第14話 山に異変がある件


 山に入ったら懐かしい気分になってしまった。

 ガキの頃は良く祖父さんに連れられて、山に遊びに行ってたからだ。

 しかし、そんな感傷には少ししか浸れなかった。



「トウジ、何か変だわ!?」


 サヤが緊迫した声で俺に言う。


「ん? 何が変なんだ?」


 俺が聞くと、


「前にこの山に入った時には鳥の鳴き声や、他の魔物や動物の気配があったわ!でも、今はその全てがないの!」


 そう聞いて俺は祖父さんに教わった事を思い出した。


「えっと、サヤ。これは地球の山の場合の話なんだが、とても強い獣が数多くいると、補食されないように弱い獣はその山から逃げ出すそうだ。鳥もまた、いつもいる獣の気配がない山には近づかないらしい」


 俺がそう言うと、サヤは思い当たる事があったのか、静かに言った。


「今なら見つかってないから間に合うわ。トウジ、山を降りてギルドに報告しましょう。私達二人で対処するのは難しいわ」


 それを聞いた俺は、少し遅かったかと気がついた。

 数メートル離れた木の影に俺達二人を見ている視線を見つけたからだ。


「サヤ、残念だけど少し遅かったようだ。あそこで隠れて俺達を見ているクマがいる。あれが暴力ベアーだな?」


 俺がそう言うとサヤもそちらを確認して、言った。


「そうね、少し遅かったみたい。ご免なさい、気が付くのが遅れて。恐らくこの山に上位種が出たんだわ。それで、バラバラだった群れをまとめて支配しているの。あそこに隠れているのは、見張りで私達は既に群れに見つかっているわ」


 そこまで聞いて俺は無造作に隠れている暴力ベアーに近づいた。

 近づいてくる俺を見て威嚇してくるが、そのまま俺は歩いていき、振り下ろされる前足を避けて刀をふった。

 暴力ベアーは首と、両腕を斬られた事に気づく事なく絶命した。


 そのまま俺は腹を切り開いて肝臓を取り出す。


「トウジ、今なら逃げれるかも! 早く山を降りましょう!」


 サヤはそう言うが、俺は

 

「サヤ、大丈夫だ。俺を信じてくれるか? 出来れば上位種の肝臓も手に入れよう」


 そう言って山を更に登る事を提案する。


「トウジ、何を言ってるの?この大きな山に散っていた暴力ベアーが上位種にまとめられてるって事は百頭単位で組織化されてるわ! スライムじゃないから、いくらトウジでも無理よ!」


 慌てて俺にそう言うサヤだが、俺には考えがあった。


「サヤ、クマは鼻と耳で獲物を探す。特に鼻だな。それは魔物になっても変わらないと思うが、どうだ?」


「確かにそうだけど······」


「じゃあ、今から俺とサヤに無音と無臭をかけるよ。それで、周りに注意しながらもう少し山を登ってみよう」


 俺の覚悟が分かったのか、渋々了承するサヤ。

 俺としては、山の異変の詳細を掴んでからギルドに報告出来たらと考えていたのだ。

 実は肝臓はついでだ。


 そして、俺達二人は山を登り始めたが、暴力ベアーは面白いように俺達に気がつかない。

 

 既に八頭のベアーの肝臓を手に入れた俺達。


 そして、山の中腹で木がなぎ倒されて、広場の様になった場所で遂に上位種を見つけた。


 強暴ベアーだとサヤに教えてもらった。二本足で立ち上がった姿は凡そ五メートル。強暴ベアーの前にはざっと数えて、凡そ八十頭の暴力ベアーがいた。

 それを確認した俺はサヤに山を降りて報告に行こうと言った。


 サヤも黙って頷く。

 俺達はその場から気づかれる事なく、下山する事が出来た。


 門を通って町に入った瞬間にサヤが

 ハアーーーと大きく息を吐いた。


「生きた心地がしなかったよー。怖かったんだからね、トウジ!!」


 少しだけ怒ったサヤもまた可愛い。

 急いでいた所為で少し上気した頬、潤んだ瞳。ツンとした鼻筋。プルンとした唇。俺は抱き締めてキスしたい衝動を必死に堪えて言った。


「ゴメンよ。どうせなら詳しい報告をした方がギルドの対処もしやすいだろうと思ってさ」


 俺は素直にサヤに謝った。


「むぅー、もう良いよ。でも次からはもう少し慎重に行動しようね」


「ああ、分かったよ。それじゃあ、肝臓をギルドに納品するのとゼムさんに報告に行こう」


 


