第24話 召喚の謎の件


 夕方までマッタリと過ごした俺達。

 風呂に男性陣と女性陣に別れて入り、しょうがないから、寝室はユウヤとフィオナに明け渡し、無音をかけてやった。


 俺は優しい男なんだ。


 俺とサヤ? 無色、無音、無臭、無視のフルコースで、誰にも見えない状態で官能を堪能して、そのまま二人でまた風呂に入ったよ。

 その後は居間でゆっくりと話をしたり、ステータスを確認して、何が出来るか考えながら過ごした。


 そうこうしている内に夕方近くなり、四人全員に無色だけかけてエルさんの店に移動する。


 エルさんの店は今日も【closed】になっているが、経営は大丈夫だろうか? と少し心配している。


 鍵がかかってなかったので、中に入って無色を解除した。

 鍵をかけた方が良いのだろうか? 分からないからそのままにしておくか。


「さあ着いた。奥にエルさんがいると思うから、行こう」


 俺達は店の奥の個室へと向かう。個室にはエイダスとナッツン、エルさんに見知らぬ青年が一人。

 その青年がフィオナを見て叫んだ。


「姉上!」


「マクド!」


 おう、関西で呼ばれている某ファーストフード店名が聞こえた。俺は何とか笑いを堪えて、微笑みを浮かべている。


 互いを呼びあった二人にナッツンが声をかけた。


「キヒヒヒ、まあお二人とも落ち着いてお座りください。積もる話は後でお願いします」


 そう言われて取り敢えず席についた俺達。

 どうやらマクド君は王子様らしいな。しかし、城では見かけなかったが?

 まあ、俺は直ぐに城から放り出された身だし、先の勇者の時には王族の居住区には行ってないからなぁ。


 そんな事を徒然と思っていたらエイダスが言った。


「先ずは乾杯しよう。英雄ユウヤとフィオナの復活を祝って!」


 酒が好きなエイダスは乾杯の理由を考えるのが上手い。俺も酒は好きだけどね。


 乾杯後にナッツンが口火を切った。


「トウジさん、サヤさん、今回は本当に有り難うございます。お陰様で、私も安心して宰相を続けていけますよ······ と言いたいところですが、実は今朝方に国王陛下に呼ばれまして、勇者を逃がした件の責任を取れと言われましてね。このままでは宰相を首になりそうなんです。まあ、マクド様が庇って下さって、首の皮一枚で繋がってますが······」


 ナッツンがそこまで語った後に青年が口を開いた。


「後から来られた方には挨拶がまだだったな。私はこの国の第二王子でマクドという。そこにおられるセレナ姉上の弟だ」


「はじめまして。俺はトウジです。隣が妻のサヤです」


 俺がそう言って頭を下げるのと同時にサヤも頭を下げた。夫婦の共同作業だな。······違うか。


「二人の話はナッツンから聞いている。今回はナッツンを助けてくれて有り難う。しかし、新たな問題が起こってしまった。皆の知恵を貸して欲しい」


 マクド王子がそう言った時にフィオナさんが、王子に聞く。


「待って、マクド。貴方が第二王子ってどういう事なの? 貴方は第一王子でしょう?」


「姉上、今の王妃が男子を産んだ。だから父上はその子を第一にして、私を第二とする事を発表された。今から三年前の話だ」


「そんな、お父様は一体どうなさったの? まるで別人のようだわ······」


 王女と王子の二人の会話を黙って聞いていたナッツンが、ここで驚くべき事を言った。


「キヒヒヒ、王女殿下。おっと、今だけはマクド様の手前、王女殿下と呼ばせて下さい。実はマクド様と色々と調べたのですが、今の国王は貴殿方のお父上だった方ではありません。


恐らくは魔神か邪神が成り代わっているようなのです。そしてあの王妃ですが、あの者も同じように人ではないですな。あの二人の間に産まれた第一王子もまた、人ならざる者でしょう」


 そこで王子が引き継ぐ。


「そして、姉上。あの召喚の儀だが、何故幾度も繰り返しているかと言うと、邪な考えを持ち、かつ力ある者を異世界より呼び寄せて、自分たちに都合の良い駒にしようと考えているらしい。あの二人がそう話していたのを聞いた侍女が教えてくれた。隠密スキルを持っていたので、見つからずに話を聞いて、私に報告してくれたんだ。報告時にはナッツンにも立ち会ってもらったから、間違いないと思っている」


「するとお父様はもう······」


「私とナッツンは、恐らくはもう殺されてしまっていると考えている」


「そう、そうでしょうね。けれどそれじゃあ、今この国は偽りの国王に支配されていると言う事なの!?」


 そこでエイダスが言った。


「いや、この国はナッツンが上手く回しているよ。どうも国王は細かい事は面倒らしくて、ナッツンが詳細に報告しようものなら、『お前に任す』で終わりだったらしい。ああ、口調が悪いのは許して下さい。宰相閣下に冒険者として接する様にと言われましたんでね······」


