第8話【改稿済み】

 その日の夜。

 綾小路の家を出た後、俺は久しぶりに午後七時台の住宅地を歩いていた。

 自宅まで学校とは反対方向のため、通常の二倍くらいの距離はある。途中の自販機で買った缶コーヒーをちびちびと飲みつつ、家路を目指す。

 いつもなら静まり返って、どこか虚無感があるのだが、今日に限っては違う。どこかの家庭から聞こえる子どもたちのはしゃぎ声や笑い声などが微かに聞こえ、暖かな光が窓から溢れている。

 こんな気持ちになったのはいつぶりだろうか……。

 思わず家族の温かみが恋しくなってしまった。そんな自分に嫌気がさし、残り半分となったコーヒーを一気に仰ぐ。


「バカバカしい……」


 俺には家族という存在がいない。俺自身を愛してくれる人も大切にしてくれている人も唯一、叔父さん夫婦くらいだ。

 実家を飛び出して真っ先に助けてくれたのも叔父さん夫婦。当初は一緒に暮らそうと言ってはくれたが、そこまで迷惑をかけたくないという俺の意思を尊重して、今住んでいるアパートの賃貸保証人にはなってもらった。今のところそれ以外の援助というものはすべて断ってはいるが、叔父さん夫婦にはものすごく感謝している。


「はぁ……なんか嫌なことを思い出してしまったな。クソッ」


 制服のポケットに突っ込んでいた封筒をおもむろに取り出す。

 その中には今日のバイト代一万円が入っている。この一万円で何か美味いもんでも食べに行くか。

 嫌なこととか忘れたい時には美味いもんをたらふく食べるに決まっている。せっかく大金が入ったんだ。一日くらい贅沢してもバチは当たんないだろ……。

 そうと決まれば、さっそくマックにでも行くか!

 綾小路のことはその後からでも考えればいいことだしな!

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