第47話
暑い日差しの下、時間が経つにつれ、海水浴場は多くの人で賑わいを見せている。
俺たちが来た当初はまだ海の家も開店準備中だったが、正午に近い今となっては飲み物や食べ物を求めて、長い行列ができていた。
よくこんなクソ暑い中で並ぶ気になれるな。俺だったらすぐ近くのコンビニまで歩くぞ?
実際にコンビニまでは徒歩五分もかからない程度。そこで飲み物やら適当な食べ物を買って戻れば、往復でも十分弱くらいで済むと思う。
まぁ、海の家にしかない何かしらの魅力的なものがあるのだろう。
そんなことを思いながらも、こんな時でも執事服を着用したままの林田さんと一緒にお茶を嗜む。
いつの間にか用意されていたテーブルとイスに腰を落ち着かせながら、鎌倉から眺める海をのんびりと眺めていた。ついでに滅多にお目にかかれないおっぱいも。
「今回の旅行はどうでしたか?」
「どうって……いろいろあったとしか」
決して楽しかったとは言えないだろう。初日から波乱な展開へと突入して、二日目は綾小路とよくわからん陽キャの婚約をめちゃくちゃにして、正直精神が相当擦り切れてしまった。普通、旅行と言えば、肉体的・精神的疲労をリセットする目的で行われることもあると思うが、これに関してはまったくの真逆だった。さっきはさっきで修羅場だったしな。ほんと俺って人生そのものが呪われてたりするのか? それとも今が悪い事ばかりで後々いい事ばかりがくるとか? ほら、よく悪い事といい事は人生で同じくらい起こるって言うじゃん? たしか中国のことわざで「人間万事塞翁が馬」とか言うんだったかな? 知らんけど。
俺は麦茶を一気に飲み干した後、コップをテーブルの上に置く。
カランカランとまだコップの中に残っていた氷が鳴り響くと同時にあまりの冷たさに頭がキーンと痛む。
「結局のところ、林田さんはどっちの味方だったんですか?」
一応、綾小路に仕えているとはいえ、雇い主はあの父親のはずだ。
それなのに雇い主の意に反してまで俺に何かと動いてくれるよう働きかけていた。
もしその事実が見つかってしまえば、林田さんはタダでは済まなかったはずだ。
リスクを負ってまでやったという事は、やはり綾小路のことを思ってのことなのだろうか?
林田さんは一度も視線をこちらに向けることなく、大海原を見つめながらゆっくりと口を開く。
「……私はお嬢様の幸せを願っておりますので。例え、旦那様にバレてしまったとしても生い先が短い私からしてみれば、怖くはありません。だからこそ、田代様に賭けてみようかなと思いました」
「俺に、ですか?」
「はい。あなたが本当に相応しい相手がどうか」
「……それはつまり、家庭教師でってことですか?」
すると、林田さんはクスリと小さく吹き出す。
「さぁ、どうなんでしょうかね?」
「?」
「まだまだ、あなた方二人の行く末が楽しめそうですなぁ〜」
最後は何を言っているのかわからなかったが、おそらく相応しい相手である事は認めてもらえたようだ。
残り一日。明日の朝、帰宅予定となっているから、最終日こそは勉強もそうだが、充実させた旅行にしたい。
「麦茶のおかわりいかがですか?」
「あ、いただきます」
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