第65話
夏休みが明けてからの一週間はあっという間に過ぎ去っていた。
朝から雲ひとつない青空が広がり、気温もぐんぐんと上昇を続けている。
学校のグラウンドにはたくさんの簡易テントが貼られ、その中には体操服へと着替えた生徒たちが談笑を交わしていた。
とうとうこの日がやってきた。俺からしてみれば、悪夢のような一日が……。
「何この世の終わりみたいな顔をしているのよ」
「イテッ」
綾小路に軽く頭を叩かれてしまった。
多少痛む患部を手で抑えつつ、俺はため息を吐く。
「そりゃあ、運動もできるお前からしてみれば体育祭なんてどうってことないと思うが、体力のない俺からしてみれば生き地獄なんだよ」
「大袈裟ね。体育祭と言ってもほとんどがテント内で観戦するくらいじゃない。実際に参加する種目でみれば二つ、三つくらいしかないでしょ?」
「それはまぁ……そうだけど」
そう考えると、楽なのかもしれないが、この猛暑日。
例え、日陰があるテント内だとしても体感温度的には優に三十度を超えてくるだろう。
こまめな水分補給さえしていれば、熱中症になることもないと思うが、それでも長時間に及ぶ外での活動はかなりハードだと言える。
「とりあえず気を落とすことはないわ。こういうのは時間が解決してくれるから」
「いや、具体的な解決策になってないんだが……」
地頭はいいはずなのに時々見せるポンコツなところは否めない。
「そう言えば、本田さんはまだ来てないのか?」
もうすぐで開会式が始まろうとしているのに姿が見えない。
テントはクラスごとに配置されているため、来ているのであればすぐに見つけられると思うのだが……。
「知らないの? 本田さんなら保健委員だから本部側の方にいるわよ?」
「そうなのか?」
一瞬、本部側の方に視線を向けるが、視力が微妙に弱いためまったく見えなかった。
「それより早く入場口に移動しましょ?」
「あ、ああ、そうだな」
綾小路は俺の手を取ると、颯爽に入場口へと駆け出す。
頭に巻かれたハチマキの帯とポニーテールされた髪が同時に揺れ動くのを目の当たりにしながら、ふと考える。
――なんで俺、綾小路に手を握られてるんだろう。
側から見れば、青春を謳歌しているように見えるかもしれない。美少女に手を握られる……シチュエーション的には悪くないな。うん、シチュエーション的にはね!
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