俺のスキルが【無】だった件

しょうわな人

第1話 親父狩りの件


 俺の名前は秋刀魚さんま蕩児とうじ。子供の頃から名前がふざけていると、教師にまで言われた。名字は選べないというのにだ。


 そんな俺も社会の荒波に出て、何とか会社員なんかを真面目にコツコツやって来た。

 俺も、もう三十二歳である。小、中学生から見れば立派な親父だという自覚はある。

 が、今目の前にいる若者達(十八~二十歳ぐらい)に『オッサン』と言われれば、少しだけイラついてしまう位には若いつもりだ。


 若者A

「だからよ~、オッサン。俺ら遊ぶカネどころか、家に帰るカネもねえんだわ。電車賃、五万円を恵んでくれや」


 若者B

「いや~、僕の家は四国になるから、八万円はないとダメなんだよね~」


 若者C

「俺様の家は直ぐ近くだから、二万円で良いぞ」


 若者D

「三万円、寄越せ」

 

 若者E

「締めて合計、二十五万円になりま~す。オッサン、怪我なんてしたくないだろう? 大人しく出せよ。無いとは言わせねぇよ~。銀行から俺らオッサンをつけてるから」


「いや~、それだけの金額を渡しちゃうと、オジサンの今月の生活が苦しくなっちゃうんだよね~。だから、二千五百円で勘弁してくれないかな~、アハハハ~」


 若者C

「ここは誰も通らねぇから、死んでも知らねぇぞ、オッサン!」


「ま~だ、死にたくはないかな~。アハハハ~」


 若者A

「何を余裕ぶって笑ってやがる! 五人でボコにしてやろうか?」


 若者D

「面倒だ、やるぞ」


 そう言って、殴りかかってきた若者Dの拳を捌いて、左に回り込んで走りだそうとした時に、辺り一面が光に包まれて俺は意識を失った。



 気がついたのは俺が一番早かったようだ。

 俺は辺りを見回す。すると、真正面に偉そうな爺さんとその横に美人だが、性格が悪そうな若い女性。更にその横に卑屈な顔つきのオッサン。

 その周りは甲冑を着込んだ騎士? がズラリ······


 何だ? 映画の撮影か? とも思ったが、その時に若者五人も気がついたようだ。

 周りをキョロキョロ見回して俺を見つけると、目を怒らせて俺に文句を言ってきた。


 若者B

「おいこら、オッサン! 俺達に何をした!」


「それは俺じゃなくて、あっちにいる人達に聞けよ。俺がやったわけじゃない」


 俺はこの異常事態に取り繕うのをやめて、普段の口調で若者に言った。

 俺が指し示した方を見た若者達は、ズラリと並んだ人達を見てギョッとしている。


 そこに、偉そうな爺さんが口を開いた。


「良くぞ参った。荒々しいが頼もしくも見える勇者達よ! 余はカイン・ゴルバード。ゴルバード王国の国王じゃ。隣は余の妃で、ヘレナという」


「勇者様方、お初にお目にかかります。ゴルバード国王妃のヘレナと申します。皆様方には我が国を救っていただきたいのです」


 そこで卑屈なオッサンも喋りだした。


「キヒヒ、私はゴルバード国の宰相でナッツンと申します。この度の勇者召喚の責任者でございます。この後に皆様のステータスを確認させていただきます」


 三人の言葉を聞いて、俺はまだ何処かから『ドッキリ大成功!』のプラカードを持った人が出てこないかと期待していたが、何処からも出てこなかった。


 若者五人は興奮して喋っている。


「やべえ! 異世界だぞ!」

「転移させられたんだな!」

「遂に俺の左腕の封印が!」


 などと騒いでいたら、偉そうな爺さん、いや国王が言った。


「済まぬが説明は後程するゆえに、先ずは一人ずつステータスを確認させてもらおう。宰相」


「はっ。キヒヒ、それではそちらの方から、『ステータスオープン』とおっしゃっていただけますかな」

 

 指名された若者Aが、素直に言った。


「ステータスオープン!」


 すると、目の前の空間に液晶画面のようなものが出てきて、文字が表示された。



 名前:カズマ

 性別:男

 年齢:十九

 職業:剣神

 レベル:1

 生命力:250 魔法力:100

 体力:80  魔力:60  器用:70  敏捷:90

 攻撃力:160(武器無し)

 防御力:130(防具無し)

 スキル:剣術Lv.MAX 身体強化Lv.7 

     初級魔法(火·水·風)


 その表示を見た人々が驚きの声を出す。


「おおーっ! 剣神! しかもレベル1であの能力値とは!!」


 それを聞いて、自分の能力がかなり良い物だと分かった若者Aことカズマは、他の四人に向かっていった。


「ハハハ、悪いな。俺は最強だったようだ」


 言われた若者達はまだわからないだろうと、カズマに言っている。

 そして、俺がアルファベットで認識していた順番通りに、若者達はステータスオープンと言っていった。


 若者B


 名前:ハヤト

 性別:男

 年齢:十八

 職業:極魔道

 レベル:1

 生命力:180 魔法力:300

 体力:60  魔力:150  器用:55  敏捷:65

 攻撃力:90(武器無し)

 防御力:60(防具無し)

 スキル:全属性攻撃魔法Lv.MAX 身体強化Lv.3

     支援魔法Lv.6


 若者C


 名前:サトル

 性別:男

 年齢:十八

 職業:槍神

 レベル:1

 生命力:280 魔法力:90

 体力:85  魔力:55  器用:90  敏捷:80

 攻撃力:170(武器無し)

 防御力:120(防具無し)

 スキル:槍術Lv.MAX 身体強化Lv.5 

     初級魔法(水·風·土)


 若者D


 名前:マコト

 性別:男

 年齢:二十

 職業:聖者

 レベル:1

 生命力:150 魔法力:180

 体力:55  魔力:95  器用:90  敏捷:65

 攻撃力:70(武器無し)

 防御力:60(防具無し)

 スキル:治癒魔法Lv.MAX 身体強化Lv.2 

     光聖魔法Lv.3


 若者E


 名前:ショウジ

 性別:男

 年齢:十九

 職業:戦神

 レベル:1

 生命力:350 魔法力:150

 体力:150  魔力:85  器用:90  敏捷:100

 攻撃力:190(武器無し)

 防御力:160(防具無し)

 スキル:軍略Lv.MAX 身体強化Lv.8 

     中級魔法(火·水·風·土·闇)


 どうやら、若者達のステータスは国王や王妃、宰相を大変満足させたようだ。

 そして、俺の順番がきた。


 俺は静かに「ステータスオープン」と言った。

 出てきた能力は、


 名前:トウジ

 性別:男

 年齢:三十二

 職業:無職

 レベル:1

 生命力:80 魔法力:50

 体力:50  魔力:30  器用:80  敏捷:100

 攻撃力:50(武器無し)

 防御力:40(防具無し)

 スキル:無


 はい、皆から向けられる冷たい眼差し。俺はこれには慣れている。

 平然としていると、カズマらが俺に向かって言った。


 「けっ、オッサン、カスだな」

 「使えねぇ~······」

 「ププッ、無職って······」

 「しかもスキル無し······ 笑えるわ~」


 一人は腹を押さえて笑い転げている。そこで国王が宰相に言った。


 「ナッツンよ、五人の勇者に持て成しの準備をせよ。そして、この使えぬ男は生活費を幾ばくか与えて、城外に放り出しておけ」


 そうして俺は金貨二枚を渡されて、城外に放り出された。

 


 


    



  

 





 


 

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