第55話 食人ソーガの件

 案の定寝過ごしました。ご免なさい。だってさ、妻二人が離してくれないから······ はい、言い訳です。スミマセン。


 気を取り直して、かなり約束よりも遅い九つの時刻に慌てて起きた俺達は身支度をパパッと済ませて外に出た。そこに待っていたのはアガンさん。


「確か、八つの時刻でしたかな? お約束してたのは······」


 俺達はその言葉に平身低頭で謝りたおした。アガンさんは笑いながら許してくれたが、本来なら依頼を受けての約束なので許される事じゃない。二度とこんな事はいたしませんと再度頭を下げた。


「まあまあ、お若い証拠でしょうから······ それよりもこれから向かうと言うことでよろしいですかな?」


「はい、大丈夫です。薬草採集場所の近く迄で構いませんので、よろしくお願いします。」


 流石に遅れておいてタメ口は不味いと思い、丁寧語で話すとアガンさんに昨日と同じ口調でお願いしますと言われた。申し訳ないが、遠慮せずにそうさせてもらおう。


「それじゃ、遠慮なく。薬草採集場所はここから遠いのか? 歩くとどれくらいかかるんだ?」


「さほど遠くはありません。子供の足でも四十分ほどですかな。大人だと三十分位でたどり着きます」


「そうか、それじゃ早速行ってみよう。近くなったらアガンさんは帰ってくれ。後は俺達三人で対処するよ。魔石を持ち帰るから討伐証明代わりにもなるだろうし、村で朗報を待っててくれたら良い」


「分かりました。それでは、コチラです。着いてきて下さい」


 俺達は歩きだしたアガンさんに着いていった。中々の健脚だ。三十分ほど歩いた時にサヤが止まるように言った。


「トウジ、気配を拾ったからもう案内は大丈夫。アガンさんに村に戻ってもらおう」


「そうだな。アガンさん、それじゃ村に戻って待っていてくれるか? ここからは俺達三人で進むから」


「はい、ご武運を祈っておりますぞ。よろしくお願いします」


 そうして村へと戻って行くアガンさんが見えなくなってから、俺は無在を使用して移動を開始した。


「サヤ、この方角で合ってるか?」


「うん、合ってるよ。トウジ、多分だけど上位種が居るみたい」


「そうか、なら早めに潰さないとな」


 俺達は先を急いだ。そして、薬草の群生地の奥に集落らしきものを作っていた食人ソーガ達を見つけた。聞いていた三十体よりも数が多く凡そ五十体いる。そして、マコトがある魔獣を見つけた。


「黒鬼ホースがいる。トウジ、馬型のゴーレムに使う魔石はソーガのじゃなくて、黒鬼ホースのにしたら上手く制御も出来ると思う。それと、黒鬼ホースは高級食材だから、全部持って帰ろうね」


 マコトが言う魔獣を見てみると漆黒の体に漆黒のたてがみを持ち、額に漆黒の角が生えたサラブレッドをふた回り大きくした体を持っていた。どうやらソーガの乗用馬扱いみたいだ。


「そうか、それなら八体いるから魔石は十分だな。それに、美味しいのか? まあ馬肉は嫌いじゃないが······ それで、ソーガなんだが毒に耐性があるようだな。一応、無毒で効くかどうか試して見るよ」


 俺は風下に居る事を確認してから、無在を解除して王毒オロチの毒を三体のソーガの心臓に送り込んでみた。二体のソーガはモノも言わずにぶっ倒れたが、一体はもがき苦しんでいる。

 それを見た他のソーガがキョロキョロして俺を見つけた。こちらに向かって来る五体の中でも一番体の大きな個体が、俺に向かって木槌を振り下ろしてきた。

 俺は慌てずに無敗刀を振る。両腕を斬り落とされた事に気がつかずに肘から先がない腕を振ったソーガは振り切ってから異変に気がつき、喚き声を上げた。至近距離で煩かったので首を落とす。

 その個体の後ろから来ていた四体のソーガは俺を囲み一斉にそれぞれの得物で俺を攻撃してきたが、僅かな時間差でズレた攻撃を俺はことごとく捌いて四体の首を落とした。

 騒ぎに気づいた集落の中から出てきた奴に更に大きな個体が居た。俺はまた無在を使って姿を消す。突然消えた俺を探し始めるソーガ達。

 サヤとマコトが俺の側に来て言った。


「あそこにいる大きな個体が食人ソーガの上位種で、悪食ソーガよ」


「悪食ソーガは魔法耐性も持っていて、斬撃耐性もあるから刀では難しいかも。どうする、トウジ?」


「えっと、耐性って事はスライムの斬撃無効よりも弱いよな?」


「うん、無効に出来る訳じゃないから」


「それなら刀で大丈夫だ。食人ソーガは任せても大丈夫か?」


「うん、マコトに魔法で援助してもらったら、私達二人で何とかなるよ」

 

「よし、それじゃあ無在を解いたら俺は悪食ソーガに向かうよ。間にいるソーガは倒して行くからそれ以外のは頼むな」 


「「分かった」」


 二人の返事を聞いてから俺は無在を解いた。現れた俺達に気がついたソーガを斬り捨てて、俺は悪食ソーガに向かう。途中に居る邪魔な食人ソーガも斬って悪食ソーガにたどり着く。既に他の食人ソーガを相手にしているサヤとマコトが残り十一体までに減らしている。

 悪食ソーガは俺を見て憤怒の形相になり、大きな体の筋肉に力を込めて、持っていた金棒を俺に向かって横殴りに振ってきた。それを体を屈めてかわしてから無敗刀で太股に斬りつけた。

