第54話 馬車の件

 話が決まって俺達三人は結界を張りに出かける事にした。マコトの魔力だけで結界を張るのも可能だが、そうすると今夜のムフフなお楽しみにマコトだけ参加出来なくなってしまうので、媒介になるモノを村の周りに置いて、それを起点にして結界を張る事にした。

 今回は今から明日の朝にかけてだけ保てば良いので、俺のスキルで作った魔石擬きを使用する。

 ハクシンとヨーレイ君は村の人達が待っているので、いつも店を開く広場に向かった。

 ハクシンも解体された肉を見て凄いと言った後に俺に深々と頭を下げた。肉が多い事に気がついたけど、口には出さずに態度で表してくれたようだ。

 俺はそれに軽く手を上げて応えてからサヤとマコトに移動しようと伝えると、マコトがアガンさんに話があるという。


「この村の中心部が大体で良いから分かるかな?」 


「中心となると私の家になりますかな、恐らくですが······」


「そう。それじゃ、トウジ。魔石擬きを出してくれる。先ずはここに一つ要るから」


「お、おう、分かった。コレで良いか?」


 俺は少し大きいサイズのモノを取り出してマコトに見せた。


「うん、コレで十分よ」


 そう言うとマコトはアガンさんの家の庭に案内してもらい、そこにあった大きめの石の上に置いた。そして俺とサヤの方を向いて、


「さあ、それじゃあ村の外に行きましょう」


 と言って歩きだした。俺とサヤは慌てて後を追う。

 マコトは先ず北に向かった。そして村を出てから凡そ五百メートルの場所で俺に魔石擬きを出してくれと言うのでマコトに渡した。マコトは何かを念じてから土魔法で作った穴に魔石擬きを入れて埋めた。そしてそのまま東に向かい同じ事を繰り返した。南、西も同様だ。作業を終えたマコトは帰りましょうと言ってアガンさんの家に向かい、庭に入る。そこで無詠唱で魔法を行使した。庭に置いた魔石擬きから東西南北に向かって魔力が伸びて行き、それぞれを円形で魔力が回る。


「ふう、これで大丈夫よ。明日の朝と言わずソーガの魔石で本当の結界を作るまでは保つ筈よ」


 俺はマコトをねぎらった。


「お疲れ様、有り難うな。マコト」


「ううん、疲れてないから今夜はしっかり可愛いがってね」


 ムギュっと胸を寄せて言うんじゃない。襲ってしまいそうになるだろ。サヤさんや、貴女まで胸を寄せる必要はないんですよ······

 そんな事を思っていると、サヤから一つ提案があった。


「トウジ、馬車は作れるかな? 歩くのも楽しいけど、馬車で移動するのも良いかなと思って。カインも広い国だから、歩いてると二ヶ月位はかかってしまうし······」


「サヤ、馬車は作れるけど馬がいないよ。それはどうするんだ?」


「トウジの無機で馬の形を作って、ソーガの魔石を利用してゴーレムにしたらどうかなと思って。それなら乗らない時は馬車も含めてトウジの無限箱に入れておけるでしょ」


 ナイスなアイデアだ、サヤ。それを採用しよう。一から作るならハクシンの馬車にした改造よりもっと良い造りに出来るしな。車輪も魔獣の皮を利用して作るか。色んなアイデアが頭を駆け巡るが、マコトに待ったをかけられた。


「ダメよ、トウジ。馬車の構造を考えたり作ったりするのは食人ソーガの件が片付いてから。それに今夜はサヤも一緒に可愛がってくれるんでしょう?」


 コケティッシュな仕草でそう言うマコトを見て俺は我慢の限界を感じたが何とかこらえた。

 俺達は結界が出来た事をアガンさんに伝えて隣の空き家の鍵を受け取った。そして空き家に向かう。中は綺麗に掃除されていて、無汚を使うまでもなかった。風呂もあるし、暫く居るには十分だった。それから俺達はハクシンとヨーレイ君の様子を見に広場に行く事にした。

 広場では村人が集まってハクシンと談笑しながら買い物をしている。ヨーレイ君は同い年位の女の子と話をしていた。彼女か?

 俺達に気がついたヨーレイ君が笑顔で手を振ってきたのでヨーレイ君の近くに行ってみた。邪魔じゃないよな······


「おう、ヨーレイ君。とても可愛い彼女だな」


 俺は大人が良くやるからかい口調ではなく、心からそう思っていると分かる口調でヨーレイ君に言った。そしたら二人揃ってボンッて顔が赤くなったのには驚いた。


「かかか、彼女······」


「ト、トウジさん、彼女は幼馴染みのハズキちゃんです。彼女ではないです······」


 ヨーレイ君のその言葉に残念そうな顔をするハズキちゃん。それを見たサヤがヨーレイ君に言った。


「でもヨーレイ君はハズキちゃんが好きなのよね?」


 赤かった顔が更に赤くなるヨーレイ君。


「いや、あの、その······」

 

 煮え切らない言葉のヨーレイ君に俺が言ってやった。


「ヨーレイ君、好きな人が目の前にいて恥ずかしいのは分かるけど、ハズキちゃんが待ってるよ。ハッキリと言った方が良いと思う」


 俺の言葉に真面目な顔をしたヨーレイ君がハズキちゃんをしっかりと見て言った。


「ハズキちゃん、好きです。僕は行商のお父さんについていくから頻繁には会えないけど、ずっとハズキちゃんに会うのを楽しみにしてました」


 おー、良く言った。ヨーレイ君。さて、ハズキちゃんの反応は?


