第64話 国王の初恋の件

 意気揚々と冒険者ギルドに向かうタイサンに俺は、侯爵の件が片付いた事を知らせたい人がいるからと抜けさせて貰った。

 俺とサヤだけでマダラの元に向かう。マコトには念の為にタイサンの護衛をお願いした。

 少し拗ねてたので、今晩は頑張ろうと思う。


 マダラの隠れ家についた俺達二人はマダラと三姉妹にもう、侯爵に狙われる事はないと伝えた。詳しい事は説明できないが、侯爵は王都で裁かれる事になったと教えたら、マダラはホッとしたようだ。

 

「これでこのらにも安心して過ごして貰える。有り難う、トウジさん」


「「「有り難うございます」」」


 四人に礼を言われ、照れる俺とサヤ。サヤは三人姉妹に何かを伝えている。恐らく、自己防衛出来る魔法を教えたのだろう。三人姉妹はサヤに有り難うございますと頭を下げていた。

 俺達はマダラに頑張ってくれと言ってから、隠れ家を出て、冒険者ギルドに向かった。 


 ギルドに入ると皆がワチャワチャと話をしている。皆が笑顔なのは大きな問題が片付いたからだろう。俺とサヤはそれを見ながらギルマスの部屋に向かった。そこでは、


「いくら国王陛下と言えども娘はやらん!」


 ザーバスの怒鳴り声が廊下にまで響いていた。こりゃ、タイサンは苦労しそうだな。他人事なので気楽にそう思ってノックしてから部屋に入る。


 そこには顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしているヨッパちゃんと同じく赤い顔をして鬼の形相のザーバスがいて、その真正面にタイサンとナッツンが座っていた。マコトは我関せずの姿勢で離れた場所に立っていた。俺達二人を見たマコトが嬉しそうに近寄ってくる。


「早かったのね。二人とも」


「詳細は言えないからな。マダラには侯爵がもう悪さが出来ないとだけ伝えて来たんだ」


「あと、三姉妹には防衛魔法を教えてきたよ」


「そうなんだ。それなら良かったわ。じゃあ、私達も宿の確保に行きましょう」


 マコトが俺達を急かしてそう言った時にナッツンがこちらを見て言った。


「キヒヒヒ、ちょっと待って下さい。私も一緒に連れて行って貰えませんか?」


 口では笑っているが、他人の色恋に巻き込まれたくないと目が訴えているナッツン。しかし、タイサンはそれを許してくれなかったようだ。


「ナッツン宰相、この怒れる親を鎮める良い方法を一緒に考えてくれないかな?」


 その言葉に泣きそうな顔になるナッツン。俺達はそれに同情しながら、じゃ、と言って出ようとしたが、今度はザーバスが俺達を引き留めた。


「待て、いや待ってくれ。S級冒険者である三人からも言ってくれないか? 私は娘を国王の愛妾にするつもりなどないんだ!」


 そこでタイサンが今気がついたと言うようにザーバスに言った。


「少し誤解があるようだな。ザーバス、僕はヨッパをめかけになんて思ってないぞ。王妃に迎えようと思って言ってるんだが」


 俺はそこで口を挟んだ。


「いくら陛下がそう言っても周りがそれを許さないんじゃないか?」


 俺がそう言うとタイサンは不思議そうな顔で言った。


「この国の王族は今や僕一人だし、僕はこの国から放逐されてもヤーマーラ国に戻ればまた筆頭魔道具師に戻れるから、困る事はないしね。クフフフ、もし僕とヨッパの結婚を邪魔するようなら、僕はこの国からヨッパと一緒に出て行くだけだよ」


 そこでサヤが口を挟む。


「陛下、肝心なのは陛下の思いとギルマスの思いじゃなくて、ヨッパちゃんがどう思ってるかだと思う」


 そこで二人(タイサンとザーバス)はハッとしたようにヨッパを見た。皆から見つめられたヨッパは赤い顔が更に赤くなったが、真っ直ぐにタイサンを見てあるものを取り出して話をしだした。