 斬撃耐性があるとの事だったが、あっさりと刃が通り足が一本なくなり倒れる悪食ソーガ。何故自分が倒れたのか理解出来ない様で、直ぐに立ち上がろうとしたが、片足が無いことに気がついた。


「ウガァッー! ウゴガアッー!」


 痛みなのか怒りなのか分からないが喚くので、首を落とした。大口を開けて声を出していたが、自分の声が何故出なくなったんだろうという顔をしていた。


 そして、全てのソーガを倒した俺達は黒鬼ホースを見に行くと、八体全てが威嚇してくる。手懐てなずけるのは無理だなあと思った俺は無毒で苦しまない様に逝ってもらった。勿論、その後に毒はキレイに抜いてある。というか、無限箱に入れると解体された上に全てが分解されるから抜く必要もないけど、気分的にな······


 そして、ソーガもホースも無限箱に一度収納してから、サヤに土魔法で穴を掘ってもらい、ソーガの肉と皮、爪や頭骨を穴に入れてマコトに火魔法で全てが灰になるまで燃やしてもらった。

 ホースの肉は美食家の間で有名らしい。角も素材になるそうだ。

 処理を終えた俺達は村へと戻る事にした。途中の薬草の群生地で一応程度の数の薬草類を採集しておく。薬師に渡してやろうと考えたのだ。ソーガが現れた所為で暫く薬草の採集も出来てなかったと思うので、ポーション類が足りなくなってる可能性もあるからな。


 村に戻るとアガンさんが出迎えてくれた。


「おお! ご無事でしたか! それで、ソーガはどうなったでしょうか?」


「安心してくれ、全て退治したよ。全部で五十体と上位種が一体いた。それと、黒鬼ホースが八体だな。悪いが黒鬼ホースの魔石は全部もらうぞ。それで、ソーガの魔石を加工して結界石に変えようと思ってるんだが、魔道具師は直ぐに来れるのか?」


 俺がそう返事をするとアガンさんは何かを言いたそうにしたが、それを飲み込んだようだ。


「勿論、直ぐにこちらに来させます。五分ほどお待ち下さい」


 そう言って歩き出したアガンさんを見てサヤとマコトがコソッと俺に言ってきた。


「トウジ、アガンさんはホースのお肉が欲しいんだと思う」


「うん、私もサヤと同意見。八体全部をあげる訳にはいかないけど、二体分位なら分けてあげても良いんじゃないかな? 相場は一体分のお肉が角金貨二枚(二十万円相当)だから、安くして二体で角金貨二枚にしてあげたらどうかな?」


「それで今朝の遅刻は帳消しになるわ」


 二人にそう言われたので俺もそうする事に同意した。そこに三人の男女を連れたアガンさんが戻ってきた。


「こちらが高名な冒険者のトウジさん、サヤさん、マコトさんだ。今回は薬草群生地近くに現れた食人ソーガを退治して下さった上に、マコトさんが結界石の作り方も教えて下さるから、三人とも良く学ぶように」


「「「はい、分かりました。マコトさん、よろしくお願い致します!」」」


 良く見ると三人とも若い。恐らく十六~十八歳だろう。そこで、マコトとともにサヤが、作った結界石を今の擬きと交換する時の護衛としてついていく事になり、俺はアガンさんと二人になった。

 そのタイミングで俺はアガンさんに先程三人で話した事を提案してみた。


「なっなっなっ、! 何と本当ですかっ! 後からやっぱり無しとか言いませんか? 絶対ですね! ならば今から村の広場に行きましょう! さあ、トウジさん、早くっ!!」


 突然興奮して早口になったアガンさんに手を掴まれて引きずられていく俺。広場に着いたらアガンさんは少し待っていて下さいと言い、何処かに走って行く。待つこと数分。三人の女性と二人の男性に、リヤカーに調理器具を乗せた若い男達がアガンさんに連れられてやって来た。皆の目が血走っている。

 怖い······ 


「さあ、このお方こそ、我らが【神】のトウジ様だっ!! 今から二体分の黒鬼ホースの肉を超格安で我らに譲って下さる方だっ! 皆感謝のひれ伏をっ!!」


 アガンさんの号令で一斉に俺に対してひれ伏す人々······ だから怖いって······ 


「あの、アガンさん······ この状況は?」


「トウジ様! 我が村の最高の腕を誇る料理人五人です! 彼らに肉と、出来ましたら腸と大腿骨も渡してやっていただけますか!? 最高の料理を作りますっ! 料理が出来上がるのは明日! 明日より村は祭りに突入致しますっ!!」


 俺はアガンさんの勢いに押されて二体分の肉と腸と大腿骨を出して、更に料理人の一人から血も欲しいと言われてそれも出してやった。皆が生唾を飲み込んでから、リヤカーから調理器具を下ろしてセッティングしだし、料理を始めた。


 俺は呆然とそれを見ていたが、アガンさんから代金を支払ってもらい、明日の昼から祭りになりますので奥様二人と共にお楽しみ下さいと言われて借家に帰った······· 何か疲れたな······ 


 帰って暫くするとサヤとマコトも帰ってきて、魔力が切れた際の補充の仕方も伝えたから、B級の魔物でも突発的に来ない限りは大丈夫だと教えてくれた。俺は俺で、先程の事を伝えて二人に明日は祭りらしいから村をブラブラしてようなと言っておいた。

 二人も楽しみだと言ってくれた。さあ、明日の祭りってどんな祭りなのかな? 俺も落ち着いてきて少し楽しみに思うようになった。


 その日の夜は三人で頑張って依頼を達成したこともあり、更にハッスルしてしまった······

 サヤは八回戦でグロッキーになり、マコトは粘って十一回戦まで頑張ってくれたが、最後には力尽きた。俺はまだ足りなくて、二人の体をなで回していたが、いつの間にか寝てしまっていた······


  




 



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