第9話【改稿済み】
平穏だった高校生活はどこへ行ってしまったのだろうか。
そうつくづく思わせるのが今のこの状況だ。
三、四限目の家庭科調理実習。
一班四人で形成され、全九班ある中でぼっちな俺はあぶれ者が集う一班へと配属されていた。
その中にはいかにも友だちが本と言い出しそうなショートボブでクールな子が一人いて、もう一人は頭のネジが吹っ飛んでいるのか、片目には眼帯をして、手には指抜きグローブが嵌められている。時折、意味もなく高笑いしているところがまた気持ち悪さを掻き立ててはいるが……。
そしてあともう一人。
俺はこいつのせいで周りから良い意味でも悪い意味でも注目を浴びていた。どういうつもりなのか知らんが、ずっと腕を絡めてきているし……。
「き、貴様ッ! お前だけは我の同胞だと思っていたというのにッ……色欲に毒されおって!」
厨二病がなんか言ってる。
そういや、こいつの名前なんだったけ?
「えーっと……」
「小田信成だ! よく体育の授業とかで二人組になる際に協力してやっているというのに我の名前を忘れるとは……これで何度目だ!」
「そ、そんなに忘れてたか?」
「忘れてるわ! もう入学当初から百回目だぞ!」
「おお〜! 記念すべき百回」
「何が記念すべきだ!」
小田は憤慨しながらもまな板に乗ったにんじんを手際よく切っていく。
――見た目に限らず、案外料理できんだな。
外見はヲタクそのものだが、料理ができる男子なんてそうそう滅多にいないぞ? 女子からしてみればポイント高いんじゃないか?
ちなみに今作っているのはオムライスである。
「それで、貴様と隣にいるあ、綾小路さんとの関係はなんぞや?」
女慣れしていないのか、小田は綾小路をちらっと一瞬見ただけでめちゃくちゃきょどっていた。
「ああ、綾小路はただの――」
「こ・い・び・と♡ でしょ?」
綾小路はウインクをかましながら、人差し指で俺の頬をぐりぐりとする。
ちょっ、綾小路さん? 爪が食い込んで痛いんですけど!?
ひとしきりぐりぐりが終わったところで俺は地味に痛む頬を片手で抑える。
周りからの視線(主に男子)がやけに鋭く不穏な空気が調理室全体に広がっていた。
それは例外なく目の前からもあり……
「き、きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃざまぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああッ!!!!」
血の滲む涙とはこのことを言うのだろうか?
ちょうど小田は玉ねぎをみじん切りにしているところだったのでそのせいだと思いたい。
一方でもう一人のメンバー……クールな本田茜さんはというと――え、読書してる?
マイペースにも調理実習には参加するつもりはないのだろう。椅子に座りながら読書を嗜んでいた。
少し個性が強いメンバーが揃った班ではあるが、上手くオムライスはできるだろうか? 調理実習には役割の分担といったチームワークも不可欠だ。ぼっちの俺が言うのもなんだかおかしな点ではあるが、協力し合ってこそ、調理実習の本来の目的は達成される。
さて、小田に全部一人でさせるわけにもいかない。俺も一人暮らしをしている過程で料理はそこそこ自信はある。残りのピーマンなどの食材を手に取ると、しっかりと水洗いした後にまな板の上で切っていく。
それにしても……
「お前、本当に邪魔だな!?」
「え、私?」
お前以外、一体誰がいるって言うんだよ。
綾小路はきょとんとした顔で小首を傾げてみせる。
美少女なだけあって、いちいちの仕草がさまになっていて悔しいがクソ可愛い!
「そんなにひっついてると上手く切れないだろ」
「そこは腕前でなんとかして」
「できるかッ!」
「できるわよ。あなたなら大丈夫。諦めたらそこでおしまいよっ!」
「なんで熱くなってんだよ……」
松◯修造を彷彿とさせるような発言に俺は思わずげんなりとする。
本当のところを言えば、綾小路がひっついているせいで周りからの無言の圧力がものすごいんだよなぁ。なんなら、作業に支障をきたすレベルで。
だが、そのことを綾小路に直接言おうものなら、なおさら攻めた行動をとって、からかってくるだろう。
なんて厄介な奴なんだよクソッ。
個性溢れるメンツ。このメンバーで上手くオムライスは作れるのだろうか? そもそも時間内に完成形までいけるのかしらん?
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