 冒険者ギルドに入った俺達は、依頼達成を伝えて、八つの肝臓を差し出して報酬を受け取った。

 そのまま、受付の人にゼムさんに取り次いで貰う。


 案内されてギルドマスターの部屋に入った俺達は、山の異変をゼムさんに報告した。


「うーん······、信じたいんですけど、怪我ひとつ負わずに調べられる内容じゃないんですよね~······ それに、八つも肝臓を取って来られてますよね?」


 どうやらゼムさんは俺達二人の報告を信じられないようだ。

 そこで俺はスキルを一つだけゼムさんに教える事にした。


「ゼムさん、今からゼムさんに俺のスキルをかけます。数秒で解除しますから、慌てないで下さいね」


 そう言ってゼムさんに無音をかけた。

 おー、慌ててる、慌ててる。(笑)


 数秒で解除してあげたら、ゼムさんが興奮していた。


「な、何ですか!? このスキルは? 一切の音が聞こえなくなって、結界の類いかと思って解除魔法を唱えても発動しないし!」


「俺のスキルの一つです。これは味方にかけた場合には効果が違います。今のは敵にかけた場合の効果です。これともう一つのスキルを組み合わせて、無事でした」


 俺の言葉に納得するゼムさん。

 そして、ゼムさんから驚きの返事が


「うん、これはギルドだけだと負傷者や死者が出そうだから、国にも力を借りる事にします。ナッツン宰相に言って、五人の勇者の力を借りましょう」


「「えっ!?」」


「え? 何かおかしな事を言いましたか?」


「いや、別に。但し、あの五人が来るなら俺は参加

出来ませんよ。俺を役立たずと考えてますから、案内しても従って貰えないと思います」


 俺がそう言うと、


「案内は城の兵士が行うでしょうから、大丈夫ですよ。」

 

 とゼムさんが言う。


 どうやら勇者を召喚した事を他国に知られない為に、極秘扱いなので冒険者達と一緒に行動する事は絶対にないらしい。


 だから、ギルドとしてはC級以上の志願者を募り、勇者達が討ち漏らして町方面に逃げてきた個体に対処するだけに留めるとの事。志願してくれた冒険者には、国の兵士が山狩りを行うと説明するらしい。


 それならばと、俺とサヤも参加する事にした。


 早速、宰相に連絡する為に部屋にある通信の魔道具に手を伸ばすゼムさん。

 出ていけと言われなかったので、何となくその場に残る俺達。


 そして、通信が繋がり懐かしい笑い声が聞こえた。


「キヒヒヒ、どうしました? ゼムさん」


 ゼムさんは俺達の報告をそのまま伝えて、勇者達の出動を要請した。


「キヒヒヒ、分かりました。それでは、明日の七つの時刻に兵士と勇者達に山に入らせます。ギルドは志願者を連れて、八つの時刻までに麓で警戒をお願いしますね」


「はい、分かりました。よろしくお願いします」

 

 ゼムさんがそう言って通信を切ろうとしたら、


「キヒヒヒ、トウジさんはそこにいますか?」


 と、宰相から聞かれたので俺は返事をした。


「ああ、ここに居るよ。有り難う、あんたのお陰で何とか生活出来ているよ。それと、サヤと契りを結ぶ事が出来たのもあんたのお陰だ」


 俺がそう言うと、

 

「キヒヒヒ、礼は要りませんよ。それより、トウジさん、サヤさん、おめでとうございます。末長くお幸せに。それでは、準備がありますから私はこれで失礼します」


 そう言って通信は切れた。


 ゼムさんは立ち上がり、

 

「さあ、私も志願者を募ります。お二人は悪いですが、明日七つにはギルドまで来て貰えますか?」


 俺とサヤは了承して、ギルドを出て宿に帰った。

 部屋に帰った俺はサヤにレベルが上がった事を告げて、ステータスを確認した。


 そこには、トンデモスキルが増えていた!

 

 


 

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