第3話 教えられた秘密の件

 俺のステータスを見て何かを感じたのだろう。

 エイダスさんの一言目は、


「こ、これは······」


 で、エルさんは、


「スキル無しって······」


 そう言って黙り込む二人に俺は聞いた。


「やっぱり、ダメですかね······」


 そう聞く俺に慌てて否定する二人。


「い、いやダメじゃないぞ。

初期能力値は異世界人にしては低いが、この世界の初心冒険者よりは高いからな。

しかし、無職って······」


「ダメじゃあないんですけど、スキルが無いって人を初めて見たのでビックリしました。

この世界では、何かしらスキルがあるのが当たり前だと聞いていたので······」


 そう言って俺を見る二人は困惑した目をしていた。


 その時に思い出したかの様にエルさんが言う。


「そうだ、トウジさん。

一度、『ステータス』とだけ言ってみて貰えますか?」


 エルさんに言われて素直に俺は言う。


「ステータス」


 すると、先程唱えたオープン画面の隣に同じような画面が現れた。エルさんが言う。


「オープンと言わずに表示されるのは、人には見えないステータス画面なんです。

どうですか? 見比べて何かしら違いはないですか?」


 言われた俺はじっくりと自分のステータスを見比べてみた。すると、


 名前:トウジ

 性別:男

 年齢:三十二

 職業:【無職】神級職

 レベル:1

 生命力:80 魔法力:50

 体力:50  魔力:30  器用:80  敏捷:100

 攻撃力:50(武器無し)

 防御力:40(防具無し)

 スキル:【

 無音むおん:

  自身や対象者が発するあらゆる音を消す

  

 無毒むどく:

  自身や対象者の毒を消す

  

 無臭むしゅう:

  自身や対象者の匂いを消す


 何と、職業:無職に【】がついて、その横に神級職との表示が増え、スキルも無しではなく、同じく【】がついて、だと表示されている。

 そして、三つの能力が説明と共に書かれていた。


 俺が驚いた顔をしていると、エルさんが満面の笑みで言った。


「良かった、トウジさんも隠れ上級職だったんですね!」


 エルさんの言葉を聞いて、エイダスさんが言った。


「何っ! サヤに続いてトウジもそうなのか!?」


 俺は訳が分からずに素直にエルさんに尋ねた。


「えっと、隠れ上級職って何ですか?」


「隠れ上級職は、成長して悪用すると、国一つ位は簡単に滅ぼす事が出来る職業です。

トウジさんの前に城から追放されて、今はB級冒険者として活躍しているサヤちゃんも、隠れ上級職でした。

これは、オープン画面では表示されずに、自分だけで見た画面にしか表示されませんから、黙っておくのが良いです。

表に出てる優秀職業なんかよりも、遥かに強い力を手に出来る職業が殆どらしいです。

この話は、神殿関係者から伝説として民草に語り継がれていて、信じている人は少ないけど、私達はサヤちゃんのステータスを教えてもらって、確信しています」


 そう言ってエルさんは俺を見た。


「私とエイダスは、絶対に他には漏らしませんから、良かったらトウジさんにしか表示されてないステータスを教えてくれませんか?」


 俺は少しだけ考えて、了承して表示されている項目を二人に教えた。


「し、神級職しんきゅうしょくだとっ!」


「スキル無しじゃなくて、だったなんてっ!!」


 二人はかなりビックリしている。そして、エイダスさんが言い出した。


「サヤには同じ立場の人がいたら、教えても構わないと言われているから言うが、サヤは職業:刀師とうしで、聖級職せいきゅうしょくだった。

刀師とは、この世界では鍛冶師を意味する職業なんだが、サヤは違っていて、刀を持てば切れない物はないというぐらいの腕だった。

個人表示に、柳華りゅうか流Lv.MAXがあって、エルによって分かったんだけどな」


 そして、エルさんが続いて言った。


「トウジさん、絶対に私達以外ではサヤちゃんにしかステータスは言ってはダメですよ! 

私にはトウジさんのスキルが恐ろしい力を秘めていると感じられます。

っ! そうだ、試しに今スキルを使用してみて下さい」


 エルさんにそう言われて俺は自分に無音を発動してみた。そして、音を立てようと拳で机を叩いてみる。


 結構な力で叩いたのだが、二人には何も聞こえてないようだ。俺が発する音が消えている。それを確認して、スキルを解除した。

 

