第49話 出戻り姫の件
城から呼び出しがあり、俺とサヤとマコトは、のんびり歩いて城へと向かっていた。
途中、エイダスとエルに会い一緒に向かう事になった。
そして、ケンジさんとアカネさんにも出会い、俺達は揃って城へと向かった。
城にたどり着くと門衛達から歓迎されて、そのまま控えの部屋に案内される。そこにはゴルドーさんとチーズーさん、バーグさんもいた。
皆で歓談していると、ユウヤとフィオナが現れて言った。
「先生、僕は近衛騎士団長になってしまいました······」
断ろうとしたが、断りきれなかったそうだ。王女様を妻にするからだと思ったが、可哀想なので黙って肩を軽く叩いておいた。
頑張れ、ユウヤ。
そして二人に案内されて玉座の間に行く俺達。そこには玉座に座ったマクド君と左にナッツン、右に見知らぬ男が立って待っていた。
俺達はそれが誰か気づいていたが黙っていた。マクド君が俺達に声をかける。
「皆がこうして揃ってくれて嬉しい。今日は皆に前任の王からの謝罪と、私からの感謝の気持ちを渡したいと思って来てもらった。早速だが受け取ってくれ」
そう言って右を見たマクド君。右にいた男が動く。
「初めまして、皆さん。私は新たな国王マクド様の相談役で、カシューンと申します。お見知りおきを。さて、前任の国王陛下よりの謝罪金を皆様にお渡ししたいと思います。どうぞ、お受け取り下さい」
そういってカシューンが合図すると近衛騎士団長になったユウヤの指揮の元、六人の騎士が台車を押してきた。
「謝罪金としては些少でございますが、お一人様につき大白金貨一枚(五千万相当)相当の金額を使い安いように低額の通貨を交えてご用意しました。このような事で謝罪になるとは前任の国王陛下も思ってはおりませんが、どうかお納めください」
そう言われて素直に受け取る俺達。俺、サヤ、マコト、ケンジさん、アカネさん、エルの六人が受け取るとカシューンは驚くべき言葉を続けた。
「さて、皆様にお聞き致します。元の世界に帰りたい方はおられますか? 帰る方法がございますが。また、その場合にはこちらで過ごされた記憶は無くなってしまいます。何故なら時間軸として皆様が召喚に巻き込まれた時間に戻る事になるからです。それをご了承頂けるのであれば、元の世界にお返しする事が可能です」
その言葉に顔を見合わせる俺達だったが、誰一人帰りたいとは言い出さなかった。何故なら既にこちらで家族を得たからでもあるし、今さら帰ってもこちらの記憶が無くなるなら意味がないからだ。折角ここまで鍛えたのだから、それを無しにはしたくないしな。
それを見てカシューンは更に言葉を続けた。
「皆さんがどうやら帰る事を希望されてないようなので、先程の話は無しと言う事でお願いします。それでは、新たな国王陛下からの謝礼を皆さんお受け取り下さい」
そう言って下がったカシューンに代わりナッツンが前に出てきた。
「それでは、先ずは鍛冶職人ゴルドー殿とチーズー殿、バーグ殿、前へお越し下さい。はい、有り難うございます。では陛下、よろしくお願い致します」
「鍛冶職人ゴルドーと見習いとなったチーズーとバーグには町に工房を用意させてもらった。これからは王室御用達を名乗る事を許す。更に騎士は勿論のこと、兵士の装備についてもゴルドーの工房に任せる事になるので、これからは弟子を育てながら運営を頼みたい。それについてはナッツンより後程話がある故に話し合いを頼む。また、今回の件で作成された武器防具については王室より適正価格にて支払いを行うと共に、三人には一人白金貨一枚(一千万円相当)を謝礼として渡したいと思う。受けてくれるな?」
代表してゴルドーさんが答えた。
「謹んでお受け致します。また、過分な褒美を賜り驚いておりますが、これから工房を運営して更に国の発展に力を尽くしたい所存です」
「うむ、よろしく頼む。ではナッツンよ次は誰かな?」
「はい、次はケンジ殿、アカネ殿、前へ」
二人が前に出てきたが、ケンジさんが先制の一言をマクド王に言った。
「此度、我らよりも功績のある、エーメイ殿達には謝礼はないのですか?」
それを聞いたマクド王は微笑みながらケンジさんに言った。
