとゴルドーさんから言われていた。鎧は軽装ながら、竜鱗を使用した頑丈な物で、衝撃吸収効果もあるものを借りていた。エルさんもこれで良いのにと呟いていた。
似た者夫婦ではある。
そんな感じで騎士達も作成済みの物から借りて外に出ると、ツキミさんに腕にしがみつかれたエーメイさんが居た。
「おう、皆いないと思ったらゴルドーの武防具を借りていたのか。それじゃ、ツキミも行って来なさい」
そうエーメイさんが言うとツキミさんは、
「はい、貴方。行って来ますね。浮気しちゃイヤよ」
と言ってゴルドーさんの所に向かった。
苦い顔でエーメイさんを見るエイダスと、ニコニコしているエルさん。そんな二人にエーメイさんが声をかけた。
「なんだ、エイダス? 何か言いたい事でもあるのか? エルちゃんはワシがちゃんと指導してあげるから、安心しなさい。なあ、エルちゃん」
「はい、お
「エル、親父を甘やかさないでくれ。親父、ツキミと一緒になる事には何も文句はない。が、もう少し周りの目を気にしてくれるか。息子として恥ずかしいからな」
エイダスの苦言に真っ向から反論するエーメイさん。
「ナーニを言っとるんだ、バカ息子! お前だって新婚の頃は周りの目を気にせずにエルちゃんとイチャイチャしとっただろうが! ワシも二度目だが、新婚じゃ! 気にせずイチャイチャするワイ!」
うーん、不毛な会話だ······ そうしていたらツキミさんも出て来たので俺達は移動する事にした。エーメイさんが近道を知っているそうで、案内してもらう。
しかし、そこからエーメイ流訓練が始まっているとは誰も思ってなかった······。
近道は凄かった。まさか、暴君リザードの巣を通り抜けるとは······
サヤとマコトに教えて貰ったが、暴君リザードは体長二メートル~三メートルあるオオトカゲで、その肉、皮、爪、牙、骨の全てが素材として高値で
その巣を突っ切れば魔境の洞窟まで凡そ一時間で到着するということで、男達で暴君リザードを倒していけと指示された。
しかも、スキルの使用は禁止。魔法も使用禁止。純粋に己の体術と持っている武器のみでと言われたので凄く疲れた。
俺はお陰でレベルが上がったけどね。
ステータスの確認はしていないが、スキルも増えたようだ。今日はこのまま、魔境の洞窟に入るから洞窟から出たらステータスを確認してみよう。
そして、エーメイさんが言った一時間では無理だったが、一時間半で魔境の洞窟に着いた俺達。
洞窟の前にはナッツンとアカネさんが既に来ていた。すかさずエーメイさんが喋り出す。
「おおー! これはまたエライ別嬪さんじゃないか! 何! この
そう言われたアカネさんは慌てふためくケンジさんとは違い余裕の笑みでエーメイさんに返事をした。
「フフフ、高名なエーメイ様にそう言われるなんて、嬉しいですわ。でも、そちらの可愛らしい方に睨み殺されそうなので、ご遠慮させていただきますわね」
そう、ツキミさんが呪詛を視線に込めてアカネさんを睨んでいた······ 怖ぇー······
「なんじゃ、コラ! ツキミ、ワシの妻なら嫉妬なんてマイナス感情は捨てるんじゃ!」
「はい、貴方。ご免なさい、アカネさん」
う~ん、ツキミさん惚れた弱みなのか素直過ぎるなぁ。まあ、それは置いておくか。
俺はナッツンに声をかけた。
「ナッツンも来たからにはレベル上げをするんだろ?」
「はい、私もそうしようと思います。ひょっとしたら、レベルを上げる事によってスキルが進化する可能性もありますから」
俺とナッツンがそう話した後にエーメイさんが指示を出した。
「今日は女性陣は地下一階と二階でレベル上げをする。男達は地下三階、四階でするんじゃ。最低レベルを二つ上げるのを目標とする。上がった者から戦闘から外れて補助に回るように」