「この魔道具は陛下が作られたとお聞きしました。そうなんですか?」


 そう、ヨッパちゃんが取り出したのはあの眼鏡だ。かけてる人の瞳を見えなくしている眼鏡だが、タイサンが作ったのか、何であんな風にしたんだろうな。


「そうだね。それは僕が作った魔道具に間違いないよ」


 タイサンの返事を聞いてからヨッパちゃんが更に質問を重ねた。


「陛下はどのような気持ちを持ってこの眼鏡を作られたんですか?」


 タイサンはその質問にもスラスラと答える。


「気持ちと言われると難しいけど、僕は世の中には弱視や斜視の人がいて、その自分の目にコンプレックスを持っている人が多くいる事を知ったんだ。だから、その人達の目を治す事は僕には出来ないけれど、良く見えるように魔道具を作る事は出来た。そして、コンプレックスの元になる目が相手から見えないならば、その人達も少しは楽に生きられるんじゃないかと思って作ったんだよ」


 その返事にヨッパちゃんは頷いて、タイサンを見た。


「陛下、陛下は本当に皆が噂する通りの心優しく、正しい道を行かれる方だと知れました。そんな方に求婚されて、私も非常に嬉しいのてすが、私は平民ですし、貴族やましてや王族の作法などは一切知りませんし、知りたくもありません。ですので、陛下のお心に叶う事は出来ません」


 ヨッパちゃんの返事にタイサンはまた不思議そうな顔で言った。


「えっ! ヨッパに貴族の相手や王族の作法なんてさせるつもりはないよ。寧ろ仕事を続けたいならそのまま続けて貰って構わないんだ。ただ、僕の妻となって時に僕の愚痴を聞いてくれたり、愛し合ったりして欲しいだけだよ。それをダメだと王宮の者やこの国の貴族達が言うなら、さっきも言ったけどこの国から出て行くだけだよ」


 そこでザーバスが口を開いた。


「ガキか、お前は」


 おおう、冒険者ギルドは確かに国とは関係がないが、一国の王に向かって言うセリフにしては過激だな。などと思いながら実はサヤとマコトの手を引いてジリジリと出入口に近付いている俺。

 後は当事者でお話して欲しいです。そう思った時にタイサンがザーバスに言った。


「うん、僕はガキだね。ただね、幼い頃に王位継承者から外れて好きな道をいけと後押ししてくれた父や兄が亡くなった途端に、国民の為に王位につけと脅された僕は今でも少し怒ってるんだ。この国の大人にね」


「それでもお前は受けたのだろう。受けたからには責任があるんだよ。どんな仕事でもな」


「それはザーバスに言われるまでもなく分かっているよ。僕は責任を放棄すると言ってるんじゃないんだ。責任を果たす為に、僕の希望も叶えて貰うのは間違いなのかい? ねえ、ナッツン宰相はどう思う?」


 ここで振られるとは考えてなかったのだろう。慌てるナッツンは見物だったが、俺にも振りかかるかも知れないと心の中で身構えた。

 しかし、そこでマコトが喋り出したのには俺も驚いた。


「あの、ゴチャゴチャとお話されてますが、陛下。陛下はもう振られたので、今回は諦めて振り向いて貰える様に努力すべきだと思います」


 そのマコトの言葉にガーンとした顔をするタイサン。


「や、やっぱり振られたんだよね。何とかソコを有耶無耶にしたかったんだけど······」


「ヨッパちゃんからハッキリ告げられたのですから失恋ですね」


 そう言ってニッコリ微笑むマコトは、ヨッパちゃんとナッツンからは感謝の眼差しを、気づいてなかったザーバスからは何で俺は気づかなかったとの呟きを貰って、皆が解散と言う事になった。


 解散の時にタイサンが初恋は実らないって本当なんだな······ と呟いたのを聞いたのは俺だけだっただろうな。タイサンは今夜は枕を濡らして寝る事になるだろう。それが、人として成長に繋がるんだ、頑張れ、タイサン! と心のなかで応援しておいた。



 その後、俺達は無事に宿屋に入り、夕食も食べて部屋に戻り、無音をかけて久しぶりに『女性喜ぶ左右の手指』を駆使して二人を喜ばせた。

 最近は二人も負けじと色々なテクニックを駆使してくるので、俺も負けるものかと意地になってるところもあるが、互いに気持ちが高ぶるからそれも良いと思うようにしている。

 サヤとは十二回、マコトとも十二回をいたして心地好い眠りに三人でついた。






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