第56話

 夏休みも残すところ今日のみとなってしまった。

 あっという間の約四十日間。その大半が勉強へと費やしていたため、特に楽しかったという思い出は何一つとして残っていない。

 だが、受験生たる者。遊んでいる場合ではない。

 って、厳密に言うと、俺はまだ受験生ではないんだけど。

 何はともあれ、来年に向けた対策をするに越したことはない。何度も言うが、早い奴なんて高校に入学してからもう意識しちゃってるからな。その出遅れた分をさっさと取り返さなくては……。

 などと考えつつ、キッチンの方で昼食の準備に取り掛かっていると、不意にインターホンが室内に鳴り響く。

 ――なんだ? 新聞か何かの勧誘か?

 俺ん家に訪ねてくる奴なんて限られている。このまま居住でもしておこうかと思っていたのだが、

(ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン!)

 うるせぇッ!

 まるで居ることがわかっているかのようにインターホンを鬼連打してきた。

 俺は仕方なく、玄関の方へと向かい、ドアを開けると、


「うぃすー」

「……どうしたの?」


 そこにいたのはノースリーブ姿のチッパイ・ホンダ……もとい本田さんだった。

 肩にはトートバッグがかけられ、日焼けでもしたのか、若干黒い。

 本田さんとは花火大会ぶりに会ったのだが、一体なんの用なのだろうか?


「宿題を手伝ってもらおうと思って、はるばるやって来た」


 はるばるって使うほど遠くないだろ……。


「そ、そうか。でも、宿題は本来自分でやるべきものだし、あいにく忙しいんだ」


 本田さんには悪いが、他人の宿題を手伝っている暇はない。

 昼食を摂った後は、また勉強の続きをしなくちゃいけないし、綾小路の対策だってある。今日は夏休み最終日ということもあって、二学期の準備やらで家庭教師のバイトは休みになっているが、やることは山ほどだ。


「お金ならある」


 そう言うなり、トートバッグの中から茶封筒を取り出す。


「いや、お金の問題じゃ――」

「五万円でどう?」


 黒くなった小さな手にはみんな大好き諭吉さんが五人握られていた。


「…………」

「今まで貯めてた一部。これで手伝ってくれない?」

「…………と、とりあえず中に入ろうか?」


 べ、別にお金で釣られたわけじゃないんだからねっ!

 本田さんにはこれまで何かとお世話になっているし。ほら、大雨でアパートが全壊してしまった時も今の部屋を見つけるまでの間、お世話になったわけだし……そうだ! これは恩返しの一環に過ぎない。借りを作ってしまった以上、返すのは義務だしな!


【あとがき】

 女の子の日焼け跡ってなんかいいよね?


 久しぶりに「ヘンティカンヘンタイ!」っていう我が尊敬している某作者様の挨拶を思い出した……

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