第48話

 争いの場面をよく見ていなかったからわからないが、どうやら美少女二人の戦いは綾小路の勝利という形で幕を閉じたらしい。

 由比ヶ浜を去る際に本田さんが恨めしそうな目でじぃ〜っと見つめていたが……俺にどうしろと?

 一応、綾小路の雇われでもある身だから、下手に逆らうこともできないんだよ……。わかってもらいたい気持ちはあるが、変に口外はできない。

 ひとまずこの件は置いといて、昼食を摂り終えた午後からは別荘となった。

 デートと聞いていたから鎌倉の街でも観光したりするのだろうかと勝手ながら予想していたのだが、


「おうちデートっていうのもなかなかいいわね〜」

「別荘だけどな」


 リビングのソファーにて、なぜか俺の膝に頭を置いたまま仰向けになっている綾小路。

 服装は朝のサメとは違って、白のインナーワンピースを着用している。

 あの……綾小路さん? ちょっといろいろと攻めすぎじゃないですかね?

 だいたい、なんで膝枕をしてやらなくちゃいけないのかわからないし、この状況が理解できない。

 今日の朝から、妙に綾小路の様子がおかしいが、本当に何があったの? 普通に心配なんですけど。

 何はともあれ、鎌倉の日差しがめいいっぱい窓から差し込んだリビングはクーラーが効いていて、とても過ごしやすい。

 海とはまた違うのんびりとした空気が少しずつ流れていた。

 ちなみに林田さんはというと、午後から用事があるということで別荘を空けている。


「ねぇ、裕太くん」

「あ?」


 ぶっきらぼうに応えてやると、綾小路は視線がぶつかった瞬間に顔を逸らしてしまう。

 頬はほんのりと赤く染まっており、何か言いたげな表情である事はすぐにわかった。

 だが、


「……いい。やっぱりなんでもない」

「は?」


 なんなんだよコイツ。なんか文句でもあったんじゃないのか?

 俺は深い息を吐く。

 スマホで時間を確認すると、もうすぐで午後二時。膝枕タイムはもう終わりにしてもいいよな? かれこれ一時間は経過したぞ。


「そろそろ勉強するぞー」


 本来の目的であることを進めなければいけない。時間は無限にあるものでもないからな。

 やれる時にやってこそ、後に結果はついてくるし、後悔もする事はない。


「やだ。まだしない」

「なんでだよ。十分に満足しただろ?」

「やだったらやーだ! もう少しだけこのままにさせて」

「ったく……じゃあ、あと五分だけだからな?」

「三時間!」

「アホか。夕食時間になるだろーが」

「チッ……ケチ」

「舌打ちすることでもないだろ……」


 親が結構な曲者だっただけにこれまで“甘える”ということをしてこなかったのだろう。それが今となって反動として現れている……俺はそう思っている。

 ただ、甘える相手はちゃんと考えようね!

 俺に甘えられても困るし、危うくハートを奪われそうになったからな……。性格はあれだが、散々言っている通り顔は一級品。可愛い仕草とか見せられたら、俺みたいなモブはもう、ね?

 結局、鎌倉に来てまで俺は何をしていたのだろうか?

 本来の目的というものが少し疎かになってしまったことを残りの五分間で反省した。

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