第74話 金精様、家を買うの件

 翌朝の事である。俺達は少し遅い時間に起きたのだが、ラタンさんがコン様がロビーでお待ちですと教えてくれた。

 慌ててロビーに向かうと、金精コンセイ様とコクアが対面に座って机を見ている。何をしているんだろう? 俺は金精コンセイ様に挨拶した。


金精コンセイ様、お早うございます」


「おお、起きたか三人とも。どうやら昨夜は良いマグワイが出来たようだな。我も安心したぞ」


 金精コンセイ様の言葉に顔を赤くするサヤとマコトとコクア。

 いや、コクアは関係ないよな。俺がそう思っていたら、


「マスタートウジ、昨日は有難うございます。おかげ様で思いっきり大声を出せました」


 だそうだ。どうやら無音をかけて上げたのに気がついた金精コンセイ様が、コクアに今日は声を我慢せずとも大丈夫だと教えたらしい。


 まあ、楽しんだなら良かったよ。そこでマコトが俺を見て、


「トウジ、アレをコクアに上げたら?」


 と言ってきた。おお、そうだ。ここに来るまでの間に便利そうなのを幾つか作ったな。その中に無音を展開出来る指輪もあった。


 俺は無限箱から指輪を二つ取り出して、金精コンセイ様とコクアに渡した。


金精コンセイ様、コクア。この指輪に魔力を込めれば、最大で五十立方メートルを無音にする事が出来るんだ。何の飾りも無いシンプルな指輪だけど、良かったら受け取って欲しい」


 俺がそう言うと、金精コンセイ様はコクアの左手薬指に指輪をはめた。そして、コクアは金精コンセイ様の左手薬指に。


「トウジよ。礼を言うぞ。我はどうも女性がこういう装飾品が好きだというのを忘れてしまうのだ。しかし、トウジのお陰でこうして妻に喜んで貰えた。もう一つ祝福を授けよう」


「ストーップッ!! 金精コンセイ様! 祝福はもう昨日頂いたので十分ですから、お気持ちだけで結構です!」


 俺は大慌てで金精コンセイ様を止めた。


「むう、そうか。必ず喜んで貰える祝福なんだが…… トウジがそう言うなら止めておこうか」


 何故ソコで残念そうな顔をしてるんですかね? サヤさんにマコトさん。昨夜も十分に堪能しましたよね。俺はアレ以上になるツモリは無いからね。


「トコロでトウジよ。バーム商会に知り合いは居らぬか? もし居たら紹介して欲しいのだが」


「ん? ゴルバード王国のバーム商会本店なら居ますけど?」


「偉いさんか? それならここの支店長にも効果があると思うから助かる」


「まあ、偉いさんですね」


 俺の脳裏にライーグさんの嬉しそうな笑顔が浮かぶ。そんなに月日は経ってないけど、随分と長く会ってないような不思議な感じだ。

 まあ、ライーグさんも偉いさんになって忙しそうだっから、ロクに挨拶も出来なかったのもあるだろう。俺がそんな事を思っていたら、


「良し! トウジよ、今から一緒に来てくれ」


 と金精コンセイ様に言われた。俺は一応聞いてみた。


金精コンセイ様、バーム商会には何の用事があるんですか? 素材を買い取って貰うんですか?」


「いや、まあソレもあるが、我と妻はこの町が気に入ったのでな。家を購入しようと思ってな」


 まさかの物件購入でした。そういう事なら俺も使えるコネは使いますよ、金精コンセイ様。


 金精コンセイ様にコクア、俺とサヤとマコトは連れ立ってこの町のバーム商会支店にやって来た。先ずは買取窓口に向かった。


 ソコで金精コンセイ様が出そうとしたのが、ミスリ鉱石が二トンだった。慌てて止める俺。そして、窓口にいたお姉さんに鉱石倉庫に案内して欲しいと冒険者証明を見せながら言った。


 すると、俺の証明を見たお姉さんが椅子から勢い良く立ち上がり、


「伝説の素材士、トウジ様にお越し頂きまして、当支店は大変、光栄に思います! 鉱石倉庫でございますね! 只今直ぐにわたくしがご案内致しますので、どうかよろしくお願い致します!!」


