第45話
初日と二日目が潰れてしまったということもあって、気がつけば今日が最終日。
ろくに勉強もしていなかったからこの日こそはみっちりとしごいてやろうかと思っていたのだが、
「やだ! 海行きたい海行きたい海行きたいっ!」
「お前、いつから駄々っ子になったんだよ……」
朝食を済ませ、さっそくリビングで勉強会でも開こうかとした途端、綾小路はソファーの上でじたばたし始める。
「せっかく鎌倉に来たんだよ!? 由比ヶ浜だよ? 新しい水着も買ったんだし、海に行かないと私死んじゃう!」
「安心しろ。海に行かなかったくらいで死ぬやつなんて全世界探したっていないし、医学的な関連性もないから」
「いや、でも私は行く。そして裕太くんも一緒に」
「なんで俺もなんだよ。てか、水着なんて持ってきて――」
「それなら安心して。林田持ってきて」
「かしこまりました」
家事をしていた林田さんは綾小路の指示によって、リビングから出て行ったかと思いきや、ハンガーラックを押して戻ってきた。
「……って、どんだけ用意してんだよ」
林田さんが運んできたハンガーラックには、ゆうに五十着以上もの男性用水着がかけられていた。
「ふっふっふ。裕太くんに似合いそうな水着を昨晩のうちに調達してきたわ」
胸を逸らしながら、自慢げな表情を浮かべている綾小路。
そこまでして俺と海に行きたいのかよ……。
なぜ俺となのか……その真理というか、企みがありそうでなんか怖い。
ここはやはり断っておいた方が身のためになりそうだ。どことなく嫌な予感もしているし。
「用意してもらったところ悪いが、やっぱり海は遠慮しておくわ」
「なんで!? 気に入った水着がなかったとか?」
「いや、そういうわけじゃ――」
「わかったわ。では、こうしましょう。海に行くのであれば、ボーナスとして十万円あげます。これで手を打たない?」
「じゅ、十万……」
たった海に行くだけでそんな大金がもらえるというのか……?
だが、それだけ大金を用意するということは何かしらの裏があるに違いない……。
…………。
「よし、わかった。今すぐ海に行こう」
海に行くだけで十万貰えるなら、真面目に考える必要なんてないよな!?
俺はハンガーラックから適当な海パンを一枚選んだ後、リビングをそそくさと出て行く。
「ほんとお金のことになるとチョロいんだから……まぁ、そこも裕太くんのいいところではあるんだけれど」
「なんか言ったか?」
「いいえ、それじゃあ、海へ行きましょ」
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