第46話
朝の由比ヶ浜は意外にも人は少なかった。
天気もいいからこれからどんどん増えて行くのだろうかと思いつつも、適当なところにシートとパラソルを立てる。
海へ来たのは果たしていつぶりだろうか?
最後に残っている記憶で言うと、俺が幼稚園の年長くらいの時。家族で近くの海水浴場へ行ったきりだったはずだ。
一応、学校での授業などを通して泳げることはできるが、久しぶりすぎて広大な海に対しての恐怖感が多少ある。
何はともあれ、だいたいの海水浴場では安全に遊泳ができる網が張られているから、それ以降に行かなければ、死ぬことはまずないだろう。
と、言っても泳ぐ気はさらさらないんだけどさ。
「って、なんで海に来てまで勉強してんのよ!」
ビキニ姿になった綾小路が手に持っていた参考書を取り上げる。
「いや、別に海で何しようが俺の勝手だろ」
「いやいや、だとしても海なんだから一緒に泳いだりしようよ! ね?」
綾小路が無理やり俺の腕を引っ張り、立たせようとする。
こんな時にまで勉強というのはたしかに一理はあると思うが、だからと言って二人で何をしようと言うんだ? ただ泳ぐだけにしても絶対にすぐ飽きるだろ……。
こういう時にこそ、小動物系本田さんがいたらなぁ……と、思った矢先だった。
どすんっ!
何かが俺に向かって飛び込んできたかと思いきや、
「たしろ〜ん♪ お久しぶりのたしろん」
頬をすりすりしてくる聞き覚えのある声。
「ほ、ほほほほ本田さん?! な、なぜここに……?」
綾小路の表情は引き攣っており、変に動揺していた。
「と、とりあえず一旦離れようか。な?」
「やっ。ずっとこのままがいい……」
数日間会わなかっただけで随分と甘えん坊になってしまったなぁ……。
一体、本田さんの身に何があったというのだろうか。
「裕太くんも嫌がっていることですし、いい加減離れてくださいっ!」
綾小路が強引にも引き剥がしてくれたおかげでなんとか解放された。
それにしても……ほんと本田さんはぺったんこだなぁ。何がとは言わないけど。
「なんであなたがここにいるんですか!?」
「家族旅行でたまたま鎌倉に来た」
「たまたまでそんな偶然がありますかっ!」
「ある。ほら、実際に起きているのが何よりも証拠」
相変わらずの無表情のまま、また俺に擦り寄ってこようとしてくる本田さん。
それを阻止しようと俺の前に立ち塞がる綾小路。
なんやこれ? 俺は今、どういう立ち位置にいるんだ?
修羅場と言えば、そう見えなくもないが、俺たちは決してそういう関係性では……
「おっ? そこにいるのは田代くんじゃ――ッアアン?!」
ややこしい場面で本田パパがご登場!
そうだった。本田さんの両親には“婚約者”として認知されていた!
「田代くん……茜がいるというのに、別の女の子を引き連れて旅行だと……?」
鬼気迫る形相で迫ってくる本田パパ。
「い、いえ、こ、これは誤解、と言いますか……」
「誤解も何もないやろがあああああああああああああ!」
「ひいぃぃぃぃぃぃぃっ?!」
なんで俺、怒鳴られなきゃいけないの?
「ちょっとパパ落ち着いて」
と、本田ママもご登場。やはり本田さんの遺伝の元もあって、見た目が完全に中学生。なんなら親と子どもにしか見えない。
「田代くんにも何か事情があるのよ。ここは当人同士で任せましょ? どろどろとした昼ドラ感もあって面白そうですし……」
うふふと一人だけこの状況を楽しんでいた。
「当人同士で問題を――」
「パーパ。わかりましたか?」
「……はい」
一瞬、本田ママに殺気らしいものを感じてしまったのだが気のせいだろうか?
あれだけ熊のように見えた本田パパは今となってはしゅんと項垂れた犬のように見える。本田ママにずるずると引きずられながら自分たちのシートへと戻って行った。
一方でもう一つの修羅場はまだ終わっていない。
「いいでしょう。そこまで言うのであれば“裕太くんを懸けて”勝負しましょ! 勝った方が裕太くんと一日デートができる。それで文句はありませんね?」
「望むところです」
なんの説明もないまま、美少女二人による俺を懸けた熱き戦いが始まるようだ。
【あとがき】
宣伝なのですが、先日報告した他サイトでの契約について本日無事に終わりました。今は英語版しかなく、アプリは一応ありますが、『Dreame』というところで『ずっと好きだった幼なじみに告白したら、フラれてしまったのでイケメンになって見返そうと思います』がまだ2話ではありますが、掲載されていますので是非ともフォロー・ブクマの方をしていただけたらなと思います。私のペンネームである『黒猫』で検索かけていただいても出てくるかと思いますので是非ともよろしくお願いします。
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