 何て言ってきた。伝説って、ソレに素材士って何? 俺達は呆気にとられながらもお姉さんの後を付いて行く事に。周りにいた他の客から、


「おい、アレが伝説の……」


 とか、


「意外と優しそうな人なんだね……」


 とか聞こえたけど何とかポーカーフェイスが出来ていたと思う。


 そして支店の裏手にある倉庫の中でも、一際大きな倉庫に着いた。お姉さんが、


「コチラが鉱石倉庫になります」


 と言いながら鍵を開けて中に案内してくれた。中はかなり広い。そして、倉庫の大きさと中身が反比例していた。


「あの? こんなに少ないモノなんですか?」


 サヤがお姉さんに正直に聞いた。聞かれたお姉さんは少し顔を赤らめて、


「恥ずかしながら、私どもの支店はバーム商会の数ある支店の中でも売上がワースト一位でございまして……」


 そう恥ずかしそうに返答してくれた。しかし、ここなら二トンのミスリ鉱石が十分置ける。俺はお姉さんに場所を確認した。そしたら、何処でも良いとの事。

 ソレを聞いた金精コンセイ様が無造作に手を振ると、ソコにはキラキラ輝くミスリ鉱石のインゴットがキレイに高く積まれた状態で現れた。


 目を丸く見開き、大きく口を開けてパクパクしてるお姉さん。美人な顔が台無しですよ。


「あ、あの、えっと、コレって…… 」


「うむ、我が今までに集めたミスリ鉱石だ。インゴットにしたのはサービスだな。二トンあるが幾らで買い取って貰える?」


「にっ、二トンですかっ!! お待ち下さい。上の者を呼んで参ります!」


 そう言って倉庫を飛び出したお姉さんは三分で、七三分けがバッチリ決まったダンディな男性を連れて戻ってきた。


「お待たせいたしました。バーム商会ヤカラ支店長のタカイートと申します。今回は大量のミスリ鉱石を売って頂けるそうで、有難うございます。ただ、現在当店にはコレだけのミスリ鉱石を買取るだけの金貨がございません。そこで、今当店で出せるだけのお支払をさせて頂きまして、後日、本店より金貨が届き次第、残金をお支払させて頂きたいのですが、よろしいでしょうか? 勿論、ちゃんと証書も作成いたしますし、契約の神に誓いもします。どうか、ご了承いただればと思います」


 支店長の言葉に俺を見る金精コンセイ様。俺は、


「大丈夫ですよ、金精コンセイ様。バーム商会なら信用出来ますし、もし支払いが無いようなら、俺から本店に言いますよ」


 そう答えた。恐らく、こんな大口取引をしたら、支店のワースト一位から直ぐに抜け出せるだろうから、支店長のタカイートさんも必死なのだろう。


「うむ、分かった。我もトウジがそう言うなら納得しよう」


「あ、有難うございます! また、トウジ様から保証して頂きましたので、トウジ様の顔に泥を塗るような真似は決していたしません! ココに私個人で契約の神に誓います!」


 支店長さん、感激のあまり涙目になってるよ。それから、応接室に案内されて証書作成、残金受領引換書も受取った金精コンセイ様は、本題に入った。


「実はこの町が気に入ってな。妻と二人で住みたいのだが、良い物件があれば購入したいと思ってな。本命はそちらなんだ。物件紹介もしてくれるか?」


「おお、それは当店としても嬉しい限りです。コン様はトウジ様に並ぶバーム商会の大得意様ですので、勿論我が支店の不動産部門の総力を結集してご紹介させていただきます! 暫くお待ち頂けますか? 最高の担当者を呼んで参ります」


 金精コンセイ様が頷いたのを見て、自身で呼びに行く支店長。見た目よりフットワークが軽い人だな。そしたらお茶を入れたお盆を手に先程のお姉さんが入ってきて、


「支店長があんなに楽しそうに仕事をしてるなんて、初めての事です。皆様のお陰です、本当に有難うございます。これからも当店をどうかご贔屓に」


 そう挨拶してくれた。ソコにノックの音がしたので、俺がどうぞと返事をしたら、扉を開けて入ってきたのは、


「「アンセルさん!!」」


 俺とサヤの声がハモった。そう、ゴルバード王国で俺達に家を紹介してくれたアンセルさんがソコに立っていた。アンセルさんはニコニコと満面の笑顔で、


「お久しぶりでございます。その節は大変お世話になりました。しかし、ココでお会い出来るとは思っても見なかったです」


 と挨拶してくれた。俺とサヤもココで会えるなんて思って無かったので、ビックリしたと伝えたら、どうも売上が芳しくないこの支店をテコ入れする為に、優秀なアンセルさんを本店が送り込んできたそうだ。(支店長談)お陰で不動産部門は上向き景気だが、他の部門がまだまだなので、困っていたらしい。


「うん? トウジの知り合いか? ならば安心して任せられるな」


 金精コンセイ様もそう言ってニコニコしている。コクアは最初から口を出さずにニコニコしているだけだ。


 それからが早かった。アンセルさんがニ、三質問して、金精コンセイ様がソレに答える。


 住むのは、ヤーマーラ側。家は一軒家で然程広くなくても良い。周りが静かな住人が居る場所が良いの返事で、五件の物件をチョイスしたアンセルさん。


 早速案内してもらい、金精コンセイ様もコクアも気に入った一軒を購入する事に決まった。


「有難うございます。それでは、お支払はコチラがお支払する予定のミスリ鉱石買取残金から引かせていただくという事でよろしいですか?」


「うむ、それで良い。よろしく頼む」


「畏まりました。お引き渡しは明日の午後になります。直接コチラに来て頂きましたら、私が直接手続きを致しますので」


「うんうん、手数だが頼むな」


 そうして、家も決まり晩飯時間にもちょうどなったので、約束通り肉の美味しいお店に連れて行って貰った。



 それから、宿屋に戻り明日は俺達は温泉に向かうからと告げて、温泉からの帰りにウチに寄るのだと約束させられて、それぞれの部屋に別れた。


 その夜? 勿論だが、俺の二丁が盛大に火を噴いた事だけ述べておくよ。  

 


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