「気にしなくて良いわ。エイダス、貴方には幼い頃の借りもあるし」


「まだ覚えていたか! 俺はもう忘れたぞ」


 その話も気になるが、それよりも召喚について気になるので俺は王子に聞いた。


「奴らがそのつもりで召喚したと言う事は俺も邪な考えを持っていたって事になるんですかね?」


 自覚はないがそうなるのかと思い、確認してみた。

 王子様の返答は、

 

「いや、それは違う。奴らは邪な波動を拾ってその範囲にいる者をまとめて召喚しているらしい。そして、サヤくんが召喚された時には実はサヤくんと家族の他に、召喚された者が三名いた。その三名はサヤくん達が気がつく前に目が覚めて、別室にて話をしたようだ。実は彼らはサヤくんとサヤくんの姉を襲うつもりだったそうだよ。私がそれを聞いたのは、ナッツンからだが、ナッツンは特殊任務と称して彼らを初めて召喚した四名の元に送ったんだが、今どうしているのか把握出来ていない状態だ」


 何とも大事になってきたな······。

 あっもう一つ知りたい事があったんだ。


「知ってるか分かってるかなら、教えて欲しいんだが、城から放り出された俺の職業とスキルなんだが、一体どういうシステムなんだ? ああ、システムっていうか、誰が決めているのか分かってるのかって事だが······」


 俺はナッツンに聞いてみた。


「キヒヒヒ、実は国王に扮する者が邪な考えを持つ者には、あの者が優秀と考える職業とスキルを与え、そうじゃない者には良くないと思っている職業とスキルをランダムに出しているらしいです。サヤさんのご家族は予想外だった様ですが、トウジさんの時は腹を抱えて上手くいったと笑っていたそうです。何せ【無職】にスキル【無】でしたからね。


しかし、そこに別の力が介入していると私は考えております。トウジさん程ではないにせよ、役立たずと放り出された皆が今ではある程度の力を得ていますからね。職業とスキルによって······」


 うーん、確かにそうだな。

 フィオナが言ってた魔術師達以外の魔力は国王や王妃のだとして、他にも誰かが干渉している可能性があるのか。

 うん、俺には分からないから、聞いたけど考えるのは放棄しよう。それが、長生きの秘訣だ。


「取り敢えず、分かった。で、今後はどうするんだ? 国王夫婦にその子供をどうにかしなきゃダメなんだろう?」


「キヒヒヒ、考えるのを放棄しましたね。

 

確かにどうにかしたいのはヤマヤマなんですが、どれ程の力を持っているのか分からないので、躊躇しています。


しかし、出来れば早めにマクド王子に国王になってもらいたいのが実情ですね」


 ナッツンがそう言う。


「猶予はれくらいあるの? いえ、あると予想してるの?」


 エルさんが聞いた。


「私は四ヶ月程と見ている」


 とマクド王子。


「キヒヒヒ、私は多くて三ヶ月ですね」


 とナッツン。


 それを聞いてサヤが言う。


「私の家族が明日には来るし、それから二ヶ月を皆の訓練にあてて、レベルをあげてから国王達に挑むのはどうかな?」


 サヤがそう言うとマクド王子が言った。


「私一人では何も出来ない。だから、悪いが皆の力を貸して欲しい。この国をより良くする為に!」


 それを聞いたら、断りにくいんだよな~。

 俺はこの国でサヤと二人でのんびりアンナコトやコンナコトをしながら暮らしたいしなぁ······


「キヒヒヒ、私は微力ながらお手伝いしますよ。そして、他の皆も協力してくださると思います。明日、サヤさんのご家族が来たら再開する事にして、今日はお開きにしましょうか。他にご意見がある方はいますか?」


 そこでユウヤが言った。


「トウジ師範、無回流の指導を僕とフィオナにお願い出来ますか?」


 おおう! 唐突だな。構わないが、フィオナさんは魔法職じゃないのか?

 

「構わないが、フィオナさんは魔術師じゃないのか?」


 俺は聞いてみた。


「あら、私の職業は魔法剣士ですよ」


 格好エエ! 俺もなりたい! 【無職】よりも響きの良い職業に······


「分かった。それじゃ、明日から稽古をつけてやるよ。明日は六つには起きて大部屋に来るように」


「トウジ、私もやる!」


「トウジさん、私も行って良いかな?」


 サヤにエルさんも参加表明をした。


「俺は明日は仕事だからなぁ······」


 エイダスは残念そうだ。


「それじゃ、来れる人は来るって事で」


「「「「はい!」」」」 


 しかし、翌朝の稽古は実現しなかった。

 



 


 


 

 

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