第80話 神罰が下った件
そいつらはいきなりやって来た。旅館が完成し、次は売店かなとか皆で相談している時に、二十人程の男達がドカドカと旅館の敷地に入ってきたのだ。
先頭にいる髭面のオッサンがコンカッセ夫婦を見つけて言った。
「こんな辺境の村に飛ばされた哀れな男爵様が、何をどう思ったか【愛の泉】を勝手に変えていると聞いたので、抗議に来ましたよ。どういうおつもりですかな? コンカッセ男爵」
へえ、貴族に対してかなり上からの物言いだな。このオッサンも貴族なのかな?俺がそう思っていたら、大工のハカさんがそのオッサンに言った。
「村長、ここは男爵様の領地だ。それを有効に活用しようと男爵様が決められたのだ。あんたが口を出して良い問題じゃないぞ」
「ふん、ハカか。折角お前の娘を俺の息子の嫁にと言ってやったのに、俺の好意を無下に断ったから村から追い出されたんだぞ。それを忘れたか? それに【愛の泉】は村の共有財産だ。いくら領主とはいえ、村に相談もなく変えられては抗議せざるを得ない。既に王都に使いをだしてある。まあ、折角建てたんだから、村の皆で有効活用してやるがな」
王都に使いを出したと聞いたコンカッセが、村長に言った。
「使いを出したと言ったな、村長。しかしながらその使いは無駄になるよ。私は国王陛下からこの温泉地を開発する許可を頂いている。許可証もあるから、例え村長が懇意にしている例の子爵殿に言っても今回は動かれる事はないと思う」
おお、コンカッセが頼もしい事を言ってるぞ。それを聞いた村長が悔しそうな顔をしてやがる。続けてハカさんが村長を糾弾し始めた。
「村長、あんたがこの温泉にピンク色の空気が漂う時に、あんたの好みの女性を無理やり連れてきてコトに及んでいるのは知っている。それと後ろにいる男達も同じ事をしているよな。それに逆らった者を村から追い出し、仕事もなく餓死しかけた俺達は男爵様に助けられたんだ。ココは俺達が男爵様から依頼された仕事場だ! あんたが来て良い場所じゃない。さっさと村に戻ってお山の大将をやっておけ!」
悔しそうな顔をしたままの村長が良い事を思いついたという風にニヤリと笑った。
「ああ、そうだな、ハカ。今日はコレで帰る事にするよ。しかし、お前達が必死に建てても無駄になるような気がするぞ、俺は。まあ、精々頑張りな」
言うだけ言って帰って行った村長とその取巻き達。彼らが去ってから、コンカッセが不安そうにハカに聞いている。
「最後に何かを企んでいたようだが、何か分かりますか?」
問われたハカさんも首を横に振って答えた。
「いえ、男爵様。何も出来る事は無い筈ですが……」
ソコで俺は皆に向かって声をかけた。
「まあ、今わからない事を悩んでもしょうがないさ。何かあると言う心構えはしておいて、続きを作って行こう。俺達も手伝うから」
俺の言葉にコンカッセも、
「そうですね。何かあるかも知れないと考えて、心構えをしておいて、作業を進めて行きましょう。皆、よろしく頼む」
そう言って作業を再開した。
異変があったのは翌日からだった。村方面に薬草を採取に行った老人達が教えてくれた。村の門が封鎖された上にバリケードが築かれていたそうだ。
この場所に来る為には村を通らなければ来れない。恐らくコチラから村へ来れなくすると共に、村を通って温泉に来る人間も通さないつもりなんだろう。俺はそう考えたが、コンカッセも同じ考えに至ったようだ。
「どう対処しましょうか?」
俺は考えながら言った。
「今すぐの対処は必要ないな。建てるべきものを全て建てて、営業出来るように皆を教育する迄の期間に余計な
俺の言葉にコンカッセも安堵して笑った。
「それも、そうですね」
しかし、許せないと思う方がいた。そう、
「我の信者を困らせる者を、放っておく訳にはいかぬ!」
とお怒りなのだ。しかし、村全部の住人が悪い訳では無いとハカさんや、他の人達が言うので今は怒りを堪えてもらった。年老いた親や、産まれたばかりの赤子を抱えている人は、イヤイヤながらも生活の為に村に留まっているそうだ。その人達もコチラに迎え入れる様にする為に、そして悪い奴らだけを村に残す為に、今は温泉地の設備を一刻も早く整える事を優先する。
