第10話【改稿済み】
調理実習を終え、調理室はいつもの昼休みのような賑わいを見せていた。
各々のグループで作り上げたオムライスを食べながら、会話に花を咲かせている。高校生活がある程度充実している奴らからしてみれば、この調理実習というものもさぞ楽しい授業になっただろう。
だが、俺たちは違う。クラスのあぶれ者同士(綾小路を除く)が集まったグループではあまり会話などは生まれない。普段はぼっち同士ではあるけれど、滅多に会話もしないしな。
だいたいぼっちにもぼっちの種類というものがある。例えば、本田さんのように人見知りみたいな子もいれば、小田みたいな厨二病を拗らせた結果、クラスメイトから煙たがられているやつもいる。そして、俺はというとわざとクラスメイトと仲を取り持とうとしない。理由としてはただ単純に友だち付き合いというものが面倒臭いからだ。周りの反応や顔色を伺いながら、合わせていくなどクラスカースト上位でない限り、俺の立ち位置はそんなところだろう。そういうのって疲れない? みんなに合わせるのって。だから俺はぼっちで居続けている。ほ、本当だぞ? 友だちの作り方とかイマイチわからないから適当な理由をつけているとかじゃないんだからねっ!(ツンデレ風)
とにかくぼっちでの性格が違えば、調理実習などの団体行動的なことで打ち解けあうことはほぼない。淡々と出来上がったオムライスを食べ終え、片付けを進めて教室に帰るだけ……そう思っていたのだが、
「はい、あーん」
「……何してんのお前?」
オムライスを食べている最中、隣に座っていた綾小路がいきなりスプーンを口元へ近づけてきた。
「説明しなきゃわからないの? 恋人同士がやることをやっているだけよ?」
「当たり前なことを言わせないでみたいな顔をしているが、常識外れにも程があるだろ」
ましてや人前だぞ? こいつには“恥じらい“というものがないのか?
「恥じらいなんてないわ。だって、田代くんと私は“恋人“なんですから♡」
頬を赤く染め、照れる仕草を見せる綾小路。
なんで俺の思っていたことがわかったんだよとか相変わらずのアクターな件などいろいろとツッコミたいところはあったが、とりあえず今は溜飲を下げることにした。
「と、ともかく俺は食べないからな!」
そもそもそのスプーンで食べてしまったら間接キスになってしまうだろ……。
抜けているのか、抜けていないのか……そう考えると、急激に綾小路の唇を意識してしまい、顔が熱くなっていくのを感じる。女子の唇って、よくよく見るとぷるぷるしていて、艶やかなんだよなぁ。
そんな時にふと綾小路は俺の耳元に口を近づけ、
「(間接キスなんて私は気にしてないからほら、食べなって)」
悪魔の囁きとはこのことを言うのだろうか。
本人から了解を得ては仕方がない。ここは綾小路の思惑に乗ってやるか。
「はい、あーん」
「あ、あーん」
気がつけば、あらゆる方向から視線を感じていた。
主に男子たちからの鬼気迫るような視線と女子からのまるで恋愛ドラマを見ているかのような熱々な視線。俺は戸惑いつつもスプーン……じゃなくて、オムライスを口に頬張った。
「どう? 美味しい?」
「あ、味は同じだから変わらねーだろ……」
やはり人前でのあーんは恥ずかしい! 俺は綾小路の方を見ることができず、顔を明後日の方向へ背ける。
それにしても不思議だ。綾小路には同じと言ったが、なんの味もしない。まだ心臓の動悸は治る気配はなく、ドクドクと脈打っている。おそらくだが間接キスの方に意識を持っていかれたから味覚が少しおかしくなったのだと思う。自分で何を言っているのかわからないけど!
ようやく落ち着いたところで綾小路の方をちらっと見る。
――本当に気にしてないんだな……。
スプーンを変えることなく、そのままオムライスを食べていた。それはそれでなんだか凹むようなそうでもないような……複雑!
「何? またあーんしてほしいの?」
俺の視線に気がついた綾小路はニヤリと小悪魔めいた笑みを見せる。
そのせいでやっと動悸が治まったというのにまた心臓の鼓動が早くなっていく。
「俺の気も知らないで……」
綾小路は俺の反応を楽しそうに微笑みながら見ていた。
一方で俺たちのやりとりを目の前にしていた同じ班のメンバーはというと……
「キィぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
どこかの宇宙の帝王のような叫び声をあげながら、スプーンをこれでもかという力で噛んでいる小田。
「……」
その隣ではまるで別空間にでもいるんじゃないかと思わせるくらい無関心でオムライスをはむはむと食べている本田さん。なんかハムスターみたいで可愛いな。
今回の調理実習ではいろいろとあったが、まぁ……大とまではいかなくても成功と言っていいのではないだろうか。うん、たぶん……。
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