第82話 ヤーマーラで緊急招集の件

 国王と共に王都に向かった俺達三人は、国王に引き止められそうになったが、何とか躱して王都にある港町に来ていた。

 そう、魚目当てである。そして、食べた、飲んだ、また食べた。


 三人とも新鮮な魚介料理を堪能しまくって、更には無窮箱に大量に魚介を買い込んだ。誰かが伝えたのだろうか、活け締めがちゃんと出来ていたのも嬉しかった。そして、無謬で確認してみたらコッチの魚には寄生虫が居ない事も分かった。異世界サイコーだっ!!


 そんな感じで楽しく買い食いや買い物をしていたら、空に巨大な魔法陣が浮かび上がった。

 そして、


『全世界の冒険者に告ぐ! 緊急事態発生!! D級以上の冒険者は今すぐ最寄りの冒険者ギルドに集え! E級及びF級の者は町中にて国の兵士の指示に従い、住民の避難を手伝え! 繰り返す、全世界の冒険者に告ぐ! ……』


 そんな声が魔法陣から発せられた。


「何だ? アレ?」


 俺が不思議そうにサヤとマコトを見たら、二人とも顔を見合わせて俺に言う。


「トウジ、取り敢えずギルドに向かいましょう」


「行きながら説明するね」


 そう言って歩き出した二人に俺も付いていく。二人の話では、全世界の危機に際しての緊急招集魔法陣らしく、ギルドに行けば何があったか分かるらしい。そして、ランク指定があった(D級以上)から、かなり危険な状態だろうとも教えてくれた。

 何で、今なんだ。俺は少しだけ気分を落ち込ませた。このままの勢いで船を予約して違う大陸に行こうと考えていたのだが……


 そんな事を思っていたらギルドに着いてしまった。そして受付でサヤが名乗る。


「S級のサヤ、マコト、トウジよ。何があったの?」


 聞かれた受付嬢が、ホッとした顔で返事をした。


「良かった、S級の方も居られたんですね。サヤさん、実は封印されし神が封印を解いたみたいです。現在、これまで人を殺す事が無かった邪神達が魔物、魔獣を率いて人々が暮らす国々に侵攻を開始しているようです。ヤーマーラにも海から連絡を信じるのなら、凡そ三十万と言う大軍が攻めてきているそうです。国軍とも協力してコレを退ける必要があります。暫くアチラでお待ちいただけますか? 今のところサヤさん達が一番上のランクになりますから、ギルマスから直接話がある筈です」


「そう、分かった。アッチで待機しておくわ」


 サヤが話を終えてシートに向かった。座って待つこと凡そ五分、俺達の元に一人の男がやって来た。


「待たせてすまない。俺がギルマスのガーゼスだ。そして、早速で悪いが港の方で国の魔法騎兵団が三人を待っているそうだ。そちらに向かって彼らと一緒に防衛を頼めるか?」


 それにマコトが返事をした。


「海側ばかりを警戒しているようだけど、陸路は大丈夫なの?」


「ああ、陸路からは精々八千〜一万ぐらいしか攻めてきてないから、騎士団と残りの冒険者達で何とかなる。だが、海からは……」


「分かった、直ぐに向かうわ。トウジ、お願い」


 俺はマコトに言われて無空間を使用した。目の前で消えた俺達にビックリしたギルマスが一言呟いたのが聞こえた。


「いくら剣風と破壊の魔女でも三十万はキツイかも知れんな……」


 俺はまだまだ無名だ…… いや、拗ねてないよ。無職だし、無名でも良いんだ…… 止めよう、虚しい気持ちになって来た。


 魔法騎兵団の居場所は直ぐに分かった。そして、マコトの姿を見た騎兵団員が左右に別れて道を開けた。


あねさん、来てくれたんですね! 団長が待ってます。今回はよろしくお願いします!!」


あねさんは止めてよね! カイレンは奥に居るのね。皆、修行は続けていた? 派手なのをブチかますわよ!」


「はい! あねさん!!」


 そのやり取りに顔を見合わす俺とサヤ。


「なあ、マコトってこの国では有名人?」


「うん、みたいだね。かなり知り合いが多いようだし」


 そして、一人の男の前で立ち止まるマコト。


「カイレン、来たわよ! 久しぶりね」


 マコトの挨拶にニッコリ笑ったそのイケメンな男が返事をした。


「ヤダー! ホントにマコトちゃん!? お久しぶりーっ! 元気してた? もうホントにヤになっちゃうわよねー。私が団長の時に封印が解けるなんて! 聞いてないわよーって感じ!」


 オ、オネエさんでしたか。男の俺から見てもすんごい男前だけど。


「それでそれで! マコトちゃん、コチラのお二人はどなた? 紹介してよー。特にコチラの渋い男性を!」


「もう、手を出したらダメよ、カイレン。コチラは私の従妹のサヤで、コチラは私とサヤの旦那様でトウジよ」


「ええっ! 契を結んだのー、マコトちゃん。それに従妹さんも一緒にだなんて。何て凄い甲斐性かしら。ねえ、私もどうかしら? トウジさん?」


 うん、その【ケ】は俺には一切ないから丁寧にお断りしようと思う。


「あらー、ダメなのー? ちょっとだけ試してみない? 新たな世界を見せてあげるのだけど」


 いえ、遠慮しておきます。新たな世界は俺には必要が無いので。


 勿論、俺は全て無言でお断りした。この手のオネエさんはコチラの言葉を自分の都合の良いように聞く人が多いから。それにサヤとマコトが俺と腕を組んでくれたから、お断りの意思はハッキリ伝わったと思う。


