第30話 エーメイさんの件
何とか誤魔化し、皆で移動する。
エーメイさんがいる場所は魔境の洞窟がある魔境の森の奥らしく、A級冒険者でもソロでは入らないぐらいヤバい場所らしい。
俺は途中でナッツンやこの場に居ない人に通信を入れて状況を知らせた。
『ほほー! エーメイさんの居場所が分かりましたか。それで今から行かれると。分かりました、ゴルドーさんはエーメイさんの所に行くようになるのですね』
『ああ、どうやら魔境の洞窟がある魔境の森らしい。しかし、生半可な者には行けない場所らしくてな。俺のスキルをフルコースで皆にかけてあるから、誰にも気付かれないとは思う』
『それでも、お気をつけて。魔境の洞窟は森の始まり近くにあるのですが、森の奥には危険な魔物も多いので』
『分かった、気をつけるよ』
『トウジさん、お土産よろしくね』
いや、アカネさん買い物に行く訳じゃないから土産は無理です。ゴメンなさい。
『先生、僕とフィオナも合流しても良いですか?フィオナがジッとしてるのに飽きたようなので』
『私じゃないでしょ! ユウヤが私に飽きたのよね!』
オイお二人さん、通信使って痴話喧嘩は止めてくれ。俺は来たければ来れば良いと言って、南門に来るように伝えた。
通信を切って俺は先を行くテリャーさんに聞いた。
「どうやってエーメイさんを見つけたんですか?」
「ああ、実は魔境の森から出てくる魔物が以前より少なくなっていて、不審に思ったので調査隊を派遣したんだ。そこで、エーメイ様からこのツキミが接触を受けてな。
ああ、私達マクド王子の近衛騎士四人は全員がエーメイ様の部下だったんだ。それで接触してくれたんだと思う。エーメイ様は森の奥に隠れて、魔物の間引きを行っておられたようだ」
なるほど。強いとは聞いていたが、森の奥でも対処出来る程の人なんだな。
そうして話ながら歩いていると南門が見えてきた。俺達は気付かれる事もなく門を通過した。
そこでユウヤとフィオナを待っていると、いちゃラブしながら二人が現れた。さっきの喧嘩は何だったんだ······
「皆さん、お待たせしました。スミマセン」
ユウヤがそう挨拶するのを目を見開いて見るゴルドーさんと騎士達。
「え、英雄ユウヤ殿! セレナ王女殿下!」
テリャーさんがそう言って片膝をついた。いや、今から移動するんだから止めてー。
「テリャー、久しぶりね。今の私はユウヤの妻で冒険者フィオナよ。そのつもりで接してちょうだい」
「し、しかしそれは······」
フィオナはそう言うテリャーさんを説得してしまった。マクド君が王になったらまた待遇は変わるだろうけどね。それまでは良いんじゃないかと俺は思う。
「さあ、足を止めてしまったわね。行きましょう」
フィオナがそう言って皆を促した。うむ、さすが王族だ。自分の所為だがそう感じさせない辺りが。だが、俺は広い心でその胸に免じて許そう。
いや、サヤにマコトってスキルに読心術でもあるのだろうか······· そんなに睨まないで~。
気を取り直して皆で進み、魔境の森の入口に着いた。門から歩いて一時間程だった。意外に近いな。こりゃ、魔物が氾濫したら町はヤバいよな。
入口から森に入り二十分程歩いた場所に洞窟があった。ここはまだ、森の端らしい。魔境の森はとても大きく、エーメイさんがいる場所はここから更に三時間は歩くらしい。俺達は良いがゴルドーさんは大丈夫なのだろうか?
「ゴルドーさん、疲れてませんか?」
「ふんっ! トウジよ、俺を年より扱いするな! 若いころは自分で素材採集するために冒険者登録もしておったんだ。これでもB級だったわい!」
おお、お見それしました。なら、身体強化なんかも使えるのかな? 大丈夫ならそれで良いか。
それから俺達は黙々と歩き、途中にすれ違う魔物をケンジさんやサヤ、マコトに教えてもらいながら奥へと進んだ。
ツキミさんは
そして、そこは唐突に現れた。
木々が凡そ二百メートル四方で取り払われて、壁になっている場所。ここを一人で作ったのか!?
エーメイさん、大工スキル持ちか!?
壁になっている場所から少し歩くと入口があり、中に入った。家が二棟ある。
一軒の前に五十代と見える男性がいて、見えない感じない筈だが俺達の方を見ていた。
男性が口を開く。
「隠れて訪れるとは何者だ! ここにいるのは無害な年寄りだぞ! さっさとここから立ち去れ! それとも、国王からの刺客か! ならば、全員切り捨てる!」
ありゃー? 気付かれてるよ! 何でだ!
