第81話 観光温泉村の件

 集められた名も無い村の人達用の住居をコンカッセの屋敷近くの空いた場所に急ピッチで建築していく。大工のハカさんが集まった村人から元の自分の弟子を呼んで、取り敢えず長屋風の仮住居を建てさせる。

 名も無い村からは二十五世帯、総勢百八人が来ていた。皆が先に追放された人達に頭を下げていたが、事情を知っているから直ぐに良い関係に戻る事が出来たようだ。


 それからは早かった。二日で建てた仮設住宅に皆が入り、大工さん達が新たな住居を希望を聞きながら建てて行く。

 そして、観光温泉村で働く為に俺、サヤ、マコト、コクアが中心になって皆を教育していた。

 アッと言う間に三週間が経ち、一通りの教育と割り振りが決まってから、コンカッセが王都に向かう事になった。

 今回は俺だけが護衛として付いていき、俺の馬車で急行する。


 王都には直ぐに着いた。そして、王宮に向かう俺とコンカッセ。謁見許可が直ぐに下りたのにはビックリしたけど、後から教えて貰い納得した。


 タイサン、有難う。持つべきものは良き友だな。


 俺はコンカッセと同道を許されて今、ヤーマーラ国王の前に跪いている。が、頭は下げてないけどね。コンカッセは頭を下げているけれど。


「そなたがトウジ殿だな。タイサン殿から聞いておる。今回のコンカッセへの助力には礼を言おう。お陰で国内の膿を出す事が出来た。有難う」


「いえ、俺も楽しくやらせて貰いましたので」


「ハッハッハ、それは何より。だが、それでは国としても体裁が悪いのでな、是非とも礼を受け取って欲しい。おい、アレを」


 国王の合図で荷車が二つ運ばれて来た。


「一つは金じゃ。あっても困らぬからな。もう一つはランクはソコソコじゃが、魔石が入っておる故に好きに使ってくれ。トウジ殿は錬金も行えると聞いた故にな」


 おお、それは有り難い。魔石はあれば緊急時にも役立つから受け取っておこう。俺は無窮箱から返礼品を取り出して、空になった荷車の上に置いた。


「コチラの腕輪はタイサン陛下と共に開発したモノです。十二個ありますから陛下ご自身と、陛下の大切な方に身につける様にしてください。物理、魔法防御と、麻痺、毒等の状態異常無効が付与されてます」


「何と! それは…… 受け取っても良いのか? 返礼品の方が価値が高いのだが」  


「お納め下さい」


「うむ、有難く頂戴しよう。さて、コンカッセよ。待たせたな、面を上げよ。そしてどの様に開拓したのか教えてくれ」


「はいっ! 陛下! コチラに居られますトウジさんに助けられながらも素晴らしい観光地が出来上がりました!」


 力一杯に声を出して観光温泉村をアピールするコンカッセ。それをニコニコ顔で聞いていた国王陛下は、最後まで話を聞いて言った。



「うむ、ご苦労であった。今回のコンカッセの事業は昇爵に値する。男爵位より伯爵位に昇爵じゃ。子爵位ではその功績に対して低すぎるからな。文句のある者はいるか?」


 国王の問いかけに誰も反対意見は出さなかった。どうやら事前に手回しをしておいたようだ。中々のやり手の国王だな。

 急な昇爵に驚きと感動で何も言えずにいるコンカッセに国王は更に言った。


「してコンカッセ伯爵よ。余は早く連れて行けと王妃や子供らに言われておるのだが、いつから行けば良いのか?」


 政務を放って来るつもりのようだ。宰相らしい人が笑顔だが少し引きつっているな。


「へ、陛下。勿論、今すぐでもだ、大丈夫でございます! 既に準備は整っておりますので!」


 つっかえながらも何とか返事をしたコンカッセ。その言葉を聞いた国王は、


「良しっ! ならば今すぐ出立の準備じゃっ! 宰相よ、ニ〜三日じゃから頼んだぞ!」


 頼まれた宰相閣下はツワモノだった。


「陛下がお戻りになられましたら、私が行っても良いというお約束をいただきたいのですがね」


「む、も、勿論じゃ。余が戻ったらそなたが行く番じゃ」


「畏まりました。ここに居る皆が証人ですからね。トウジ様も然と聞きましたよね?」


 俺にふって来やがったよ。まあ、確かに聞いたから俺はハッキリと頷いておいた。

 俺が頷いたのを確認してから宰相閣下は、各方面に国王家族が移動する為の指示を出した。そして、一時間後に出立の準備が整って、何と俺の馬車に国王家族が乗っていた。王家の馬車には影武者ならずにメイドさん達だけが乗り、俺の馬車の馭者席には近衛騎士団長が座っている。

 まあ、サズキとウズキは何もしなくてもちゃんと進んでくれるからな。


 馬車の中に入った国王夫妻と王太子である第一王子。その補佐をしている第二王子は年子で、十二歳と十一歳。第一王女は二人より歳上で十五歳。第二王女は八歳で、王妃の腕には一歳になる第三王子がいた。