「残念だわー。私の好みドンピシャなのに」


「それよりも、カイレン。防衛はどうなってるの? 随分と余裕があるようだけど」


「フフフ、良くぞ聞いてくれました。マコトちゃん、私達も少しは進歩したのよ。実は魔道具開発局と協力して、結界を作る魔道具を開発済みなの。A級の魔物が来てもビクともしない結界を既に構築したから、今からその結界の前に出て、向かってくるバカ達を撃ちまくってやるわ! でも先ずはマコトちゃんにド派手にカマして欲しいわっ!」


 カマだけに…… って思ったけど黙っておこう。


「分かった。口火は私がきるわ」


「よろしくね。それじゃあ移動しましょう。コッチよ」


 俺達はオネエさんに付いていった。俺達よりも先に陣取っていた魔法騎兵団が、団長が来たと言って道を開ける。


「モール、様子はどうかしら?」


「はい、団長。五キロほど前に先頭が迫ってきております」


「そう、有難う。それじゃ、先頭が目視出来る様になったら教えてちょうだい」


「了解しました!」


 その時、無謬で見ていた俺は水中深くから迫って来ている魔物を捉えたので、皆に警戒を促した。


「来るぞ! 構えろ!」


 俺の言葉に何をバカなと言うような顔をするモール。


「敵はまだまだ先に居ます。まだ来てませんよ」


 その言葉の後に海が割れて、海竜が五頭その姿を現した。


「なっ、なっ! バカな! 僕が補足出来ないなんて!」


「言ってる場合か、下がれ!」


 俺はモールの前に出て海竜と対峙したが、ソコでマコトが


「トウジ、私がやるわ! 【爆雷光バイグレーム】!!」


 そう言って魔法を解き放った。マコトの魔法が五頭に炸裂したと思ったら、五頭とも呆気なく死んでしまった。カイレンが呆気にとられながら言う。


「マコトちゃん、海竜ってね、S級なの。何? 今の瞬殺は…… コレは私達の出番は無いかもねぇ……」


「カイレン、バカな事を言ってないで皆に警戒を促して! 他にも知れずに迫って来ている可能性があるんだから」


「それもそうね。私が悪かったわ。総員警戒態勢をとってちょうだい!! 索敵範囲を広げて! 気配察知だけじゃなく、魔力感知も併用するのよ!!」


「了解!!」


 アチコチから返事が上がる。けれど俺の無謬では近くにはもう何も居ない。四キロ先に大軍が迫ってきたけどね。まあ、警戒しておくのも悪くないから、黙っておくけど。


「それにしてもトウジさん、凄いわぁ。益々、惚れちゃった。やっぱりどう? 試してみない?」


 丁重にお断り致します。ソレよりもほら、モール君が自信喪失してますよ。上官としてちゃんと対処してあげて下さい。


「あらー、モール。いつまでも落ち込んでたらダメよー。さあ! 早く正気に戻らないと、キスしちゃうわよ!」


「自分は既に大丈夫でありますっ!!」


 飛び下がる勢いで姿勢を正すモール君。うんうん、君もノーマルなんだね。良かったよ。


 そして、残り一キロをきった頃に先頭が見えてきた。マコトが魔力を練り上げて叫んだ。


「さあ、いくわよ! 皆! 私の後に続いてね! 【豪雷巨烈炎グランスタード】!!」


 そして、敵は消え去った…… シーンとした空間が辺りを支配する。

 マコトさんや、まさか一掃するとはお釈迦様でもご存知ないかと……


「ア、アレ? 居なくなったね? ど、どうしてかな?」


「ふうー…… マコトちゃん、お疲れ様でした。結界は維持して、私達も半分を待機させて警戒に当たる事にするわ。それぐらいは仕事しないと、国からお金を貰えないもの…… 兎に角、有難う」


 カイレンの言葉にギルドに戻る事にした俺達。うん、まあ誰も怪我しなかったんだし、良しとしよう。


「マコト、凄いな。これなら封印が解けた神様でも瞬殺じゃないか?」


 俺がそう言うと、サヤも


「私の出番なんて無かった。マコトの魔法は神級だね」


 とマコトを褒める。それに照れるマコトだが、俺達は気がつけば白い空間に居た。


 んっ! 俺が気が付かないなんて!


 俺は辺りを警戒しながら見回した。そして、気がついた。


無の男神オノミ有の女神メノミ! 」


「やあ、暫くぶりだね。実は君達にお願いがあってさ」


「それで急遽、ここに来て貰ったの。ゴメンね、突然で」


 どうやら、二柱の神様の空間に呼ばれたようだ。





 

 



 

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