俺はびっくりしているが、取り敢えず全員にかけていたフルコースを解除した。
エルさんが一番に口を開いて男性に呼び掛けた。
「お
すると、エルさんを見た男性の厳めしい顔付きが嘘だろっ!って言うぐらいに緩んで声を出した。
「おおーー! エルちゃんじゃー! よう来たのー! さあさあ、そんな所にいないで、ワシにちゃんと顔を見せてくれい! 子供は出来たか? 何、まだかいな。 ああ、そんなに悲しい顔をせんでくれ! エルちゃんは何も悪くないぞ! 悪いのはエイダスじゃ! あやつが確りしていれば良いのに、エルちゃんには迷惑をかけるのー!」
マシンガントークが炸裂して、エイダスに発射された。撃たれたエイダスはコメカミをヒクヒクさせている。
これか、エイダスが言っていたのは。そこまで考えた時にエーメイさんがこちらを見た。
「何と、セレちゃん! セレちゃんまで会いに来てくれたのか! くぅー、今日は幸運日じゃな! そこに多くいるむさ苦しい男どもはどうでも良いが、他に二人も別嬪さんがおる! これはもう神がワシにくれた幸せじゃなぁ!」
「久しぶりね、エーメイ。貴方が居なくなったから私の剣術が進歩しなかったわ。また、指導してくれる?」
フィオナの返事に相好を崩すエーメイさん。
うん、分かった。この人只の女好きだ······
しかし、ツキミさんだって女性なのに、入ってないな? 可愛い顔立ちをしているが。
俺がそんな風に思っていたら、ゴルドーさんがエーメイさんに声をかけた。
「オイこら、エーメイ! むさ苦しいは否定せんが、俺にも挨拶ぐらいあってもエエじゃろうが!」
「ふん! 何でワシがお前に挨拶する必要があるんじゃ! ゴルドーよ、大方町に居られなくなってここに逃げて来たんじゃろうが!」
「むぐっ! そ、それはそうじゃが、お前のぶら下げている剣は破格値で俺が作ってやった逸品じゃろうが!」
「ああーー、イヤだイヤだ。人間は年を取ると昔の事を持ち出して恩着せがましくなるのー」
エーメイさんがそう言った時にエルさんが喋った。
「お
そう言ってエルさんが悲しそうな顔をするとエーメイさんは慌てて、
「イヤイヤ、エルちゃん! 迷惑なんかじゃないぞ! ちょうどワシも新しい武器や防具が欲しかったからな! ちゃんとワシの所でゴルドーの面倒をみるぞ! 安心して任せなさい!」
そう言ってエルさんを喜ばせた。
こ、この変り身の早さ! 男性陣のあきれた顔は無視して、エーメイさんが言う。
「さあ、こっちは誰も居ないから好きに使え! 鍛冶が出来るように石壁、石床の部屋もある」
それを聞いて疑問に思う俺。
まるでゴルドーさんが来ることを予測してたような感じだな。すると、ゴルドーさんが俺の不思議そうな顔を見て教えてくれた。
「あいつはな、口は悪いが仲間思いでな。若い頃にあいつが騎士になる前に一緒にパーティーを組んでおったのじゃ。それからの腐れ縁じゃから、先程のはじゃれあいよ」
そう聞いて、俺は只の女好きの認識を少しだけ改める事にした。少しなのは、俺のサヤとマコトにも馴れ馴れしく話しかけているからだが。
「しかし、珍しいスキルじゃの。ワシでなければ誰も見抜けないだろうな」
あっ、ソレだ! 何で分かったのか教えてもらわなければ。
「何故、俺達がいる事が分かったんですか? 今まで誰にも気付かれた事はないのですが」
俺がそう聞くと、エーメイさんはサヤとマコトを見ながら言った。
「ふんっ! 誰がリア充に教えてやるか! 自分で考えろっ!」
っ! このオッサン······ エイダスの親父じゃなかったら殴っていたぞ!
そこでサヤとマコトからフォローが入る。
「「私達も知りたいです。教えてもらえませんか?」」
「おおー! 嬢ちゃん達には教えてやろう。ささ、ツキミよ、女性方を家に御案内せい! お前ら男はあっちでゴルドーの世話でもしておれ! こっちには入るなよ!」
そう言われて悔しがりながらも、俺達は取り敢えず従った。
チクショー!後で見てろよ!
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