第34話

 空港へ到着したのは午後十二時を過ぎてからだった。

 荷物を手にしてターミナルの方へと出ると、日本人、外国人問わず、たくさんの人々で行き交いしている。


「出入り口付近に車を用意しておりますので、さっそく参りましょう」


 林田さんの指示のもと、そのまま空港の外へと出る。

 目の前にはやはりと言うべきか、リムジンが停まっていた。


「どんだけリムジン所有してんだよ……」

「いえ、これはリースしたものだから正確には綾小路家のものではないわ」


 即座に否定されたが、それでもリムジンをリースって……。一日借りるだけでも結構するだろ。知らんけど。

 東京に来たということはつまりその近辺。水着を用意しているということは海が近くにあって、なおかつリゾート地としても有名な場所……とは限らないものの、その点を踏まえて考えれば、自ずと行き先は思い浮かんでくる。


「なにぼーっとしてるのよ。早く乗りなさい」

「あ、ああ、すまん」


 気がつけば、隣にいた綾小路はリムジンの中へと乗り込んでいた。

 俺も遅れて乗車したところでリムジンが走り出す。

 綾小路の表情を見れば、いつにも増して引き締まっている。

 ――本当にただの旅行、なのか?

 俺には到底そうは思えない。

 綾小路にも事情は少なからずある。

 きっと綾小路にとって何か重要な……それがなんなのかは当然、俺にはわかりかねない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る