第24話【改稿済み】

「おはよ……って、どうしたのその顔?」


 朝、学校の教室に登校するなり、俺の顔を見て、ぎょっとしたような表情になる綾小路。

 俺は特に気にすることもなく、ひとまず自分の席へと向かう。


「なんか、いつにも増してやつれているような感じがするんだけど……?」


 俺って普段からそんなに不健康そうに見えてたのか? 初めて知ったんだけど。


「ちょっと寝不足でな……」


 カバンを机の横に引っ掛けると、すぐさま上体をうつ伏せにする。

 二日連続での寝不足はさすがに体に堪える。一睡もできなかったということもあってか常時ふらふらするし、頭の回転も覚束ない。正直、学校を休みたい気分ではあったが、一日休んでしまうだけでもだいぶ勉強が遅れてしまう。ただでさえ、友だちのいないぼっちだ。ノートを貸してくれるような関係は…………いや、いたか。本田さんが。あ、でも、俺が休むと言えば、「看病する」とか言い出して結局いないも同然か。

 そんな俺の様子を見て、呆れたのか綾小路は短いため息をつく。


「何か悩み事でもあるの?」

「悩み事はまぁ……」


 昨晩寝付けなかった理由とは少し違うが、本田さんに俺たちの関係がバレてしまったということが今の悩みだ。

 このことを綾小路に打ち明けるべきか否か……。もし打ち明けたとしてのメリットやデメリットなどを慎重に考えなくちゃいけないし、期末考査前に新たな悩みの種が出来てしまったのは非常に重苦しい。とりあえずは黙っていく方向ではあるが、いつバレてもおかしくはない状況だ。

 誰か相談できる相手がいればいいのだが、生憎俺にはいない。散々言ってきていると思うが、ぼっちである以上、何か問題が起こってしまえば、ほとんど一人で解決していかなければならないし、それが孤立というものだ。

 それに一番相談しづらい相手が目の前にいるしな。

 俺は綾小路が口にする前に先手を打っておくことにした。


「悪いが、一人にさせてくれないか? 考え事をしたいんだ」

「そう、わかった」


 周りがいつもながらに騒がしい中、綾小路は自分の席へと戻っていく。

 ――あいつには少し悪いことをしたか……?

 どこか気遣ってくれている雰囲気もあったし、その部分だけを見ると以前よりかはだいぶ打ち解けあってきたのかもしれない。まだ完全に心を開いて、みんなと同様に優しく接してくれる、というわけではないと思うけど。

 とにもかくにも朝のSHRまで十分程度時間がある。通常なら、この短時間でも勉学に費やしているところだが、今はそれどころではない。眠い。非常に瞼が重たい! ちょっとした時間だけでも今は睡眠の方へ費やした方が自分のためだ。



 二限目の授業は体育だった。

 外は大雨ということもあって、今日は体育館でのバドミントンとなったわけだが、どうして個人でできるような競技がないんだろうか?

 何もかも二人以上でやるようなものばかりで一人でできるようなスポーツといえば、あまりない。強いていうなら跳び箱とか体操くらいだろう。

 ぼっちである俺からしてみれば、体育という授業が一番嫌なわけであって、大体の場合誰かしらとペアを組まなければいけない。普段ならサッカーならリフティングや壁蹴り、テニスなら壁打ちでどうにかなっていたが、今回ばかりはどうにもなるはずもなく。仕方なくではあるが、同じクラスの溢れ者である小田とシャトルを打ち合っていた。

 女子と混合ならまだ相手を選ぶことができたんだけどなぁ……本田さんとか。

 そんなことを思いながらも淡々と打ち合いをする。


「フハハハハ! 我が奥義を受けるがいい! ウルトラスペシャルメガトンアタッッッック!!!」


 小田はいつもながら厨二病を拗らせている。ネーミングの割にはふんわりとした放物線を描きながら、通常のスピードで俺の元へシャトルが返ってきた。

 本人からしてみれば、スマッシュを打ったつもりだろうが、素人である俺たちには打つことすら難しい。よくバドミントンの試合とかでみるあの弾丸のようなスマッシュ。どうすれば打てるんだろうね? いくらラケットを素早く振り下ろしても放物線を描いてしまうし……もしかすると卓球より難しい競技なのかもしれない。見た目に限らず。


「くっ……。我の奥義をいとも容易く打ち返すとは……ッ! さすが我が同胞。我が認めただけあるぞッ!」

「無駄口はいいから、さっさと打ち返せ」


 こんなところ先生に見られたらふざけていると勘違いされて、俺の内申点が下がりかねないぞ……。


「なぬ?! いつの間にシャトルが……?」

「お前が喋っている間に落ちたんだろうが」

「フハハハハ! 貴様もまさか奥義使いだったとはな……クックク。行くぞたしろおおおおおおお!!!」


 小田はそう叫びながら、シャトルを真上に放り投げると、ラケットを勢いよく振りかざした。

 前々から思っていたんだが、こいつは一体どんなキャラになり切っているんだ? 厨二病というものは基本理想の人物像というものが存在している。例えば、アニメのキャラクターとかもそうだ。憧れからかそのキャラが使っている技とかを真似してしまうことが多い。特に小学生の時とかやらなかったか? 傘を剣に見立てて剣舞をしてみたりとか。厨二病はそれの延長線……進化系と言ってもいい。

 小田の場合はおそらくオリジナルキャラなのだろう。自分の中で生み出した理想の自分。それがどう言った人物像なのかは少々気になるところではあるが、まぁ知ったところでどうってことにもならない。

 ――ほんとめんどくせぇ奴だ。

 ときどきキャラがブレていることもあるしな。こういうのは後々黒歴と化して、半永久的に苦しめられるんだろうな。


「フハハハハ! どうした!? 我の打ち姿に見惚れてたのか?」

「あ?」


 なんか変なことをほざいていた小田はともかくとして気がつけば、俺の足元にシャトルが転がっていた。

 寝不足のせいか、若干ぼーっとしがちである。いかんいかん。今は授業中だ。体を動かして眠気を飛ばさなければ。

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