 エルさんが俺に言う。


「トウジさん、生命力か魔法力の数値は減ってますか?」


 聞かれて確認してみたが、数値に変化はなかった。

 素直にそれを伝えると、


「自己の力を消費しないスキルなんて······」


 エルさんが呆然と言う。

 エイダスさんは、続いて言った。


「今のは自分に掛けたんだな? 次は俺に掛けてみてくれ」


 と言うので、俺はエイダスさんに無音をかけた。


 そして、動くエイダスさんだが、物音が一切しない。しかも、何かを喋っているようだが、それも聞こえない。

 が、エイダスさんの指先に小さな火が灯ったのを見て、エルさんが魔法詠唱をしたんだと教えてくれた。

 そこで俺はエイダスさんに掛けたスキルを解除した。エイダスさんは言う。


「今のは、俺を味方として認識して掛けたと思うが、俺を敵だと思って掛けてみてくれるか?」


 俺は苦労するかと思ったが、エイダスさんの強面が良い様に作用して、エイダスさんを敵だと認識して、無音を掛けた。


 エイダスさんの口が動いているが、今度は何も起こらなかった。そして、動きがおかしい。

 俺は急いでスキルを解除した。


「こっ、これは凄いぞ! トウジ! 

敵だと認識した相手に掛けると、魔法は発動しないし、音が一切聞こえなくなるんだ!」


 俺が思いも付かなかった事を、自身を使って検証してくれたエイダスさんに感謝した。


「エイダスさん、有り難うございます。

言われなければ、俺は思いもしなかった事でした」


 頭を下げて言うと、エイダスさんは言った。


「気にするなよ、トウジ。

俺は折角こちらに来て貰ったんだから、楽しく生活して欲しいと願っているだけだ。

さあ、これはサヤの時と同じ様に楽しみになったぞ。

エル、俺は明日は非番だから、トウジのレベル上げに行こうと思う。

エルはどうする?」


「そうね、あなた。

私も付き合いたいけど、先ずは何とかサヤちゃんに連絡をしてみるわ。

今、何処にいるかだけでも分かれば良いんだけど」


「おう、そうだな。サヤには教えてやらないとな」


 二人の会話を聞いて気になった俺は、もう一人の人物について聞いてみた。


「あの、エルさんとサヤさんの間に来られた方は、今どうされてるんでしょうか?」


 二人は苦笑いを浮かべて言った。


「トウジになら言っても良いか」

「そうね、トウジさんなら大丈夫かしら」


 意味深な二人の言葉に首を傾げる俺。


「最初に会ったと思うんだが、この国の宰相がそうだ」


「うえっ!?」


 思わず変な声で返事してしまった。


「ナッツンさんは、隠れ上級職ではなかったんだけど、この国に無理矢理こらされて、理不尽に追放される人をどうにか救いたいと考えて、

職業:怪盗のスキル、変装を使ってこの国の中枢で成り上がったの。

あの変な笑い方は元からのクセらしいわよ。

そして、秘密裏に夫に連絡がきて、夫がここに連れてくるって言う流れが出来たのよ」


 そう聞いて、俺は疑問点を思いだした。


「エルさんは、追放された時に金貨十枚だったんですよね? 

俺は金貨二枚しか渡されてないんですが、その差はなんなんですかね?」


 エルさんは楽しそうに笑う。


「ウフフフ、八枚はナッツンさんの懐に入ってるわ」


「ネコババしてるんですか!?」


「ううん、違うの。

ナッツンさんはその金貨を使って王城で味方を作っているのよ。主に下級職の人達ね。

メイドや門衛、一般兵士を味方にして夫が動きやすいようにしてくれてるの」


 俺は少し恥じて顔を赤らめた。


「事情も知らずにスミマセン」


「ハッハッハッ、気にするなよトウジ。

しかし、ナッツンの事を教えたら、サヤと同じ顔をしたな。そうだ、金貨の話が出たからエルに通貨について教えてもらえ」


「ああ、それはそうね。トウジさん、日本円に換算した大体の基準を教えるわ」


 そう言ってエルさんが教えてくれたのが、


 三角銅貨    十円

 銅貨      百円

 大銅貨     千円

 角銀貨     五千円

 丸銀貨     一万円

 大銀貨     五万円

 角金貨     十万円

 金貨      五十万円

 大金貨     百万円

 角白金貨    五百万円

 白金貨     一千万円

 大白金貨    五千万円


 だそうだ。俺は手元に百万円を持っていたらしい······。そして、金貨のままだと街で使いづらいので、エルさんが両替をしてくれた。


 銅貨~角金貨を取り混ぜて両替してくれたのだが、明らかに多い。返そうとするとエイダスさんが笑って言った。


「トウジ、何回も言うが気にするな。

生活が安定するまでは物要りも多い。無くては困るが、有って困らないのが、金だ。持っておけ。

さあ、宿屋へ案内しよう。明日は朝からレベル上げに行こう。

武器と防具は俺の行き付けの店で揃えよう」

 

 そう言って立ち上がったエイダスさんと、座ったままのエルさんに頭を下げて、エイダスさんについていった。



 

 


 



 

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