そこで俺は板や柱の加工を全て俺の無窮箱で行う事にした。必要な柱の長さ、太さ、本数を聞いてから丸太を取り込み、箱から出したら出来上がりである。板も同様だ。出した資材には無重力をかけて軽くしてある。
それから鉄材も取り込み、釘、カスガイ、エル型金具等を出してやる。それを皆で協力して組み立てて行く。
旅館近辺には、武器、防具屋、薬屋、雑貨屋、服屋、小物家具屋、食事処三軒、呑み処五軒、茶店二軒、この世界では珍しい本屋、遊戯場が二軒出来上がる。
旅館から少し南に入った場所は関係者以外立入禁止区域に設定してある。そこには、倉庫が三棟、鍛冶工房が同じく二棟。縫製工房が一棟。木工加工場が一棟。皆の休憩所(温泉付き)兼食堂が一棟。
それらが何とか出来上がった。そして、コンカッセが村に向かう事になった。俺、サヤ、マコトが護衛として付いていく。
バリケードの前まで来たコンカッセは内側にいる見張りに声をかけた。
「コレは何事だ。私はこの村を含めた近辺の地の領主だが、このような事をするという報告は聞いてないぞ。今すぐこのバリケードを撤去するのだ」
声を張り上げる事なく冷静な声でそう告げられ、見張り達が顔を見合わす。そして、一人が代表して言葉を発した。
「り、領主様。私達も村長に言われてこんなモノを作りましたが、本心ではないのです。ただ、この村では村長の言う事を聞かなければ生活できなくなりますので……」
語尾が段々と小さくなり、申し訳なさそうにそう言う男にコンカッセが再び声をかけた。
「その件について話に来たのだ。この村には名がない。つまり王都では村としてさえ認められてない事を皆は知っているか? そしてこの度、私が国王陛下より下賜された領地に温泉がある事を知ったので、その温泉地の周りを整備して国王陛下に村として認めて頂く事になったのだ。そこで、我が村にはまだまだ人員が足りない。そこで、この名も無い村から人を雇おうと思って来た次第だ。それと言っておくがこの村は一週間後に王都から工作兵が来て解体される事が決まっている。それでも村長の言う事を聞く者がいるか?」
コンカッセの話は事実である。実はタイサン(カイン国王)を通じて、ヤーマーラ国王に連絡を入れて貰ったのだ。そして、ヤーマーラ国王はこの地についてはコンカッセに一任すると言ってくれた。更に、この村については本当に一週間後に工作兵が来て解体される事になる。
その話を聞いた村人は驚いた顔をしたが、直ぐに開けますと言ってバリケードを除け始めた。但し除けながらコンカッセに懇願する。
「ご領主様。村長の家には村の見目良い女達が、人質のようにして囚われています。辱めを受けてる者もいますが、死んでしまっては夫や子供にあえなくなると、屈辱に耐えて従っています。そんな女達が傷つけられない様に話をつけて貰えませんか?」
まさかとは思ったけど、そんな事まで本当にしていたとは。俺を通して話を聞いている
「トウジよ、もう止めるでないぞ! 我は神罰を下す!!」
そう言うと止める間もなく
「フム、コレで良い。皆も安心するが良い。女達は無事だ。村長以下、ゲスな者共には我が神罰を下したのでな、動けずにおる。コンカッセよ、今の内に村に入りマトモな村人達を連れてこの村を廃棄するのだ」
「ハッ、承りました。
自分達の領主が平身低頭しているのを見て村人達も一斉に
「良いか、コチラに居られるお方は、名を
ひれ伏す村人にそう言うと村に向かうぞと、村人達を立たせて向かうコンカッセ。今回、俺達の出番が無いよなとサヤとマコトについ愚痴ってしまったのはナイショだ。
村長達は揃って固まっていた。喋る事も出来ないようだ。どうなってるのか
それを俺が治そうと思ったら、
何しに来たんだ、俺達は……
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