「ヨ、ヨーレイ。やっと言ってくれた。嬉しい、私もヨーレイが好き!」


 おおー! やったな、ヨーレイ君。俺達三人が微笑んで見ているとハクシンが話を聞いていたのだろう。ヨーレイ君に言った。


「ヨーレイ、今日の稼ぎでやっとお店を開く資金が出来たから、行商は終わりだぞ。明日からこの村で商売を始める場所を探したりして忙しくなるけど、手伝ってくれよ」


 おお、それはそれは。これで、ハクシン商店の未来も安泰だな。何て思っていたらハクシンから後でお話がと言われたので、商売が終わったら俺達が借りた家に来てくれと言っておいた。


 俺達は広場を後にして借家に戻った。晩飯の準備をしてハクシン親子が来るのを待っていたら、二人だけじゃなく、若い男女も一緒にやって来た。

 ハクシンが二人を紹介してくれた。


「皆さん、すみません。こちらの男女は私の妹とその旦那で、ハクレイとコウショウと言います。ハクレイは鍛冶職人で、コウショウは木工職人なんです。実はトウジさんが改造してくれた馬車を二人が作りたいと言ってまして······」


 そこまで聞いて俺は家の外では何だから中に入って話そうとハクシンに言った。良かった、多く料理を作っておいて。


 中に入った四人はテーブルに並んだ料理を見て声を上げる。


「こ、これは何ですか? 茶色の食べ物?」


「こっちは······ 卵ですか?」


「これは一体······」


 俺は四人に声をかけて座ってもらう。そして、料理の説明から始めた。


「これは俺の国の料理でな。ピッグをトンカツという料理にしたモノだ。こっちは卵を焼いてオムレツという料理になる。それからこれは······」


 と俺の説明を聞きながらも食べたそうにしているヨーレイ君を見た俺は、説明を止めて言った。


「まあ、論より証拠だ。味は良いと思うから食べてみてくれ」


 俺がそう言うとヨーレイ君がフォークにトンカツを刺してパクりと食べた。そして、


「お、お、美味しいーー!」


 叫んだ。その叫び声を聞いた残り三人も見た事がない料理に勇気を出して食べる。そして、そこは戦場となった。


「あっ! 兄さん、それは私が取ったヤツてしょう!」


「うるさい! 早く食べないお前が悪いんだ!」


「ヨーレイ、少しは遠慮したらどうだ!」


「コウ兄ちゃんこそ!」


 四人が四人とも食べるのに夢中で、何をしにきたか分からない状態になったが、俺達は美味しそうに食べてくれるのでニコニコと見ていた。

 戦争がやっと終わり、四人がパンパンになったお腹を撫でている時に俺は聞いた。


「で、馬車を作りたいって事だけど······」

 

 俺の言葉に本来の目的を思い出した三人。(ヨーレイ君はただの付き添いだから)ハッとしてお互いを見てから、ハクシンの妹のハクレイが喋り出した。


「あの、兄の馬車を見させて頂いて、実際に乗ってもみたのですが、揺れが少なくて車軸固定金具の改造も凄くて、この馬車ならばこれから売れると思いまして、もしトウジさんが構わなければ商業登録をして頂いて、作成権利を売って頂けたらと思いまして······」


 そう言われて俺は二人の妻と顔を見合わせた。俺の不思議そうな顔に気がついたサヤが説明してくれた。


「トウジ、ハクレイさんが言ってるのは馬車の構造をトウジが商業ギルドに登録して、その作成する権利を誰かに売る事を言ってるの。作成する権利を得た人がその馬車を作成して売ったら、売上の一割五分はトウジのモノになるわ。トウジは構造の権利を持っている事になるから」


 なるほど、特許が一番近い考えになるのかな? まあ、俺としてはまだまだ改良の余地が多くある馬車だけど、うーんどうしようかな······


『トウジ、聞こえる?』


 ん? マコトだな。


『ああ、聞こえてるよ。どうした、マコト?』


『あのね、この世界の鍛冶職人の技術だとトウジがハクシンさんの馬車にした改造は何とか出来ると思うの。ただ、私達用にとトウジが考えている馬車は無理だと思う。歯車はあっても軸受ベアリングはまだ出来てないから』


 おおう! マコトは女の子なのにベアリングを知っているんだな。確かに俺は俺達用の馬車にベアリングを使用するつもりだったけど。


『それなら、今のハクシンの馬車なら大きな問題にはならないか?』


『うん、画期的だと話題にはなるだろうけど、作れない技術じゃないから大丈夫だと思う。だから、商業ギルドに登録してハクレイさん夫婦に作成する権利を売っても良いと思うよ』


『分かった。有り難う、マコト』


 的確な助言を得た俺は二人に権利を売る事を承知した。そしたら二人はこの村にも商業ギルドがあるので直ぐに登録に行きましょうと急かしてくる。俺は二人に急かされて商業ギルドに行き、馬車の構造を登録して、その作成権利をハクレイ夫婦に売る登録もした。全て終わって家に戻ったのは日付が変わるギリギリ前だった。


 残り少ない夜は二人の妻とシッポリ濡れて過ごした。明日は寝過ごしそうだな······



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