「冒険者ケンジ殿。エーメイ達の事を気にかけて頂き有り難う。今回の件で我が姉の夫であるユウヤは近衛騎士団長に、エーメイには国の全ての騎士団を統括してもらう事になっている。ツキミやテリャーは勿論これからも騎士として国に仕えてもらう。よって、謝礼はケンジ殿達とは別に内々で既に贈らせてもらったのだ。すまない。先にそれを伝えておくべきであったな」
「いえ、私のほうこそ要らぬ事を申してしまいました。とうかお許しを······」
「許すも許さぬもない。ケンジ殿には戦いの基本も教えて頂いた。これからも教わりたい位なのだが、お二人は旅に出たいとの事。それ故に謝礼金はゴルドー達と同じであるが、私の名前で冒険者ギルドにS級への昇格を申請してある。恐らく一両日中に決まるであろう。S級なれば行けぬ場所はほぼ無くなるので、お二人にはちょうど良いかと思って勝手に推薦させてもらった。許せよ」
マクド王の言葉に感激した様子のケンジさんとアカネさん。声を震わせながら礼を述べた。
「陛下、私達二人は自由に生きる冒険者ではありますが、このゴルバード王国に有事ある時は何を置いても駆け付ける事をここに誓いましょう!」
「有り難う、心強い言葉を頂いた。お二人が駆け付けてくれるならば、大概の有事は事もなく収まろう。その言葉を胸に国を発展させるために私も頑張って行く事をここに誓おう!」
そう締めくくり、ナッツンを見るマクド王。
「では、次はエイダス殿、エル殿のお二人は前にお願いします」
緊張しながら前に出るエイダスと対照的に微笑みを浮かべながら前に出るエル。
「二人とも、大変に世話になったな。エイダスは私を遠慮会釈もなくケンジ殿とは違う視点を持って、鍛えてくれた。エルは王宮の料理人もかくやと言うような旨い料理を振る舞ってもらった。あの日々が今後の私に多大な救いとなる事は間違いない。惜しいがエイダスは冒険者になり、エルも店を閉めて着いて行くそうだな。これは私からの願いなのだが、半年に一度は城に来てエルの料理を振る舞って貰えないだろうか······ 出来れば二月に一度と言いたいが、ナッツンとカシューンに諌められたのでな······ どうだ? ダメか?」
エルが笑いながら返事をした。
「陛下、お望みであるならこの国にいる間はお呼び頂ければいつでも作りに参ります。勿論、国を出て、帰ってきた時には宰相閣下にご連絡致しますので、その時にもお呼び下さい」
「おお、聞いたか! ナッツン! これで私も気兼ねなく二人を城に呼んで料理を作って貰える! 有り難う。それと、謝礼金とは別にエルの店の土地はエイダス、エル夫妻の物となっているので、いつかこの国に落ち着く時は利用してほしい」
「はっ! 有り難き幸せにございます!」
エイダスがそう返事をして下がった。そして、ナッツンが俺達を呼んだ。
「それでは、最後にトウジ殿、サヤ殿、マコト殿は前にお願い致します」
そう言われ俺達が前に出ようとした時に、扉の向こうが騒がしくなった。
「ダ、ダメです。ミーナ様! 今は大事な客人をお迎えしている所ですので! アッ、扉を開けてはなりません!」
外から聞こえる声と裏腹に無情にも扉がバーンッと開いた。そこには年の頃はフィオナより二~三歳下に見える女性が立っていた。そして、開口一番。
「お兄様、ご即位おめでとうございます! 私、ミーナはヤーカーラ国王に離縁されましたので、戻って参りました! これから此方で過ごしますので、以前のように兄妹仲良くしましょうね! よろしくお願いしますわ!」
「ミーナ! 貴女は淑女の嗜みを忘れたの!」
フィオナがすかさずその女性を叱りつける。
「あら? お姉様、生きてらしたの! まあ、嬉しいわ。離縁されて良かったわ。お姉様にまでお会い出来るなんて思わなかったですもの!」
フィオナの叱りも何のそのなその女性は、そう言った後にキョトンとして、
「で、何の集まりですの? 舞踏会にしては女性がドレスを着てないようですけど······」
とトンチンカンな事を言ってのけたのだった。
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