第71話 モフが現れた、モフりますか?の件
カインを出た俺達が次に向かうのはヤーマーラ国だ。魔道具の国として有名だが俺達の目的は魔道具じゃない。そう、魚介類だ。
海に面しているヤーマーラ国では新鮮な魚介類が手に入るそうだ。そこで俺の無限箱に必要なだけ入れていつでも食べられる様にしようと妻二人と話をして決まった。
カインの王都を出て南西方面に向かう。馬車を出してサズキとコズキを繋いでトウサマは小型化になってもらい一緒に馬車に乗せる。
暫くは時速十五キロくらいでユックリと進んだ。途中で商人の馬車とすれ違うが、タイサンが気を利かせて王家の紋章を付けてくれたから、何も言われずに済んだ。何か言いたそうにはしてたけどな。
そのまま順調に進んで行き、太陽が沈む前に今日の夜営馬車を決めた。街道から外れて小さな小川が流れている場所を見つけたからだ。
実際には水も要らない俺達なんだけど、俺は子供(中高生)の頃に課外授業であったキャンプが好きだったから、こういう場所を選んでしまう。
そして、馬車内ではなくて外で焚火を焚いてボーッとしたり、雑談するのが好きだったりするんだ。
そこで焚火を囲んで妻二人、トウサマと雑談していたら俺の無謬に引っかかるモノがいた。トウサマも気がついた様で、
『む、我が主。お気づきか? 敵意は欠片も感じられないのだが、何かがこちらに近づいてきてるようです』
そう俺に言ってきた。俺も敵意は感じずに、むしろ嬉しいという感情が爆発してる感じが凄いので、様子見をする事に。
すると、俺の目に茶色の柴犬が現れた。
柴犬… だよな…… 俺は目を疑う。何故なら大きさが尋常じゃ無かった。動物園で見たカバと同じくらいの大きさだったからだ。尻尾をフリフリして、その巨大な頭をサヤとマコトの間に入れた柴犬。
驚いていたマコトが声を出した。
「テツ! テツなの? あなた、テツよね!」
続けてサヤが、
「テツ! どうしたの!? こんなに大きくなって! どうやってコッチに来たの?」
二人は柴犬の巨大な頭を嬉しそうにモフりながらそう話しかける。
いや、こんなに大きくなってってレベルじゃない気がするぞ、サヤ。それにマコトも何故ひと目で分かったんだ。俺はそう思い二人に素直に言うと、即座に反論された。
「トウジ、当たり前でしょう! 私達がコッチに来る前に亡くなった筈だけど、それでもテツを見間違えるなんてあり得ないわ!」
と、マコト。
「トウジ、この円な瞳を見て。これがテツなの。トウジも覚えてね」
と、サヤ。俺は素直に、
「はい、分かりました」
と返事をした。テツは俺を見ても尻尾をブンブン振り回している。こうやって見ると可愛いな。
俺は撫でようとアゴの下に手を伸ばした。
そしたら、大きな前足が俺の手を踏みつけた。
「うおっ! 重たい! ギブだ、テツ!」
慌てる俺には目もくれず、妻二人は
「テツー、ちゃんとお手が出来て偉いね!」(マコト)
「私が教えたのよ、トウジ!」(サヤ)
嬉しそうにそう言う。俺は地面スレスレで踏みつぶされないように手に力を込めながら、
「そ、そうかー、偉いな、テツは。分かったから前足をどけてくれないかなー」
と言葉を絞り出した。そしたらアッサリと前足をどけてくれた。本当に賢いな。
「それで、この柴犬がテツだとして、何でこんな所に居るんだ?」
俺が疑問を口にしたら、ワンと一声鳴いて俺を見るテツ。ん? 何だろう? 訳が分からずに妻二人を見たら、分からないのと言わんばかりの目で見られた。
「トウジ、無謬でテツを見てあげて」
サヤに言われて、なるほどと納得した俺。その手があったな。俺はさっそく無謬でテツを見た。
名前:テツ
性別:オス
年齢:一歳
職業:癒しの柴犬
称号:神探犬
スキル:
身体操作(ネズミサイズ〜ゾウサイズ)
神探(隠れている神を探す)
祝福:
無の男神の加護(物理・魔法攻撃完全無効)
……
………
暫く考え込む俺。この
俺の動揺を他所に円な瞳で俺を見るテツ。
うん、可愛い。可愛いけど、サイズ変更出来るなら普通サイズになってくれ。
俺の願いが分かったのか、普通の柴犬サイズになったテツ。そして俺は妻二人にテツの能力を説明した。無の男神からの加護も含めて。
「凄い、テツは無敵になったんだね!」
「テツ、ずっと一緒にいてね」
