第55話
花火大会が終わると、夜空はいつもの日常へと戻っていた。
会場になっていた河川敷沿いの道路は帰宅する人々で溢れ、夏の終わりを告げているようにも思えた。
これで夏休み期間に行われる定番イベントはすべて終わり。あとは二学期が始まるまでの残りわずかな日数を過ごすだけ。この一ヶ月半の間にいろんなことがあったけど、いい思い出になったと思う。誰かが「夏は儚いものだ」と言っていたようにまさにその通りなのかもしれない。クソ暑くて嫌だなと思うこともあったけど、こうして過ぎ去ってみれば、やっぱり夏はいいもだなと思ってしまう。別に夏だけに限らず、他の季節もそうなのだけどね。
でも、私にとっては今年は特別なものになった。“初恋”にして現在進行形で今なおも好きな裕太くんに出会えたから……。
彼と夏の思い出を作れたのはあの夏以来。鎌倉へ旅行に行ったり、先ほどのところで二人っきりで花火を見たり……あの頃の記憶がいっぱい蘇ってきた。
それなのに――どうして裕太くんは思い出してくれないのよ!?
これだけ思い出してアピールをしてたのにこの浴衣の柄だって、あの時と同じだからね!? わざわざ特注で作ったのよ? それにあの場所だって、元はというと裕太くんが教えてくれたんじゃない!
『僕の秘密の場所なんだ! 姫ちゃんには特別に教えてあげる!』
とか、純粋無垢な感じで言ってたくせに何が「それにしても草ボーボーすぎるだろ」だよ。初めて来ましたみたいな反応をしやがって……。
…………。
「どんだけ鈍感なのよ……バカ」
「あ? なんか言ったか?」
「何も言ってませーん。バカ」
「ああん? 誰がバカだコラァ!」
「うっさいバカ!」
「だからなんでバカって言われなくちゃいけねーんだよ……って、おい、逃げんな!」
彼がまだ私のことを思い出してくれないのは悲しくて寂しいけど、それでも今の関係性で満足している部分もある。
――この時間がもっと続けばいいのに……。
私には財力や権力がある。
他の人からはお嬢様という地位を羨ましがられたり、妬まれたりすることも常にある。
けど、私からすれば、羨ましいのはあなたたちの方。いくらお金があったり、権力があったとしても日常的な生活は送ることはできない。親の言いなりと言ってもいい。
私自身、こんな生活なんて嫌だ。財力や権力、お嬢様という地位さえも捨ててもいい。
その代わり……
“裕太くんが欲しい”
そう思ってしまうのは強欲すぎるでしょうか。
【あとがき】
やはり僕は八尺様にはなれなかったか……ぽぽぽ
っていうか、夏過ぎるの早くね? 僕、何にも夏の思い出ないんですけど……。
唯一の思い出と言えば……あとがきとかコメントの返信欄で「おっぱい」「ちっぱい」叫んでたことくらいですかね?ははは。
本作もいよいよ夏休み編が終了しまして、次回くらいから二学期。新たな刺客? ライバルがでるかもかもかも
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