第16話 勇者?の件
ゼムさんと共に東門から出た俺達は、山の麓へ到着した。
二名の兵士が待機していたので、ゼムさんが話を聞きに行く。
話を終えて戻ってくるゼムさんは、俺達を七つのチームに分けた。
一チーム四名を麓に凡そ二十メートル間隔で展開する。
俺とサヤは同じチームになった二人に挨拶した。
「初めまして。俺はトウジでC級です。こっちはサヤでB級です。」
そう言って二人で頭を下げた。
「あらあら~、礼儀正しいのね~。私はカーマよ~。C級の魔道師よ~。よろしくね~」
カーマさんは
「私はコレの妹で、ハーマです。同じくC級の狩人です。よろしくお願いします」
ハーマさんは女性だった。
俺達四人は麓の左端が担当だ。
カーマさんが魔力感知をハーマさんが気配察知をある程度の間隔ごとに行い、二人が行ってない時はサヤが両方行う。
山の方からは戦闘音が聞こえてくる。
どうやら順調に登っていってるようだ。
カーマさんが話し掛けてきた。
「この国の兵士は中々やるのね~。暴力ベアーは私達でも躊躇する強さなのに、上位種の強暴ベアーもいる山に良く入って行くわね~」
「俺もギルドマスターに聞いただけですけど、精鋭を集めて対処しているらしいですよ」
俺がそう言った時にハーマさんが言った。
「来るわ! こちら側に五頭、あっちには恐らく四頭!」
そうハーマさんが言った数秒後に左側サイドに五頭の暴力ベアーが現れた。
俺達四人の方には二頭が向かってくる。
カーマさんが魔法を唱えた。
「地の力を借りて隆起を起さん!
向かってきた二頭の前足がちょうど引っ掛かる位置に少しだけ段差が出来て、二頭は足を取られて転んだ。
そこに俺とサヤが走り込み、刀を一閃させた。
呆気なく終わったのを見てカーマとハーマ兄妹が声を上げた。
「はあ~、B級のサヤちゃんはともかく、トウジくんも強いのね~」
「一振で暴力ベアーの首を落とすなんて凄いです!」
俺達を見てそう言う兄妹。
「有り難う。他には来てないかな?」
「はい、大丈夫です」
俺達以外は割と苦戦したようだが、要所要所でゼムさんが助けに入って、全て倒せたようだ。
怪我をした者はギルド支給のポーションを飲んだり傷にかけたりしている。
そして、一息ついた時にまたハーマさんが察知した。
「来ます! 今度は多いです! みんな気をつけて!」
大声で隣の冒険者に注意を促すハーマさん。
その言葉通りに、先程より多い暴力ベアーが麓に走ってきた。
俺達の所に四頭、見える範囲では隣に二頭、その向こうは四頭のようだ。ここからは見えないが、右側の方もさっきより多く来ていると思われた。
そこにカーマさんがさっきよりも魔力を込めて、広範囲に
コレにより見える範囲の暴力ベアーは全て転ぶ。
俺とサヤは同じように一振で首を落として四頭を倒してから、ハーマさんを見た。
「こっちにはもう居ません!」
俺達の意図を察したハーマさんがそう言うのを聞いて、俺とサヤは右に向けて走り出す。
走りながら暴力ベアーに刀を一閃していく。
既に立ち上がっているベアーは後ろ足を斬り落としていった。
右の端まで一気に走り抜け、また左に取って返す。その時に苦戦しているパーティーの場所では暴力ベアーに無音をかけていった。
それにより、死者を出す事なく戦闘を終える事が出来た。
ゼムさんが俺達の所まできて言った。
「二人ともすまない、助かりましたよ。想定より多く下りてきたので、ダメかと思いました」
「上で何かあったんですかね? 逃げてきたと言うよりは、攻めてきたって感じでしたが······」
俺がそう言った時に、山から人々が走ってきた。
先頭にはあの若者達がいて、兵士が彼らを守りながら逃げてきている。
「ウワーーッ! どけっ! お前ら邪魔だーーっ!!」
「馬鹿野郎っ! ボーッと突っ立ってないで、早く俺らを助けろやーっ!!」
口々に勝手な事を言いながら、こちらに全速力で逃げてくる五人。
その時、五人の後ろで暴力ベアーを抑えていた兵士達が吹き飛んだ。
「うわっ! 来たっ! 早く足止めしやがれっ!」
ハヤトがいきなり後ろを向いて詠唱を始める。
カーマさんが叫ぶ!
「何を考えてるの! 兵士がまだ居るのよ!!」
「全てを焼き尽くす地獄の業火よ、ウルセーッ!カマは黙ってろっ!!来たりて我が敵を燃や『し尽くせ!!
詠唱の途中で声が出なくなったのに気が付かず、後ろから来ている、暴力ベアーと強暴ベアーに向けて手を向けるが、勿論魔法は発動しない。
俺が間一髪で無音をかけたからだが、奴らには分からないから、更に恐慌状態になる。
そして、近場にいた冒険者達を突飛ばしながら、町へと逃げていった。
うーん、『勇者とは勇気ある者』と俺の
まさか、逃げる勇気だったとは······
バカな事を考えるのを止めて、俺とサヤはカーマさんとハーマさんに声をかけた。
「私とトウジで強暴ベアーをヤります!」
「カーマさんとハーマさんは、他の冒険者と一緒に暴力ベアーをお願いします! ゼムさん、指揮を頼む!」
俺達はそう言うと、強暴ベアーに向けて全速力で走った。
傷を負い倒れて呻いている兵士には、走りながら無瑕をかける。
突然痛みがなくなり、ビックリしているが説明している
「動けるようになった人は、まだ動けない人を連れて、冒険者達の居る場所まで下がって!!」
それを聞いて仲間を助けて動き出す兵士達。
しかし、暴力ベアーが襲いかかろうとしている。
そこに、ゼムさんに指揮された冒険者達がやって来て、攻撃を防ぐ。
「よし、ヤるぞ! 魔法は火以外で攻撃! 前衛は状況を良く見て動け!」
少しでも助けになればと、目につく暴力ベアーには、無音·無臭·無視を併用してかけていく。
そして、俺達二人は強暴ベアーにたどり着いた。
「サヤ、左に回って風魔法で攻撃してくれ!」
俺がサヤにそう言うと、強暴ベアーが立ち上がって俺達を威嚇してきた。
やっぱりデカイ。その高さから前足を俺に振り下ろしてきた。
俺は二歩右に動き、その攻撃を避けながら強暴ベアーに無視と無音をかけた。
無視の効果は二分。奴の攻撃は俺に何のダメージも与えない······筈だ。
検証してないから、やっぱりちょっと怖かったりするが、最愛の妻に良い格好を見せたい。
俺はサヤが風魔法の後に、カーマさんがやったように土魔法で奴の足下に土壁で段差を作ったのを確認して、五歩下がった。
音は聞こえなくても、鼻と目は生きてるから、俺を追い掛けようとする強暴ベアー。
しかし、サヤが作った段差に躓き転倒した。
倒れながらも俺に爪を振って攻撃してくるが、軌道が狂っているので難なく避けて、奴の無防備になった首に刀を一閃させた。
首が落ちても暫く暴れていた(落ちた首の目が俺を睨んでいた)が、絶命した強暴ベアー。
すると、支配リンクが切れたのか、冒険者達と戦闘状態だった暴力ベアー達が、山へと逃げ出した。
「逃げるベアーは放っておけ! 今からは救護活動をメインにしつつ、残っているベアーをヤるんだ!!」
ゼムさんの指揮する声が聞こえる。
俺とサヤは顔を見合せて、笑いあう。
「凄い! 格好良かったよ! トウジ!」
「サヤもナイスフォローだったよ! さすが、俺の奥さんだっ!!」
二人で互いを褒めあいながら、近くに倒れている兵士達を助けて、麓に向かって下りる。
無瑕をかけて、傷を治しているが残念ながら、噛み千切られた腕は治らない。それでも、そこから流れ出ていた血を止めるから、無瑕をかけていく。
兵士達も大怪我を負った者が多かったが、死者は出なかった。
そして、逃げなかった暴力ベアーも全て倒しきり、俺達は疲れた体を麓で休めていた。
そこに、町方向から馬蹄が聞こえてきた。
すると先頭には何と、ナッツン宰相がいる。
俺達の数メートル手前で馬を降り、走ってくる宰相。
「皆さん! 大丈夫ですか!?」
「宰相閣下!!」
ゼムさんがそう言うと、兵士だけでなく、冒険者達も跪いた。
「申し訳ない! まさか、あんなにだらしないとは思ってなかったのです······ 私の失態です」
話を聞くと、勇者五人は城へと逃げ帰り宰相に食って掛かったそうだ。
曰く、あんなに凶悪な魔物だとは聞いてない
数が多すぎて五人でどうにかは無理だ
兵士達が弱すぎて使えない
聞いた宰相は急いで騎士団を連れて、駆け付けてくれたらしい。
しかし、既にベアー退治は終わっている。
そこで、国から冒険者ギルドには褒賞金を出す事をその場で確約した。
更には傷付いた兵士達の元にも赴き、頭を下げてから、全員に褒賞金と、腕を欠損した兵士には年金を支給する事を確約した。
勿論、どちらも契約の神に誓いを立てた。
やるなぁと思いながら、ナッツンを見ていたら、ゼムさんと話を始めた。
ゼムさんが、俺達の方を指差している。
話が終わったようだが、ナッツンが俺達の方に歩いてきた。そして、
「キヒヒヒ、あなた達二人のご夫婦のお陰で、死者が出なかった事を感謝します。しかし、大っぴらにあなた達の今回の実績を国王に話すと、利用しようと企み始めるでしょう。それはあなた達二人には本意ではないと思います。ですから、申し訳ないですが、強暴ベアーは、全ての冒険者が力を合わせて倒したという事にしたいのですが、よろしいですか?」
俺とサヤは、この世界で平和に二人で楽しく暮らして行きたいと思っている。
だから、国王なんかに利用されるのはゴメンだ。
「勿論それでお願いします。折角、新居も構えて、これから新婚生活が始まるのに、国の用事なんて出来ませんから」
俺が笑顔でナッツンにそう言うと、
「キヒヒヒ、ではそのようにします。新婚さんの邪魔はさせませんから、ご安心下さい。ただ、トウジさん。この後始末が終わって落ち着いたら、一度エルさんのお店でお話させて下さい」
ナッツンがそう言ってきたので、俺は了承した。
そして、町を守った俺達は町へと帰ることになり、傷付いた兵士達を助けながら、皆で揃って町へと戻った。
町では東門の両脇に町人が数多く並んで、帰ってきた俺達に礼を言い、喜びの声をあげて、労ってくれた。
こうして、ベアー退治は終わった。
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