俺達はそれにはいと返事をしてから、中に入った。幸いチーズーさんに
エーメイさんは女性陣のレベル上げに付きっきりだ······
少し見てみたかったが、俺達は俺達でやるしかないと気持ちを切り替えて、地下三階の全てを先ずは回るようにした。
最初はテリャーさん、ケンジさん、ユウヤ、エイダスの四人でレベル上げを狙う。他の俺達は補助だ。
因みにテリャーさんは現在レベル18、ケンジさんはレベル42、ユウヤはレベル35だそうだ。エイダスも35だ。
取り敢えず、目標の二つレベルが上がった者から抜けて交代していく事にした。
俺はレベル12になっている。チーズーさんはレベル16、バーグさんはレベル18、ナッツンはレベル20だ。意外だったのはマクド君で、レベル21と王族とは思えない程に高い。聞けばナッツンとたまに城を抜け出して魔物を狩っていたそうだ。
レベルが上がるのは、恐らくテリャーさんが一番だろうからテリャーさんの後にチーズーさん、チーズーさんが上がればバーグさん、予想ではバーグさんが上がるのと同じ位にユウヤかエイダスが上がるだろうから、マクド君とナッツンはその時に入る事にした。俺は適当に皆が見逃した魔物を狩れば上がるだろう。
ケンジさんは中々上がらないだろうなぁ······
そして、チーズーさんの
これは確かに氾濫しそうだな。そう考えていたらケンジさんが、レベルが上がったようだ。
「おっ、一つ上がった。さっきの暴君リザードが効いてるな」
そう言えばケンジさんは先頭にいて狩りまくっていたな。それでか知らないが、ユウヤとテリャーさんも一つ上がったらしい。
「僕も一つ上がりましたー!」
「やった! 俺も一つ上がったぞ」
「俺はまだだな」
エイダスはまだのようだが、後少しで上がると思う。これから、ケンジさんとユウヤは時間がかかるだろうな。テリャーさんがどれくらいでもう一つ上がるかな? それによって大体の予想が出来るな。
地下三階にはお馴染みの猛毒オロチの他に、
しかし、ケンジさんとテリャーさんは兎も角、ユウヤも斬れないとは問題だな。これは俺の番になったらユウヤを指導しながらだな。
俺はそう考えていたが、ユウヤは果敢にもスライムを何とか斬ろうと頑張り始めた。
その角度の斬り込みでは無理だぞ、ユウヤ。俺はそう思いながらも助言はせずに見守っていた。
そして、遂にユウヤがスライムを斬った!
「良し! 斬れた!」
「おお、凄いな! ユウヤ」
ケンジさんが驚きの声を上げる。テリャーさんの目は点になっている。エイダスは同じように斬ろうとユウヤの動きを見ていたが、まだ斬れていない。
「先生、斬れました!」
ユウヤが俺に向かってそう言うので、俺は一つ教えてやる。
「ユウヤ、それが先生が言っていた無回流の
おお、俺って無職だけど、先生らしい事を言ったぞ! そう思っていたら、ユウヤが満面の笑みながら、目を光らせて礼を言う。
「はい、先生。有り難うございます。これでまた一つ親父に近づけました」
うんうん、そうだぞ、ユウヤ。お前はあの無回流史上最強と言われたあの先生の息子なんだから、これからも精進すれば直ぐに俺なんか追い越すさ。
心ではそう思いながら俺の口からは、
「何をバカな事を言ってるんだ、先生に追い付く前に俺を追い越せないとダメなんだからな、もっと気を張れよ」
と発破をかける言葉が出ていた。
「はい、必ず先生を追い越してみせます!」
そのユウヤの返事に俺は満足しながら、ケンジさんとテリャーさん、エイダスが斬ろうとして斬れなかったスライムをスパスパ斬っていったのだった。
ケンジさん、テリャーさん、エイダスも男のジト目は需要ありませんから直ぐに止めて下さい。
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