 子沢山で良いですな。まあ、皆が仲良さそうだし、愛妾も居ないようだから揉める事は無いようだ。

 皆が一名を除いて完全に寛いでいる。コンカッセは緊張しっぱなしだ。俺が無音を掛けてからコンカッセに聞いて見たら、


「だ、大丈夫でしょうか? 最初のお客様が国王陛下とそのご家族になるなんて……」


 と不安そうに言うので、


「心配ないさ。サヤとマコトに通信して既に知らせてあるし、皆は訓練した通りに動いてくれるさ。それに、自分達の王様が第一号で来てくれるなんて名誉な事じゃないか。あっ、昇爵の件は皆にはいってないから、自分で知らせて驚かせてやれよ」


 俺はそう言ってコンカッセを落ち着かせた。


「は、はい。トウジさん、有難うございます」


 そこで無音を解いたら国王が、


「トウジ殿、いまのがタイサン殿から聞いた無音と言うスキルか? こんなに近いのにコンカッセとトウジ殿の声は一切聞こえなかったぞ」


「陛下、お渡しした腕輪には同じ機能が付いております。あの場で発表するのはマズイかなと思いましてね。魔力を流して王妃様を意識して見て下さい」


 俺がそう言うと早速試しだす国王陛下。そして、何かを王妃様に告げた。勿論、俺には聞こえるのだが、子供達や世話をする為に一緒に乗っていた二名のメイドさん達には何も聞こえなかったようだ。


 国王陛下が解除するにはどうしたら良いのか悩んでいるようなので、俺は国王陛下の肩に手をおいて話かけた。本当はその必要も無いけどね。


『陛下、頭の中で解除したいと思えば解除されます』


『おお、トウジ殿の声が頭に直接!』


『念話です。が、念話は読み取る事が出来る者も居ますので、内緒話をされる時は是非この無音を活用してください』


「おお、それは有り難い。必ずそうしようと思う。しかし、后が聞きたいそうなのだが、この様に揺れぬ馬車は何処で手に入るだろうか?」


「陛下、もうすぐカインで売りに出される筈ですよ。いや、既に売りに出されているかな?」


「何と! ではタイサン殿に戻ったら連絡してみよう! 良い事を聞いた」


 そんな話をしていたら着いたよ、観光温泉村に。今回は初のお客様だから、皆が一列に並んでお出迎えだ。


「ようこそ、いらっしゃいました! 癒やしの空間にて日頃の疲れを是非お取り下さいませ!」


 皆の声が青空に響き渡った。



 それから、三日間。国王一家と、その護衛さん達、メイドさん達は皆が楽しく過ごした。そして、王都に帰るとなった時に駄々を捏ねたのは、国王陛下自身だった……


「余はまだ帰らぬぞ! まだ、木工体験もしておらぬ!! それにダーツも王太子に負けたままでは帰れぬわ!」


 オイオイ、楽しんでくれたのは良いけれど、自分の子供達が呆れた顔をして見ているぞ。そして、第一王女が刺さる一言を放った。


「お父様、私達も楽しかったですから帰りたくない気持ちは一緒ですわ。けれども私達は王族です。国民に対する責務がございますわ。それを怠けると仰られるなら、お母様と離縁していただきますわ」


 おお、どうやら王女様が主導権を持っているようだな。言われた国王陛下はシュンとしてしまった。そして、コンカッセ伯爵に


「コンカッセよ、とても素晴らしい施設の数々だ。余はここに王都を移したいと思うのだが……」


「お・と・う・さ・ま!!」


「いや、勿論冗談だ! そんなに睨むでない。しかし、また必ずや訪れるからな。それと金清様と言われたか? 勿論その神様の信仰も認めよう。素晴らしい神様ではないか!!」


 そう、基本的にはこの世界の神様ではない金清様を信仰する事は黙っておこうと思ったのだが、金清様が国王陛下に祝福を授けちゃったから、隠す事もできなくなってしまい、正直に打ち明けたら許可を出してくれた。国王陛下には若い精力を、王妃様には安産を授けた様だ。子供達も何らかの祝福を授かった様だけど、性に関するというよりは健全な体に関するモノだったらしくて、サヤとマコトと共にホッとした。


 そして、国王一家が王都に帰るのに合わせて、俺達も王都に向かう事になった。帰りも俺の馬車が良いと王太子様に言われたからね。


「コンカッセ、また必ず顔を出すから金清様とコクアの面倒をよろしく頼む。町に家も買った筈だけど、恐らくはここに住んで移動したりしないだろうから、話を聞いて町の方の家は処分するなりしてくれ」


「トウジさん、出会いから今日まで助けられてばかりでした。次に来られた時には精一杯の歓待を行いますから、必ず来て下さい」


 俺達が挨拶している横ではサヤとマコトがサリーナと別れを惜しんでいた。


「サヤさん、マコトさん。お世話になりました。本当はもっと色々教えて欲しいけれど……」


「サリーナ、それは今度顔を出した時のお楽しみにしましょう」


「サリーナ、コレを渡しておくわね。この箱に入れておけば渡した化粧品は劣化しないし、使っても減らないから」


 マコトがそう言ってサリーナに渡したのは、昨晩頼まれて作った小箱だった。魔石も利用したこの小箱は無限に中の品を補充する。

 感極まったのかサリーナの目から涙が落ちたが、笑顔のままで言ってくれた。


「皆さん、また、必ず……」


「もちろん、また会おう!」


 そして、俺達は村を後にして王都に向かった。


 いや、充実した日々を送れたよ。俺は今後もこんな感じで日々を過ごしたいなと思った。 



 




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