サヤとマコトが嬉しさのあまり、テツの体中をモフモフしている。まあ、二人が心から喜んでいるから良いかと思い、俺も笑顔で見守った。
ソコにトウサマが警戒を促してきた。
『我が主、どうやらハグレの邪神が我らに気がついて、コチラに向かって来てるようです。どうしますか?』
俺はサヤやマコトにテツ、馬車にも無在をかけて隠した。焚火の前には俺とトウサマだけだ。
ソコにヒョロっとした一見普通の冒険者に見える男が現れた。
「やれやれ、仲間と逸れて今夜は一人で寂しく野宿だと思っていたら、焚火が見えたんでな。こんな場所で出会ったのも何かの縁だ。どうだろう、丸銀貨三枚で俺も朝まで火に当たらせて貰えないか?」
俺は何を仕掛けられても良いように心構えしながら返事をした。
「ああ、良いぜ。料金は先払いしてくれるのか? 後払いでも俺は構わないが」
「先に払っておくさ。お前さんが寝てる間に俺は動くかも知れないからな」
そう言うと丸銀貨三枚を投げてきた。俺はソレを受け取って、男に言った。
「まあ、座れよ。何か食うか?」
「いや、飯は狩ったボアで食ったから大丈夫だ。俺はヒャーカルと言うB級冒険者だ。あんたは?」
「俺はS級冒険者でトウジという」
「へぇー、あんたS級かぁ。それじゃ俺も安心して寝れるな。ここら辺りは偶にA級のデーモンが出るからな。コレは良い人に出会ったよ」
「まあ、あまり期待はするなよ。成り立てだから、A級なんか出たら自分を守るのに手一杯になると思うから」
「ハハハ、それじゃ俺は邪魔にならない様にトンズラする事にするわ。ちょうど来た見たいだしな」
そう言って姿を消すヒャーカル。その後ろからA級のデーモンが五体現れた。俺は刀を抜いて横に一閃させた。
それだけで五体のデーモンの首が胴から離れた。
そして、俺は無在を解いて現れたテツに試しに言ってみた。
「さっきいた男を探せるか? アレでも神ではあるようだけど。邪神だけどな」
俺がそう言うとテツはワンと一声鳴いて付いてこいと言う風に歩き出した。俺はトウサマに残ってもらい、トズキに跨って無在をかけてからテツの後を付いていった。
そしたら呑気に歩いているヒャーカルを発見。ヒャーカルはテツを見て、
「何だ? 野良犬か?」
と言いながら剣を抜いて斬りつけた。が、勿論テツには通用しない。斬った筈なのに斬れてないテツを見てヒャーカルは首をかしげた。
「何だ? ひょっとしたらスライムの擬態か? それならこうだ!」
両手から巨大な火球が飛び出してテツ目掛けて飛び、テツに当たる寸前でボフッと消えた。
「な! 何なんだ! お前は?」
動揺しているヒャーカルの目の前で俺は無在を解いた。突然目の前に現れた俺に更に動揺するヒャーカル。
「お、おう! 無事だったのか、トウジ。さすがS級だな」
とか言いながら俺の足に向けて剣を振るヒャーカル。しかし、その手が止まり顔が苦悶に歪む。
「な、何をした……」
「ヒャーカル、凄いな。王毒オロチの高濃度毒をお前の心臓に送ったけどまだ喋れるんだな。邪神ってタフなんだな」
「な、何故、わか、った、んだ……」
「俺には優秀な仲間が多くてな。お前みたいに人の振りをして冒険者になって、仲間を見殺しにしてる様なヤツを生かしておけないと思ってな」
「グッ、ハガッ!」
どうやら死を迎えたようだ。俺は首を胴から切り離して、別々に埋めた。
まあ、目覚める事も無いだろうけど念の為だ。そして、俺はテツを撫で回した。モフモフだあー。
「いやー、凄いなテツ。本当に探してくれるなんて。ほら、ご褒美だ」
俺は無限箱からボアのステーキを出してテツに上げた。尻尾を盛大に振って嬉しそうに食べるテツ。それから、俺は無空間を使用して馬車まで戻った。
サヤとマコトにテツがいかに優秀かと話してたら、二人ともドヤ顔をしていた。(笑)
結局その日は馬車に入って、無在をかけてからテツも一緒に寝た。朝方、テツは気を利かせてくれたのか、馬車から出て外に行ったので、サヤとマコトと五回戦ずつする事が出来た。
外に出たら尻尾をフリフリ近寄ってきたから、朝から俺はボアのステーキを二枚、テツに進呈した。
本当に可愛いヤツが仲間になってくれたぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます